電子書籍時代に出版社は必要か――創造のサイクルと出版者の権利をめぐってほぼ全文書き起こし(6/7 ページ)

» 2012年08月23日 14時30分 公開
[ITmedia]

会場との質疑――メディアミックス機能における出版の役割

福井 分かりました。じゃあ、名残りは尽きませんけれども、残り15分ですから、会場との質疑をさせていただいて、最後にみなさん一言ずつ、クロージングコメントを頂きたいと思います。

 そのときに、改めて、出版社は必要だと思いますか? ってさっき岡田さんにも答えて頂いたから、もう1回、お伺いしたいと思ってます。じゃあ、会場、質疑、いかがでしょうか? はい、じゃあ1番最初に手を上げた、中ほどの黒いシャツの方。出版社の方はね、自主的に、どの出版社か、名乗っていただいても結構ですよ。はい、自主的にね。

(会場笑い)

来場者(1) 興味深い話どうもありがとうございました。今回出なかった視点の1つだと思うんですが、出版社の役割として、メディアミックスというものがあると思うんです。1980年代の角川グループ以降、特にそういう役割が与えられてたと思うんです。

 しかし、赤松さんのお話でも、岡田さんのお話でも、今から出てくる新人の作家は、出版社に魅力を感じないだろうという前提があったと思いますが、一方で、自分の作品がアニメになるとか、映画になるってのは多分出版社を介在しないと難しいような気もしまして、その辺りに魅力を感じる要素というのを、可能性として、ちょっとお聞きしたいな、と感じました。

福井 ありがとうございます。凄くいい質問ですね。一応話の種に表示しておきますね(フリップ)。出版社の機能論として、出版社って、本当にやってるかは別問題として、少なくとも理念上は、こういう役割って果たせるんじゃないのってよく、私なんかも使うし議論してる問題ですよね。

出版社の機能論

  1. 作家を発掘し育成する「発掘・育成機能」
  2. 作品の創作をサポートし、時にリードする「企画・編集機能」
  3. 文学賞や雑誌媒体に代表される信用により世に紹介・推奨する「ブランド機能」
  4. 宣伝し、各種販路を通じて展開する「プロモーション・マーケティング機能」
  5. 作品の二次展開において窓口や代理を務める「マネジメント・窓口機能」
  6. 上記の初期コストと失敗リスクを負担する「投資・金融機能」

 赤松さんのさっきのお話とか、今日の中でもずいぶん出てきましたけど、作家を発掘し育成する「発掘育成機能」、作品の創作をサポートし、時にリードする「企画・編集機能」とかね。これがいくとこまでいくと、代わりに書いてやるってのが出てくるんだけれども。

 で、文学賞や雑誌媒体に代表される信頼により世に紹介・推奨する「ブランド機能」、それから4番目として、赤松さんもおっしゃった「プロモーション・マーケティング機能」、で、5番ですよね、作品の二次展開を進めていく、そこにおいて窓口や代理を務める「マネジメント・窓口機能」、まあ広い意味でのメディアミックスなんかこことも関わってくる。あるいは最初の企画・編集のときにも、メディアミックスを企画するんだけども、これが関わってくる。

 で最後に、三田さんもおっしゃった、初期コストと失敗リスクを負担する「投資・金融機能」ですよね、なぜなら今のすべてはコストがかかるからです。で、必ずしも回収は、保証されないお金だからですよね。でも、これはあくまで理念上のものです。今のメディアミックス機能における出版の役割をどう評価するか、っていうのをどなたかお答え頂けないでしょうか。

植村 じゃあすいません。最初の指摘凄くいいと思って、魅力を感じないってのは、「出版社に魅力を感じない」んじゃなくて、「魅力を感じる出版社がない」っていう意味だと思うんですよ。だとしたらまさにメディアミックスとか、さまざまな手法でさらに魅力あるものを考えていくのは、出版社側の役割かなって思うんで。それが今のところ不況だとかいろんなことによって停滞感があるのかなって。方法はいっぱいあって、紙と電子はどんな組み合わせがあり得るのかを当面は考えようよ、ってのが僕の持論です。

赤松 メディアミックスの件ですけど、最新の若い作家さんは、別にそれを望んでない場合が出てきてます。つまり、どんどんメディアミックスでアニメ化したりとか映画化したらいいなっていうのはわれわれの世代の夢なんで。「売れたくない」って考えてる作家が凄く増えてる。

