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» 2012年12月26日 15時15分 UPDATE

僕らの知る「漫画」は衰退する? 漫画家3人が語る“デジタル×漫画”の未来 (1/2)

「絵に物語を付けるというスタイルはなくならない。でも、今の漫画はなくなるかもしれない」――Kindle初の日本語漫画を配信したことでも知られる漫画家・うめ氏はそう語る。電子漫画に造詣の深い3人の漫画家が、“デジタル×漫画”の将来を議論した。

[山田祐介,ITmedia]

 電子漫画には電子ならではの表現手法があり、突き詰めるとそれは今の「漫画」とは違うものになるのかもしれない――。電子書籍アプリ「電書カプセル」の発表も兼ねて12月7日に行われたイベント「電書カプセルNight!」で、「デジタルと漫画」と題したトークセッションが繰り広げられた。

 登壇したのは、ガイガーカウンターの使い方を解説する電子漫画『放射線の正しい測り方』を無償配信して話題を呼んだ鈴木みそ氏、2010年にKindle初の日本語漫画『AOZORA Finder Rock(青空ファインダーロック)』を配信した2人組漫画家「うめ」の原作担当・小沢高広氏(以下、うめ氏)、ブクログのパブーでデジタルならではの表現手法をふんだんに取り入れた『西遊少女』を販売している萱島雄太氏ら、3人の漫画家だ。デジタル技術によって変わる漫画制作の将来や、デジタル化によって漫画の表現手法がどう変わっていくのかなど、ボーンデジタルの漫画作品を手がけている作家ならではの議論が白熱した。

photo 左から、鈴木みそ氏、うめ氏(小沢高広氏)、萱島雄太氏。いずれも電子漫画の配信やデジタル環境での漫画制作を実践している漫画家たちだ

予言されていた「QUMARION」の登場

photo 鈴木氏が1995年に描いたという漫画の1シーンに、QUMARIONとそっくりな人形が

 トークセッション冒頭、「すごい漫画を見つけました」とうめ氏が紹介したのが、1995年に鈴木氏が描いた漫画の1シーン(『オールナイトライブ』1巻第1話収録)。そこには、当時から10年後の2005年を想定した、空想の漫画制作現場が描かれていた。

 その中で眼を引くのが、人形にポージングをさせると、同じポーズをCGキャラクターが取り、それが漫画の絵として使えるという内容。実は、同じようなコンセプトの製品が2012年、実際に生まれている。セルシスの人型入力デバイス「QUMARION(クーマリオン)」だ。この製品も、人形のポージングがそのままCGキャラクターのポーズに反映される。


photo 鈴木氏の想像を現実のものにした、セルシスの「QUMARION」

 鈴木氏はQUMARIONの存在を知るや、さっそく製品を購入して使ってみたという。漫画を「楽に描く」ためにデジタルを導入している同氏にとって、人形を使ってペンを動かさずに漫画が作れてしまう未来は1つの理想型でもある。QUMARIONについては、思い通りの操作が難しく、鈴木氏の期待ほどには作業が簡略化されなかったようだが、「『コミPo!』と一緒になってくれたらもっと使いやすくなるはず」と話す。

 この「コミPo!」とは、3Dキャラクターを動かして漫画を作れるソフトウェア。最近では、ダ・ヴィンチ・恐山氏の『くーろんず』など、同ソフトを使った商業作品も生まれている。鈴木氏がかつて思い描いた“ペンを使わない漫画制作”は今、あながち夢物語ではなくなっている。

 さらに鈴木氏は、こうしたデジタル技術により漫画制作のハードルが下がり、クリエイターが増えることで、“親子”の関係を持った作品の広がりが加速すると予想する。オリジナルの作品を素材のように利用し、新たな作品を別のクリエイターが生み出していく――そんな同人の2次創作のようなムーブメントが、より市民権を得ていくというのだ。

 「こういうことは(著作権的に)今はグレーだと言われているが、もっとオープンにしていけばいい。技術が進化すれば、絵の作風とかもコピーできるようになるはず。いい作品を作れば、たくさんの人が集まって別の作品を書いてくれるようになる」(鈴木氏)。親作品と子作品が持ちつ持たれつの関係を作り、共栄できる未来を鈴木氏は思い描いている。

僕らの知る「漫画」は、いずれなくなる?

