インタビュー
» 2013年04月18日 08時00分 UPDATE

まつもとあつしの電子書籍セカンドインパクト:出版権提案、TPP交渉参加、絶版作品のダウンロード――福井弁護士に電子書籍を巡る著作権の現状を聞く(後編) (1/2)

2013年、電子書籍は新たな局面に直面していた――そんな変化の最前線を行く人々にその知恵と情熱を聞くこの連載。今回は、弁護士の福井健策氏に、TPPや米国での保護期間「短縮」提案、文化庁 eBooks プロジェクトの意義について伺います。

[まつもとあつし,ITmedia]

 KindleストアそしてiBookstoreが日本でもスタートし、電子書籍は新たな段階に入った。端末やサービスにも引き続き注目が集まるが、過激な言い方をすれば従来のシステムの「破壊と再構築」はこれからが本番だ。この連載はそんな変化の最前線にいる人々に話を聞くものだ。

 今回は、動きが激しさを増している出版と著作権を巡るトピックスについて、弁護士の福井健策氏へのインタビュー後半をお届けする。本稿では、TPP交渉参加と著作権の関係、そして氏が中心となって進められた「文化庁 eBooks プロジェクト」について振り返ってもらった。前編と合わせてご覧頂きたい。

福井健策(ふくい・けんさく)

福井健策

弁護士(日本・ニューヨーク州)骨董通り法律事務所代表パートナー 日本大学芸術学部客員教授

1965年生まれ。神奈川県出身。東京大学、コロンビア大学ロースクール卒。著作権法や芸術・文化に関わる法律・法制度に明るく、二次創作や、TPPが著作権そしてコンテンツビジネスに与える影響についても積極的に論じている。著書に『著作権の世紀 ――変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)『「ネットの自由」vs.著作権』(光文社)などがある。Twitterでも「@fukuikensaku」で発信中

骨董通り法律事務所Webサイト


TPPと知財――「グローバルスタンダード」というマジックワード

福井健策弁護士 福井健策弁護士

―― 経団連の提言には「米国には出版者に著作隣接権のような特別な権利が付与されているという事実はない」とする補論(著作権法・ビジネス慣行の日米比較)が添えられています。TPP交渉参加が表明された中、出版者の権利など知財がどのような影響を受けるのかも気になるところです。

福井 TPPについては私たちも3団体で提言を行っていますが、出版者の権利問題がTPPの影響を直接受ける可能性は低いでしょう。前回申し上げたとおり、経団連提言は大変評価できるものです。ただ、ひとつ気になった表現があります。

 それは「グローバルスタンダード」という概念の使われ方です。基本的に日米比較で語られている。ビジネスのグローバル化と言いながら、比較されているのは米国の出版ビジネスだけです。では米国と日本の出版ビジネスを見比べたときに、米国が、より豊かな出版文化を紡ぎ出してきたのだろうかと。

 米国は無論良い点もありますが、従来の出版事情についていえば「高い」「入手しづらい」「製本悪い」のイメージもぬぐえません。わたしは出版文化については、日本も結構優れていたと思うんです。まあ功罪あるのですが取次という制度があって、長らく全国津々浦々に本屋さんがあり、多種多様なジャンルの文庫本や新書といった、装丁も良質で廉価な商品があった。文庫・新書とペーパーバックでは雲泥の差ですね。何だあの紙は、そりゃ米国の読者は電子書籍に行くよねと(笑)。逆にいえば、それが米国のような電子書籍の急速な普及が日本で再現されない1つの理由かもしれない。

 これは知財全体でいえることですが、日米ではそもそもの文化やコンテンツ産業のあり方が違う。日米比較で米国を基準としなければならない、というわけではないだろうと思います。

―― 隣接権の問題からやや離れてしまうかもしれませんが、TPP交渉参加による影響はいかがでしょうか?

福井 現状グレーでそれなりに機能してきた領域が狭まっていくという懸念があります。知財については、「非親告罪化」「法定賠償金の導入」「著作権の保護期間の延長」が挙げられます。これまであいまいで済まされていた事柄を裁判や契約で明確にしていく方向に力が働く。知財とともにそのビジネスの在り方まで米国化する可能性は高まりそうです。


―― 安倍首相は「聖域を認めさせた」と述べていますが、知財分野が交渉から除外される余地はあるのでしょうか?

福井 この段階では低いと言わざるを得ません。国内メディアでは農業や自動車ばかりが取り上げられますが、米国にとって知財は産業規模からも最優先事項だからです。

 ただ日本以外のTPP交渉参加国は知財について相当重視しています。ニュージーランド、マレーシア、ベトナム、チリは特に知財で米国と対立していますし、チリは交渉離脱を匂わせたこともあります。そこにカナダとメキシコが入ってきた。カナダは著作権の期限50年を堅持しています。国内も知財の保護か流通促進かの激論が交されており、米国と一枚岩ではありません。保護期間100年のメキシコも、米日主導の知財強化だったACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)については、議会で大反対が起こりました。ACTAの内容はTPP知財に比べればマイルドだったにもかかわらず、です。

 これだけでも、もう過半数の6カ国。むしろ最近の報道では知財で米国孤立というものもある。そこに日本が参加する。まっとうな国際交渉ならば、知財条項の中には日本に有利なモノもあるけれども向かないモノも多い、という是々非々の姿勢で入っていくはずです。ただ、いまの政府がどこまでそうできるか懸念がありますが……。仮に日本を含む多くの国が知財について慎重な姿勢を示せば、米国としては知財条項のある程度は落としてでも、オバマ大統領の悲願であるTPP成立を目指したいということになるはずです。つまり交渉の余地は十分ある。

 日本は韓国などと異なり、コンテンツに関して国内市場だけでも経済圏が成立する希有な国です。外への「攻め」と国内市場の「守り」のバランスを図るのは当然ですね。本当は、私たちが提言しているように、それをオープンな場で議論できれば理想的ですが、完全な公開協議はなかなか難しいでしょう。そうだとしても、国内影響の読めない非親告罪化・法定賠償金の導入・著作権の保護期間の延長などを落した上で、海賊版対策を残すといった具合での交渉は十分検討されるべきです。

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