なぜ電子書籍リーダー/タブレット製造企業は失敗するのか

Good e-Reader Blogで過去5年、世界の電子書籍市場を追ってきた人間からみた「失敗のトレンド」とは?

» 2012年12月26日 15時33分 公開
[Michael Kozlowski,Good e-Reader Blog]
Good E-Reader

 筆者が電子書籍リーダーとタブレットPC業界についての記事を書き始めて5年。これまで多くの企業が栄光と衰退を味わった。失敗したすべてのベンチャーには憂慮すべきトレンドが共通しており、ほかの多くの企業も同じ運命をたどるかどうかの瀬戸際にある。こうしたトレンドを知ることで、うまく行けば失敗を避けられるかもしれない。

 Pandigital、Cool-ER、Endless Ideas、Entourage、iRexといった企業は販売とマーケティングの競争に敗れて、脱落していった。これらの企業が失敗したのは、平均以下のデバイスを提供していたからだけでなく、無能な上級管理職もその原因だ。

 上述した企業のうち、Entourge以外はすべて、中国から安価なデバイスを購入し自社製品としてリブランディングした。ほとんどの工場とOEM製造業者は主にローエンドデバイスをブランディングしており、最新ハードウェアを獲得するには大量注文が前提になる。

 筆者はAlibabaのようなWebサイト経由で中国の多くの工場および製造業者にインタビューを行った。その結果、1万台以下のオーダーでカスタムファーム、スプラッシュスクリーンを備え、レーザーエッチングが施された高性能デバイスを発注するのは一様に不可能で、より少ない最小注文数量なら非常にローエンドのタブレットになるという。失敗したほとんどの企業は、単純に、十分な処理能力とメモリを搭載した電子書籍リーダーやタブレットを購入するための資金がなかった。その結果、フラストレーションのたまるユーザー体験を与えることになってしまい、多くのユーザーが返金を求めてデバイスを返品せざるを得なかった。

 平均以下のデバイスを販売するのにマーケティングに頼る手法にいまだに執着しているのは失敗した企業だけではない。Velocity Micro、Ectaco、Pocketbook、Archos、Aluratek、Ramousなど多くの企業が数カ月ごとに新型タブレットや電子書籍リーダーをリリースする過ちを犯しており、売り上げは落ち込み続けている。これは主に損益分岐点に対して販売コストが高いことに起因し、対してローエンド市場を破壊するGoogle、Amazon、Kobo、Samsungが販売する最先端デバイスは高間接費を吸収できる。

 上記企業の唯一の救いとなっているのは小売流通チェーンだ。Velocity MicroはWalmartやほかの大手流通企業で最大の売場面積を確保している。これらの企業は新型電子書籍リーダーのトレンドを把握しているが、購入費用を節約したい平均的な消費者に依存している。そのほかの企業はオンライン販売に依存しきっている。

 Pandigital、Entourage、Endless Ideasなど短命企業の失敗の原因はメディアとマーケティングの間に溝があることだ。小企業は専門的なマーケティングとPRを採用するのに十分な資金を持たない。雑多なプレスリリースを発行したり、自社の公式ブログで自社製品について説明したりするだけだ。テクノロジー系のメディアの意見を聞くこともなく、それらのサイトでレビューしてもらうために自社製品を提供したこともない。確立された小売流通チェーンに頼り、数カ月ごとにリリースする新デバイスが成長源になることを祈るばかりだ。Entourgeについて少し詳しく言及すれば、同社はビジネスレベルで自社製品を教育施設に直接売り込むためのビジョンを持っていなかった。オンライン販売と口コミに頼ったが、同社は成功を収めることなく市場を去った。

 積極的にメディアやイベントでの支持を求めない企業は誰にも認知されておらず、結果的に無名のまま消えていく。AppleやAmazonのような製品発表会を開催する必要はないが、ニューヨークやサンフランシスコで製品発表を行えば地元およびオンラインメディアの関心を引くのではないかとすら思う。基本的な招待状を送付すれば、人々はスクープを求めてやって来る。米国拠点あるいは米国にサテライトオフィスを構えているにもかかわらず、失敗企業はそれについて熟考しなかった。レビュー用デバイスを送付し、(自分以外の人が)製品を宣伝しなければ、ビジネスは失敗する。メディアに支持を求めず誰もが目にするWebサイトで関係を構築しなければ、ビジネスは失敗する。シングルコア、デュアルコアCPUを搭載した平均以下のAndroidタブレットをリリースし続ければ、ビジネスは失敗する。確立された流通小売チェーンにマーケティングと製品プロモーションを頼れば、2年間はしのげてもビジネスは失敗する。

 中小企業はAmazon、Barnes & Noble、Kobo、Googleのローコストタブレットや電子書籍リーダー、そしてこれらのブランドの持つネームバリューと競合しなければならないが、成功する余地は十分にある。

 数年前にインドを拠点とするNotion Inkという小企業について耳にしたことがあるかもしれない。同社は、魅力ある製品こそ持たなかったが、非常にユニークな企業だった。Pixel QIコネクションという180度開店するカメラと最先端のデザインを大いに宣伝していた。

 Notion Inkの最も印象深い功績の1つは、膨大なバイラルメディアキャンペーンを行ったことだ。同社は自社ブログでハードウェアおよびソフトウェアレベルで開発プロセス全体を記録、寄せられる数万ものコメントに対応し、ユーザーからの提案を受け入れた。時には複雑なコードさえ投稿し、何を達成しようとしているかを広く公開した。同社の集中的マーケティングキャンペーンはオンラインの限界を超越し、CEOのローハン・シュラヴァン氏はCES、Computexなど多くの国際的技術イベントの常連となった。Notion Inkは関心を示したメディアに『Adam』デバイスを送付した。近年、同社は姿を消しているが、Adam 2の開発を以前と比較して淡々と行なっている。

 ここ数年、多くの企業がなぜ失敗するのかについて情状酌量の余地は十分にある。筆者は内部構造と事業計画の作用について知ったふりはしないが、これらの企業に直接何度もインタビューしたことがある。崩壊の原因は前記の通りだ。

 瀬戸際にあるすべての企業はビジネスを続けるために準備を整えなければならない。座して動かずに小売企業にすべての仕事をさせるだけでは十分ではない。マーケティングの手法は最強の組み合わせであることが非常に重要だ。

 タブレットや電子書籍リーダーを継続して教育機関、実業界、政府機関などキーとなるグループに販売しているなら、売り上げは好調かもしれない。最近、顧客はGoogleがNexusで提供しているような超高品質のハードウェア仕様に過度に甘やかされている。中小企業はタブレットと電子書籍リーダーがまだ新鮮なコンセプトだったころの3年前のように平均的顧客に訴求することはできない。ゲーム、映画、音楽をより楽しむにはより高い解像度と速い処理能力が必要という程度の知識は平均的ユーザーならすでに持っている。

 価格で大手企業の製品に敵わないなら、マーケティングキャンペーンで上回るか、新ビジネスモデルを開発するしかない。それが最後の手段だ。

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