38の絶版作品に光――「三浦綾子 電子全集」小学館が配信へ

「氷点」「塩狩峠」などで知られる作家・三浦綾子氏の全集を小学館が電子書籍化。全80作品91点を、10月から順次配信していく。紙では絶版となっているものも多いなか、電子化により全集を「末永く愛される作品にしていきたい」という。

» 2012年09月12日 07時20分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo XMDFとEPUB3のフォーマットで作品を用意し、幅広いストアで販売。ソニーの「Reader」やアップルのiOS端末など、さまざまな端末で読める

 小学館は9月11日、「氷点」などで知られる作家・三浦綾子氏(1922〜99年)の“電子全集”を配信すると発表した。同社が全集を出すのは紙の書籍も含め初。絵本などをのぞく三浦氏の単独著作80作品91点を電子化し、「三浦綾子 電子全集」シリーズとして10月12日から順次配信する。毎月約10点を電子化し、6月までに全作品を用意する予定。

 同社の創業90周年と三浦氏の生誕90周年を記念して、三浦綾子記念文学館と共同で企画した。紙の書籍が絶版となっているものも多い中、ロングテールが見込める電子化を行うことで三浦氏の全集を「末永く愛される作品にしていきたい」(小学館 佐藤正治取締役)。電子化にあたって、三浦綾子記念文学館所蔵の秘蔵写真や、夫で同館館長の三浦光世氏による創作秘話なども新たに収録する。XMDFとEPUB3のフォーマットに対応し、主要電子書籍ストアで発売。価格は1冊500円(税抜き)。


38の絶版作品に電子化で光

photo 三浦氏の夫で三浦綾子記念文学館の館長・三浦光世氏

 三浦綾子氏は1922年、北海道旭川市に生まれた。終戦後に軍国教育への罪悪感から小学校教師の職を辞したのち、1963年に「氷点」で朝日新聞の懸賞小説に入選し、本格的に作家活動を始める。その後「塩狩峠」「道ありき」「泥流地帯」「銃口」など数多くの作品を世に送りだした。病床で出会ったキリスト教の教えに習いつつ、「愛とは何か」「人はどのように生きればよいのか」といったテーマを追求。作品の累計販売部数は翻訳本をのぞいて約4300万部に達しているという。

 一方、没後十数年を経て書店で買えない作品も増えてきた。80作品の単独著作のうち38作品は絶版状態。こうした作品を読みたいという声が三浦綾子記念文学館には多く寄せられていた。90周年つながりという縁もあり、三浦綾子記念文学館側から小学館に相談し、企画が実現したという。「絶版作品が電子書籍化によって再び読者の皆様に読んでいただけることは誠に嬉しい限りです」と、三浦光世館長は話す。「綾子もこの様子を天国でどれほど喜んでいることでしょうか」(光世館長)

photo 小学館 白井勝也副社長

 小学館の白井勝也副社長は、「各社一斉に書籍の電子化に走っているが、こうした大きなかたまりで(1作家の作品が)入ることはあまりない」と取り組みを説明。「全作品を預かることは、預かる側にも責任と覚悟がいる」と思いを述べた。1冊500円という「求めやすい値段」に設定したことで「若い世代にも買ってもらえるのでは」と期待を寄せたほか、文字の大きさを変更できる電子書籍は往年の読者にとっても親しみやすいものだとした。

 佐藤取締役は、小学館にとって三浦氏の作品は「縁が深い」ものだと話す。1994年に出た三浦氏最後の小説「銃口」は、小学館文庫の創刊ラインアップにして同社の文芸を代表する作品。これまで上下巻で計50万部が売れ、同社の「文芸の礎となった」(佐藤取締役)。10月12日の配信第1弾は、この「銃口」上下巻と「氷点」上下巻の4点をラインアップする。


photophoto XMDFフォーマットの「銃口」をReaderに表示。フォントの大きさを自由に変更できる(写真=左)。iPod touchのRetinaディスプレイではカラーの表紙とともに滑らかな表示で作品を楽しめる(写真=右)

 全集の販売予測に関しては「全く分からないのが正直なところ」だが、期待もしていると佐藤取締役は話す。「私どもで出している電子書籍の中にも、おっ! という数字を出しているものがある。よく電子は紙の100分の1と言われるが、『氷点』が475万部だとすれば電子で4万7500部。これは電子としては大きな数字。電子書籍が売れるように、今後も頑張っていきたい」(佐藤取締役)

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