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» 2012年10月19日 11時30分 UPDATE

Barnes & NobleのNOOKと電子書籍エコシステムの歴史

米国最大の書店チェーンのBarnes & Noble。電子書籍市場に乗り出して4年ほどがたとうとしているが、その軌跡をここで振り返ってみよう。彼らの小売パートナーとの関係にも最後に触れる。

[Michael Kozlowski,Good e-Reader Blog]
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米国で、Barnes & Nobleほど網羅的な巨大さに達する書店はまれだ。同社は書籍を販売する米国最大のチェーン店であり、競合のほとんどは窮地に追い込まれている。

 Barnes & Nobleは過去4年間、電子書籍エコシステムに注力してきた。電子書籍と電子書籍リーダーから始まり、新たな動画ストリーミングサービスで1つの頂点に達した。同社のデジタル戦略はいかにして始まり、どこへ向かうのだろうか。

2009年〜

tnfigbn001.jpg 初代NOOK

 Barnes & Nobleが初代NOOK電子書籍リーダーをリリースしたのは2009年11月のこと。電子インクディスプレイと小型のカラーLCDスクリーンを組み合わせた独自性のあるリーダーだったが、同デバイスでの読書体験は初期のソニーReaderやKindleなどのデバイスに慣れたユーザーにも親和性があるものだった。

 初代NOOKがほかと一線を画したのはメニューを操作するのにカラータッチスクリーンを利用し、より多くのことをフルカラーで確認できるようにしたことだ。ユーザーがどこでも書籍にアクセスしコンテンツを購入できるようにWi-Fi版、3G版の両モデルをラインアップした。

 Barnes & Nobleが2008年にはじめて電子書籍への進出を計画したころ、同社はSpring Designとの交渉に当たっていた。Spring Designはデュアルスクリーン電子書籍リーダーのプロトタイプ化と必要な特許取得を進めていた。Barnes & Nobleが技術供与に関する照会を中止し、独自路線を行くことを決めたのは交渉の初期段階だった。両社のデバイスは同時期に発売され、基本的に見た目が同じだったことからSpring DesignはBarnes & Nobleに対して訴訟を起こした。この訴訟は2011年3月に解決するまで1年ほど続いた。

 和解の条件下で、Spring Designは同社の特許および特許出願の全ポートフォリオに対して非排他的な払込済使用料不要ライセンスを許可した。それ以外の和解条件は明らかにされていない。和解協定が発表されたことでSpring Designが起こしたすべての賠償要求は棄却され、解決へ至ったのだ。

 Barnes & Nobleは、Spring Designから特許、技術ライセンス、排他的ライセンス契約をどうにか獲得したことで、電子書籍リーダーおよび電子書籍販売への野望を確実なものにした。訴訟がまだ続いていた2010年6月21日、Barnes & NobleはNOOK Wi-Fiモデルをリリースしたが、高額な3G版はリリースされなかった。

2010年〜

NOOK Color NOOK Color

 2009年から2010年末にかけて、Barnes & Nobleは自社のオンラインエコシステムに多額の投資を行った。Barnes & Nobleは従来の書店ビジネスに基づく大手出版社との関係を生かし、彼らからタイトルを得ることで、ラインアップを拡充した。初年度には100万タイトル以上を獲得し、電子書籍市場全体の20%を支配した。

 2010年クリスマスの8週間前には、自社ハードウェアポートフォリオを刷新、NOOK Colorを投入した。独自のカスタマイズ済UIを持つ6インチフルカラーAndroidタブレットを製造する初の大企業となった。

 クリスマス休暇前の数カ月で数百万ユニットのデバイスが売れ、クリスマス当日だけで100万冊の電子書籍が売れた。NOOK Colorは(タブレットではなく)電子書籍リーダーとして販売され、月並みなAndroid体験に支配された市場に独自性の高い製品を提供した。

 NOOK ColorはBarnes & Nobleの40年の歴史上、最も売れた製品となった。電子書籍とタブレットになじみのなかったユーザーが、今ではそれらになじんでいる。Best Buyなど大手小売店に製品を在庫する契約を結んだのもこの時期だ。

2011年〜

 2011年初頭、Barnes & Noble App Storeが立ち上がり、同社のデジタルコンテンツに対する野望に新たな一面が加わった。それまで、Barnes & Nobleは従来の電子インクの繁栄の中、最も見栄えの良い電子書籍を販売することで切り抜けてきたのだが、信頼できるアプリのみを入手でき、すべてのアプリが自社の7インチデバイスに最適化されている管理されたアプリストアを立ち上げたのだ。Google、Amazonなどほかのサービス提供者と比較すると影が薄いが、NOOK Colorの所有者にとっては歓迎すべき機能追加となった。2011年11月までにストアは100万ダウンロードを達成した。

