コラム
» 2012年09月05日 11時00分 UPDATE

敵は進化したゴキブリ、ゴキブリ、ゴキブリッ! SF漫画「テラフォーマーズ」がムシできない面白さ

ヤングジャンプで連載中の「テラフォーマーズ」は、火星で驚愕の進化を遂げたゴキブリと人類との戦いを描くSF漫画。圧倒的戦力を持つゴキブリに対し、人類は遺伝子操作によって手に入れた“虫の能力”で対抗するのだが……スリル&キモさ満点のバトルから目が離せない。

[山田祐介,ITmedia]

 ゴキブリは気持ちが悪い。彼らも必死に生きているのだが、やはり家の中ではなるべくお目にかかりたくない。黒く平たい体、長い触覚、棘のある足。そんなものが突然、フローリングの上をカサカサ動きまわったりする。ホントにやめてほしい。

 一方で、ゴキブリはすごい。しぶとくて、素早くて、3億年前からほとんど変わらぬ姿で生きてきたという。その生命力・生存力には、ただただ感嘆する。

 そんなゴキブリを火星の人類移住計画に活用したら、とんでもないことになってしまった――週刊ヤングジャンプで連載中の「テラフォーマーズ」は、人類とゴキブリの戦いを宇宙スケールで描く異色のSF漫画だ。さまざまな生き物の能力を活用したバトルが読者の心を捉え、ネットの掲示板でもスレッドが継続的に立てられるなど話題を呼んでいる。8月に出たコミックス第2巻も売れ行きは上々で、刊行中の1巻とともに重版が決定しているという。

photophoto 「テラフォーマーズ」第1巻と第2巻。2巻の帯にはデーモン閣下の「面白い。『魔』と『醜』の中に『正論』が存在する」というお言葉も(C)貴家悠・橘賢一/集英社

進化したゴキブリがキモすぎる

photo 一度見たら忘れられない火星版ゴキブリ(C)貴家悠・橘賢一/集英社

 作品の見所はいくつもあるが、その1つは何といっても進化したゴキブリの気持ち悪さだ。

 物語の舞台は未来。火星の地球化計画(テラフォーミング)のため、人類は火星の環境でも生きられる苔とゴキブリを火星に放つ。それぞれが繁殖することで地表が黒く染まり、太陽光を吸収することで温暖化が誘発されるというのだ。約500年の時を経て十分に温暖化は進み、あとはゴキブリを駆除するだけ。主人公らが宇宙船で火星に降り立ち、駆除剤をまけば終わりのはずだったのだが――。

 3億年姿を変えなかったゴキブリは、火星の環境下でなぜか驚愕の進化を遂げていた。端的にいうと、ゴキブリ人間になっていたのだ。原始人のように棍棒を持ち、「じょう」「じじょう」「じょうじ」といかにも虫っぽい言葉で仲間とコミュニケーションをとっている。これが最高にキモイ! 姿が人に似たことで、虫のグロさとはまた違った“うすら寒いキモさ”が漂っている。

 作画を担当する橘賢一さんは作品を「置いておくだけで軽く不快になれます」とTwitterでコメントしているが、まさに筆者はその不快な感覚の虜になった。不快なんだけど、なんだかんだもう一度見たくなる。クセになるキモさなのだ。

強すぎる害虫の王に“虫の能力”で挑む人類

 そしてこのゴキブリ、めちゃくちゃに強く、生身の人間は一切勝ち目がない。火星のゴキブリにとっては人間こそが害虫であり、それこそ人が虫を潰すような感じでバッタバッタと登場人物を殺していく。無表情なゴキブリにかこまれ、一発あびたら即死亡という緊迫のバトル。重要だと思われたキャラも「あっ!」て感じに死ぬ。女性キャラにも容赦がない。

 ただ、人間側にも希望はある。宇宙船のクルーたちは特殊な手術を受けていて、昆虫のDNAが後天的に組み込まれているのだ。彼らは薬の注射により、虫に由来する特殊能力を一時的に利用できるようになる。

 例えば、凶暴な蜂のDNAを組み込まれた主人公は注射により身体能力が向上し、両腕の毒針でゴキブリたちを次々に狩っていく。基本的に全編ピンチなだけに、“人類反撃のターン”が始まると胸がアツくなること請け合いだ。クルーそれぞれが異なる虫の能力を持っていて、虫のウンチクとともにそれらが描かれるのも面白い。体を同じぐらいのサイズにしたら、どの生き物が一番強いのか――そんな特殊バトルを見ている感覚だ。

photo 目には目を、虫には虫を。手術を受けたクルーは、注射を打つことで虫の能力を発揮できる(C)貴家悠・橘賢一/集英社

深まるドラマと謎

 宇宙船のクルーと聞けばエリートで構成されていると思いがちだが、主人公ら火星に降り立つメンバーは、貧困や紛争、暴力といった劣悪な環境を生きてきた“素性もろくにしれない若者たち”ばかり。バグズ手術は成功率が極めて低く、金に困った、あるいは何か“ワケあり”の者たちが文字通り命をかけてゴキブリ退治に向かっている。単行本の第2巻には「開拓する者――つまり “現場で働く者”は…… 常に 意志と勇気を持つ者達とは限らないんだ」というセリフがあるが、フィクションとあっさり気持ちを割り切れない、重い言葉と感じる。

 登場人物たちはそれぞれ過去や地球に残したものを背負い、生き残りに執念を燃やす。キャラクターへの思い入れも出てきて、戦闘がはじまると余計にハラハラしてしまう。戦場で芽生えた友情、そして別れに心を動かされるシーンも多々ある。

 また、物語が進むにつれて“そもそもなぜゴキブリがこんなに進化したのか”といった謎につながりそうな伏線が出てくるのも、気になるポイントだ。神話や地球外知的生物との関連を匂わせるような物言いもあったりするのだが、一体どんな真相が待っているのだろう。この手のSFが好きな読者にもオススメしたい。

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