コラム
» 2013年02月28日 14時00分 UPDATE

エージェンシープライシングはなぜ生まれたか? 書店を守るため (1/2)

マクロな視点でエージェンシープライシングモデルを考えてみると、そこには書店の存在が大きな意味を持っていることが分かる。ここでは、世界的な書店の動向を紹介しながら、今後起こり得るシナリオを予測してみよう。日本でも長い目で見ればこうした動きに追従するのだろうか。それとも……。

[Michael Kozlowski,Good e-Reader Blog]
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 電子商取引の巨人Amazonは、ここ5年で確実に電子書籍市場の大多数を獲得した。Appleが2010年にiBooks Storeの立ち上げを決定したとき、同社は競合するための売りを必要としていた。スティーブ・ジョブズ氏はHachette、Macmillan、Penguin、Harper Collins、Random House、Simon & Shusterの重役と会合し、市場の均衡を図り、すべての再販者が従う必要のある電子書籍プライシングを設定するスキームを考案した。これによりAppleの新電子書籍ストアは勢いを得て、中小小売企業はAmazonと同じ価格設定を行うことができるようになった。米国司法省はこの談合を例外とし、長期に渡る訴訟が引き続いて発生した。1社ずつ、すべての出版社が法廷外での和解を選択し、AppleのみAmazonに対する法廷闘争を繰り広げている。

 Amazonは長期間、電子書籍市場をコントロールし、競合よりも安く電子書籍を提供することで他社を潰してきた。電子書籍をバルク買いし、原価以下で販売することで、大手出版社を苛立たせた。人々は「電子書籍を9.99ドルで購入できるのに、なぜハードカバーに30ドル払わなければならないのか」と問いかけ始めた。

 市場の新企業はAmazonに立ち向かうために逆ざやで書籍を販売する余裕がなければならないのだろうか。小規模のスタートアップ企業が、市場に留まるため電子書籍をバルク買いするのに十分な資金を持ち合わせているはずもない。Appleはヒーローを演じており、法廷で和解する意図はなく、同社がふさわしいと考える方法でビジネスを行う権利を有すると述べている。

 欧州および米国の司直はエージェンシーモデル全体としては問題ではなく、そのモデルの設定プロセスが問題だと述べている。欧州委員会の競争ポリシー担当副委員長、ホアキン・アルムニア氏は「それぞれの出版社と電子書籍の小売企業には自社が好むビジネス上の関係を選択する自由がありますが、競争を制限し排除するあらゆる談合を受け入れることはできません」と話す。Appleは価格固定カルテルを設定したと考えて差し支えなく、欧州では違法、米国でもほぼ違法とされている。

 2013年時点で、エージェンシープライシングモデルはほとんど死に絶えている。6大出版社のほとんどはAmazon、Barnes & Noble、Apple、Koboと再契約を行った。電子書籍は再び表示価格の15%まで値引きできるようになったが、以前ほど価格に大きな差はなくなっている。これは一部は電子書籍業界全体が短期間で成長したことに起因する。業界全体では2012年に8億5400万ドルを売り上げ、多くの出版社は売り上げの20%程度を電子書籍から生み出している。

 エージェンシーモデルが導入された本当の理由をご存じだろうか。Appleが大手企業を1カ所に集めるに当たって小さな役割を演じたのは確かだが、大手出版社が導入に踏み切ったのはAppleをサポートするためでも、Amazonを止めるためでもない。本当の理由は、誰も口にしないが、極端に値引きされた電子書籍が電子書籍対紙書籍のコストに関する世間一般の認識を破壊するからというものだ。

 大手出版社は紙書籍よりも電子書籍の方が極端に安いと一般認識されると、紙書籍は売れなくなるという見解で一致していた。電子書籍価格について理解を共有しておくことで、大手出版社は紙書籍と電子書籍の価格を支配し、書店の生き残りを確実にできる。残念ながら、大手出版社が守ろうとした書店を救うのにその決定は遅すぎた。

現代の書店の死

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 Bordersは40年前にミシガン州アン・アーバーに最初の店舗を開設した。本の販売と出版の世界は非常に異なっており、業界全体が何を間違ったのかについてのケーススタディになる。1990年代にBordersチェーンは売り上げの減少に見舞われ、CD販売のてこ入れを決定した。これは初代Apple iPodが発売されたのと同じころで、顧客は電子領域へ軸足を移そうとしていた。Bordersのビジネスはメディア販売向けに拡張され、利益を生まず、同社の重荷となった店頭で行き詰まった。

 Bordersは起ころうとしていた電子書籍革命全体について耳にし、起死回生をかけてAmazonと運命をともにすることを決めた。Bordersの電子書籍ページを訪問すると、AmazonのKindleページヘリダイレクトされた。これにより人々はすべてのコンテンツをAmazonから購入するよう促され、Bordersの売り上げにはならなかった。次に、Bordersは本の売上の一部を再販者に提供していたKoboへと鞍替えし、同社と米国での排他的流通契約を取り交わした。

 2011年までにBordersは倒産寸前となり、2011年末に破産宣告を行った。その原因となった理由の一部は、ライバルのBarnes & Nobleのように自前で電子書籍リーダーを開発しなかったこと、そして自前の電子書籍エコシステムを開発しなかったことによる。Bordersは代わりに低マージンのハードウェア販売に依存し、書籍売り上げの減少に直面した。Bordersが一斉に数百店舗を閉店したとき、電子書籍の売り上げが紙書籍を上回ったというニュースが駆けめぐった。

 Bordersが破産手続きを行う中、Koboと交わした排他的契約がおよそ1年半ほど宙に浮いた形となった。米国市場がKoboに開かれなかったのはそのためで、Kobo Wi-FiとKobo Voxを店頭に置く大手企業と法的にビジネスができなかった。これは書店が倒産し、電子書籍関連企業を道連れにした初めてのケースとなった。

 世界中で、大手書店チェーンが倒産している。Whitcoulls、Angus & Robertsonと親会社のREDgroupは2011年に全店舗を閉じた。オーストラリアのシェリー上院議員は「インターネット経由の書籍売り上げの劇的成長は間もなく首都に店舗を置く2、3の専門書店を残すばかりというところにまで来ています」と語った。「5年以内に書店は地図から消えるでしょう」とも予言した。

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