 NOOK Colorはアプリとゲームを提供しただけでなく、ほかの電子書籍リーダーが取り組まなかった方法で家庭にも訴求した。それが子ども向けの専門セクションだ。ユーザーに語りかけるアニメーション付きの本などを用意した。また、雑誌も大幅に拡充され、大きな魅力の1つになっている。それまで人々がモバイルデバイスで目にすることがなかった新聞、雑誌、児童書、マルチメディアコンテンツをフルカラーで提供する専用電子書籍リーダーあるいはタブレットが入手できるようになったのだ。

 2011年7月にBarnes & Nobleは自社のタブレット製品よりもかなり安価で、筋金入りの電子書籍支持者に素晴らしい後続製品としていまだに認められている電子インクデバイスのサポート継続を決定した。それが「NOOK Simple Touch」だ。初代NOOKのデュアルスクリーンデザインを廃止し、小型、軽量のミニマリストアプローチを採用したデバイスだ。完全なタッチスクリーンを採用した初の電子書籍リーダーの1つで、それにより軽量化が図られ携帯性が高まっている。このデバイスも数百万ユニットを売り上げ、顧客にLedMe機能をもたらした。それによりユーザーは1冊つき1度、ほかのユーザーに本を貸すことができる。

tnfigbn003.jpgtnfigbn004.jpg NOOK Simple Touch(左)とNOOK Tablet(右)

 2011年終盤にかけて、Barnes & Nobleは「NOOK Tablet」を投入、これは同社にとってそれまでを超越する経験となった。メモリ、解像度、CPUなどが増強されたこのデバイスは、オンボードメモリの搭載量に差がある2種類のモデルが用意された。発売直後はそれほどの販売実績を残さなかったが、2011年第3、第4四半期に300万台以上を売り上げている。

 NOOK Tabletは児童書向けに幾つかの新機能を導入した。その1つが『Read Aloud』で、読書中に自分の声を録音したり、親が自分の声を録音して読み聞かせに利用したりすることができる。数カ月前に連絡してきたある祖父母によると、寝る前の読み聞かせに自分たちの声を録音したところ、孫は非常に驚いたという。

 2011年後半、Barnes & NobleはNOOK系列のデバイスと電子書籍の売り上げの成功にかなり満足していた。そのころの株主リポートを見ると、売り上げの増大は同社がBordersと同じ運命をたどることを防ぐというのが多くの人の共通認識だった。Barnes & Nobleにはより高い販売実績を上げるように大きなプレッシャーがかかり、多くの自社書店がNOOK展示エリアの拡張を行っている。店舗のほとんどで、デモ機、ケース、アクセサリー類を展示するNOOKエリアに93平方メートルほどのスペースが割り当てられた。Barnes & Nobleの標準的ストアの店舗面積は2415平方メートルほどだ。2012年までにNOOK展示スタンドは数百店舗で186平方メートルほどに拡張されていく。

2012年〜

NOOK Simple Touch with Glowlight NOOK Simple Touch with Glowlight

 2012年初頭、Barnes & Nobleは「NOOK Simple Touch with Glowlight」をデビューさせ、電子書籍業界をその芯まで震撼させる。

 NOOK Simple Touch with Glowlightの基本的なスペックはNOOK Simple Touchと同様だが、重要な新機能を搭載していた。それが、ディスプレイ枠上部にビルトインされ、画面全体を照らすライトだ。どのような照明環境下でも読書を可能にし、周囲の照明環境への依存を排除する真の電子インクベースの電子書籍リーダーとなった。

 Barnes & NobleはE Ink Holdingsが保有するこの技術を競合が採用することを無期限で防止する排他的ライセンス契約を結んだ。それにより、Amazon、Kobo、Onyx Boox、Pocketbook、Bookeenは自社モデルに同様の機能をもたらすのに時間を要した。NOOK Glowの排他的ライセンス契約によりBarnes & Nobleは競合に対して同社が必要とした8カ月の競争優位性を獲得したのだ。

高い画面解像度が自慢の「NOOK HD」「NOOK HD+」投入

 2012年第4四半期には新型のNOOK HDとNOOK HD+を発表した。

 NOOK Tablet HDは7インチのディスプレイを搭載し、1440×900ドット、243PPIという素晴らしい高解像度を備える。720pの動画も視聴できる。画面解像度はこのモデルの大きな特徴で、AmazonのKindle Fire HDと比較しても1インチ角で25%以上も高い。8Gバイトモデルは199ドル、16Gバイトモデルは249ドルで販売される予定だ。英国では、8Gバイトモデルが159ポンド、16Gバイトモデルが189ポンドで販売される。色は『Snow』と『Smoke』の2種類が用意されている。

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 一方のNOOK HD+は1920×1280ドット、256PPIの解像度を備え、動画は1080Pでの再生が可能な、映画、雑誌などに適した9インチディスプレイを搭載する。ラミネート加工が施されたディスプレイはグレアを抑え、優れた視野角を提供する。この素晴らしいディスプレイはAppleの新しいiPadに競合するが、20%軽量で、価格はほぼ半分だ。miniHDMIポートも搭載しており、テレビなどにつなぐことで視聴環境を変えることもできる。16Gバイトモデルは269ドル、32Gバイトモデルは299ドルとなっている。