 そんな議論の中でうめ氏は、漫画家が今後「“何屋”と呼べるものになるのか分からない」と話す。「絵に物語を付けるというスタイルはなくならないと思う。でもかつての黄表紙(江戸時代の絵本)がなくなったように、今の漫画はなくなるかもしれない。もしかすると僕らが生きているうちに、そうした変化が起こる可能性もある」(うめ氏)

 漫画を取り囲むデジタルの波は、制作現場以外にも広がっている。紙の漫画が続々と電子書籍化されているのもそうだが、紙ではなく“画面”で見ることを前提とした、新しいタイプの作品が生まれているのだ。こうした作品には、紙の文法とは異なる演出手法が存在することを、うめ氏は指摘する。「Webで面白かった作品を紙に印刷したらショボく見えたということが何度かあった。紙とデジタルとでは何かが違う」(うめ氏)。そして、「逆に、KindleやWebで作品を公開するというときに、果たして紙のままの文法でいいのか」と疑問を投げかける。

 ボーンデジタルの電子コミックを製作する萱島氏は、デジタルならではの表現を模索している漫画家の1人。『西遊少女』では、Webの文化に合わせたスクロール画面で作品を構成し、独特の表現を取り入れている。

 例えば、スクロールしないと見きれないほど縦に長く風景を描くことで、カメラがパンしたかのような雰囲気を出す――といった具合だ。紙の漫画ではおなじみのコマとコマとの余白も、縦スクロールの画面では「悪目立ちする」(萱島氏)と考えてなくした。また、作品は「スマートフォンでもちゃんと読める」ことにこだわり、画面が細かくなるコマの縦割りは行わず、文字の大きさにも気を配っているという。コマの縦割りがない分「短調になりやすい」(萱島氏)ため、配色でリズムを作っているのもこだわりだ。

photophoto 無料公開されている『西遊少女』1号。スクロールとともに空から地表へと風景が流れ、主人公たちが乗る車が現れた

 作品を見た鈴木氏は、「僕らは紙が前提だから、見開きで右上から始まって左下で終わって、ページをめくると次に何が待っているか、という文法で作る。でも『西遊少女』はそれとは文法が全然違う」と舌を巻く。一方うめ氏は、同作品が取り入れている、色数の抑えられたベタ塗りの彩色が、デジタル漫画に適しているという推測を語った。

 うめ氏は2011年6月に、IT業界で活躍した“2人のスティーブ”の若き日を描いた漫画『スティーブズ』をブクログのパブーで公開したが、この作品は制作コストなどの問題もあって絵を簡素化したという。しかし、「ビューだけで20万ページビューぐらいで読まれた。ファイルのダウンロードも含めたら30万ぐらい行っているかも」と、好評を博した。うめ氏は反響を受けて、簡素に済ませた絵が「逆に正解だった」と感じているという。描きこみすぎないシンプルな表現の方が、画面では見やすいというわけだ。

photo パブーで公開されいる『スティーブズ』。横長の原稿に少なめのコマ。セリフも大きく見やすい。確かにこれなら、iPhoneを横持ちしてサクサクと読めそうだ。海外配信も視野に、セリフが横書きとなっているのもポイント

 ところで、うめ氏はこの『スティーブズ』の続編を描くために11月から、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」でパトロンを募集している。ネットユーザーから支援金を募り、支援者に対して「連載4カ月分の無料購読」など支援金額に応じたさまざまなリターンを用意しているのだが、目標額の50万円を「2、3時間」でサクセスしてしまったという。

 『スティーブズ』の成功の舞台裏なども語られつつ、議論は“デジタル時代にどう漫画家が食べていくのか”といった方面に向かっていった。

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