還元。そしてニコニコできる創造の世界へ――niconicoが電子書店になる本当の理由(2/3 ページ)

» 2012年11月02日 13時00分 公開
[山田祐介,ITmedia]

ユーザーが安心して創作できる場を作っていく

photo 伴氏

 「今日現在始まったサービスは、出版社さんとガッチリと一緒になってやらしてもらう取り組みです。しかし、そうじゃないアプローチもチャレンジしていきたい」――そんな思いも伴氏は語ってくれた。「詳しい計画は話せない」が、ユーザーが自分の作品を発表し、お金を得られるような手段を準備していきたいという。

 「クリエイターが創作することでご飯を食べられるようにするためのいろいろな一手が、これから数年ぐらいかけて続いていきます。1つ1つの施策がつながっていて、『そこでそうつながるか』という話がでてくると思いますよ」(伴氏)

 その手がかりは、ニコニコ超会議にあった。ニコニコ静画は超会議で“人気絵師”たちのイラストTシャツを販売した。運営の予想をはるかに上回る反響があったというが、この企画には「同人即売会の原点のような楽しさ」を「作家側のリスクと手間をなるべく減らして」実現したいという意図があった。

 「同人誌を作るのって、内容を用意するだけじゃなく印刷コストも自分で持たなければいけない。それが楽しくもありますが、今回はそういうリスクをスパッと切って、“オーダーがあれば運営がその場で印刷します”という仕組みを試してみた。お金はどこも儲からないようになっていましたが、今後はクリエイターさんに還元できる形で何かを検討してもいいかなと思ったんです」(伴氏)。ニコニコ静画に投稿されたイラストや漫画が、「紙」や「グッズ」、あるいは「本」として手元に残る――そんなサービスが生まれる可能性も筆者は感じた。

 一方で、出版社とクリエイターとの橋渡しや業界全体への貢献も、継続して進めるミッションだと伴氏は強調する。「自分たちでビジネスを囲いこみたいということではない」(伴氏)。こうしてさまざまな視点から創作文化を支援し、世の中で“ニコニコ的文化”が許容される空気を作っていきたいという。

 では、ニコニコ的文化とは一体何か。重要なものの1つに、2次創作の世界がある。niconicoで「初音ミク」や「東方Project」がヒットしているのは、2次創作が許可されていることが大きい。「イラストを描く方々は“描いていいのか”という問題に対する意識が高い」と伴氏は話す。逆にいえば、“描いていい”という世界や場所を用意していくことで2次創作は盛り上がり、niconicoも活気づく。実は、ニコニコ静画(電子書籍)に「イラストPOP機能」が用意されたのには、そんな背景もあるようだ。

photo 書籍の紹介ページにはイラストPOP機能が用意されている

 イラストPOP機能は、ユーザーがニコニコ静画に投稿したイラストなどをニコニコ静画(電子書籍)にある作品の“POP”として登録できる機能。出版社からイラストPOP機能の搭載について許可が得られた電子書籍作品のページには、ユーザーが投稿したPOPが表示されるようになっている。こうした機能を設けることで、ファンが安心して自分の好きな作品を“応援”できる環境を整えた。また、ニコニコ静画の中でもアクセス数の多いイラスト投稿サービスからユーザーが回遊することで、「エッジな投稿があれば本当にPOPとして機能する」と伴氏はみている。

 将来的に著作権の問題などをクリアし、2次創作で“みんながニコニコできる仕組み”が作れれば、同人誌をニコニコ静画で展開することも検討したいという。乗り越えなければいけないさまざまなハードルがあるが、原作者をリスペクトしながら2次創作がプラスのスパイラルを生み出す世界を、niconicoは探っていく。

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