 画面解像度での優位性を生かすために、Barnes & Nobleは『Nook Video』を立ち上げようとしている。これはAmazonの『Amazon Instant Video』の競合と考えればよい。HBO、STARZ、The Walt Disney Studios、Warner Bros. Entertainmentといった家族の誰もが楽しめるコンテンツを提供する。ユーザーはGame of Thrones、Breaking Bad、The Walking Deadといった人気のTV番組からDisney-PixarのBrave、The Dark Knight、Harry Potterといった人気の映画までコンテンツを見出すだろう。

 HDディスプレイを利用するBarnes & Nobleのオンラインブックストアにはほかにも多くの新機能が存在する。Newsstandは大幅に刷新され、雑誌全体のサムネイルをユーザーに対して表示し、最初に読みたい記事をシンプルにタップさせるための新たな目次機能を導入した。雑誌は超高速で3D表示されるページ送りを採用し、特定の記事に読者を素早く誘導するリンクを導入、音声、動画、Webリンクを利用してテーマや話題について深く掘り下げられるように工夫している。

 NOOKの革新的『ArticleView』は読者をテキストに集中させ、読者のニーズに対してカスタマイズされる。Barnes & Nobleは雑誌読者が興味のあるページを仮想的にクリップし、カスタマイズされた電子スクラップブックに保存できる『NOOK Scrapbook』も導入した。新聞を表示するエンジンもまったく新しいタッチスクリーンに親和性の高い機能と新UIにより強化されている。

 NOOK Colorの登場以来はじめて、電子ストア全体が動画、音楽、雑誌などすべての新コンテンツを含めてアップグレードされている。これはBarnes & Nobleを完全なエコシステムにする全体的刷新になる。NOOK HDの予約状況は2012年10月10日時点で前世代のNOOK導入時と比較して240%以上となっている。

 Barnes & Nobleの全製品ラインと電子ストアは大きな成長に向けて準備を整えており、Microsoftの助力も受けている。数カ月前、Microsoftは新たなNOOK事業会社の創設に向けて3億ドルほどを投資し、NOOKは全世界での立ち上げに向けてWindows 8にバンドルされる。これは世界市場の支配に向けての冒険を開始するBarnes & Nobleを勇気づけた。

 Barnes & Nobleが電子書籍リーダーをはじめて導入した2009年以来はじめて、同社は唯一訴求してきた米国市場からほかの市場へ事業を拡大する構えだ。英国が欧州市場への足掛かりになるとうわさされていたが、7月にそれが公式に発表された。Barnes & NobleはJohn Lewis、Blackwell’s、Argos、Waitrose、Sainsburyを流通パートナーとして選択、NOOK HDとHD+は2012年10月26日に発売が予定されている。

 先週の投資家向け電話会議で、ウィリアム・リンチCEOは書店を欧州全体とカナダへ拡張する考えも明らかにした。リンチ氏によるとNOOK Bookstoreが2013年6月までに米国外の10市場で利用可能になり、10カ国の顧客にBarnes & Nobleの豊富な電子書籍、雑誌、定期刊行物などのコレクションを検索し、購入し、楽しむ機会を提供するという。英国を皮切りにドイツ、スペイン、フランス、オランダなどの国々への展開が予想される。

2013年〜

 Barnes & Nobleが外国市場へ打って出ること注力する2013年は、同社にとって成長の年になるだろう。ドイツ、スペイン、フランス、イタリアなど多くの小売店の棚にNOOKが並ぶことが予想される。Barnes & Nobleは展示スペース拡張に向けた多くの提携関係をいかに短期間で確実なものとしたのだろうか。答えはデジタルライセンス契約にある。

 多くの人はKoboとBarnes & Nobleが製品を物理的に在庫しなければならない数多くの小売パートナーをいかにして抱えることができるのかしばしば不思議に思うだろう。本当の意味での売り上げは顧客がNOOKやKoboラインの電子書籍リーダーを購入すると自動的に選択することになる電子コンテンツストアで獲得される。WalmartやTargetなど、ハードウェアのわずかな売り上げマージンにうんざりした多くのストアはAmazonとの提携関係を一時停止した。しかし、NOOKとKoboは在庫し続けている。それはBarnes & NobleとKoboが電子コンテンツ売り上げの一部を小売パートナーに提供しているからで、それは電子書籍リーダーとタブレットにかなりの展示スペースを提供してもらうのに必要なインセンティブになっている。小売店でデバイスが購入されると、Barnes & NobleとKoboはユーザーが購入した電子書籍とそのほかのコンテンツ売り上げの一部を小売店に支払う。割合は会社ごと国ごとで異なるが、これがBarnes & NobleとKoboの新たな商習慣だと考えてよい。

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