福井 あ、そうですか。

赤松 意味分からないですよ、私はね。ただ、事実です。

福井 へーーーーーっ。

岡田 露出コストが掛かっちゃうってことですよね。自分の作品とか自分のモノに関して、露出したらそれだけのコスト掛かっちゃうし、あと、自分の思い通りにならない。コントロール権を奪われるってのも。

赤松 恐らくそんな感じだと思います。もう1つはね、自分の中からその作品を出したくないっていうこの、じゃあ書くなよ! とか思うんだけど。

(会場笑い)

赤松 自分の領域の中でこういろいろやりたい、みたいな。他の人が関わると嫌だし、あと、自分はこんなに売れていいはずがないとかっていう自分をこう信じてないとか、いろんなものが混じり合って……。

福井 そんな要素が(笑)。

植村 つまんなくない? そういう連中。

赤松 いや、結構面白いんですよ。

植村 いや、何か人間としてつまんないような気がするんだけど。

赤松 それはそうかもしんないけど(笑)。

福井 そうかもしれないんだ(笑)。

赤松 とにかく、メディアミックスで売れたいってのが、今後もいいとは限らないです。

岡田 それはね、大衆っていうか、マスに対する不信だから、僕らが持ってるものと実は共通してるんですよ。そんなに分からないものでもないから赤松先生がこんなに面白がってるんだと思いますよ。

赤松 そうなると、かなり減っちゃうんですよ。

福井 なるほどね、うん。元々この機能をちゃんと果たせよって話も出たけれども、それだけじゃなくて、この機能を求めてないクリエイターも増えてきてるんじゃないかと。

赤松 今後は相当増えると思います。

福井 うん、全部とは言わないけど、幾つかについては。

植村 そういう意味では、出版社を通して、社会に働きかけようってのが本来だと思うんですよ。だから、社会に働きかけるための機能として、今の出版社、というか出版社的なものが、役立ってないんだってのがむしろいまの若い人たちの捉え方だと僕は取ってるんだけども。僕はやっぱり若い人たちは、社会に直に働きかけられるんだって、それだったら、今のそういう組織は要らねーって思ったら、そりゃ組織はやっぱ無くなるよね。

福井 これね、レコード産業などでも言えそうですけどね、メジャーからインディーズ回帰が起こるだろうって言われたんですよ。だって、メジャーレーベルはもっと要らないんです。初期コストも下がってるし。でもレコード産業自体は落ちているけれど、メジャー離れはそこまで急速には進まなかった。ただ確かに二極化はしてるかもしれず、インディーズでいいですって言ってインディーズであり続けている存在もいるし、一方でやっぱり、メジャーにこだわり、そこで戦おうとする人たちも残り続けてる。

岡田 面白いことに中間層が一番被害受けるんですよね。例えば出版とか漫画とかコンテンツ産業は全部そうだと思うんですけども、弱者にとって海賊版ってのは何ら脅威になり得ない。自分たちの作品は、海賊版として流通してもらえるほどには売れてないから。なので、海賊版で他の人の作品見れる方が得だから、弱者にとって、インディーズにとって、海賊版っていうのは何ら問題がない、それどころか自分にとっては有利。

福井 ビジネスモデルが違いますよね。

岡田 中間は違うんですよ。ところが、強者にとって海賊版はさほど不利にならない。海賊版でどんどんどんどん見てもらえる方が、最終的に自分の知名度とか評価が上がってきて、他の収益方法とか収益モデルを考えられるわけですよね。なので、強者と弱者に分かれやすいんですよ、このIT時代ってのは。中間者がいなくなっていまう、いわゆる、本当に中抜きですよね。クリエイターの中抜きで、強者は海賊版別にあってもいいし、隣接権なんか別に要らないし、俺電子出版だけでも食っていけるし、とか、俺は紙の本でもちゃんと刷ってもらえるし、って言えるんですよ。で、インディーズにしてみたら、そんなの俺関係ないよ、だって俺、自分の作品を理解してくれる人だけ相手してればいいしって。赤松さんが言ったようなことですね。で、中間層の人たちが困る。その人たちが、多分どんどんいなくなっていくという、そういう流れだと思います。

福井 強者・赤松健、どうですか。

(会場笑い)

赤松 漫画なんかだと、新人さんが、すっごい不利になってますね。雑誌が売れなくなると、宣伝媒体としての雑誌が機能しなくなりますし。それと、単行本が売れない。だから、単行本の部数的に言うとマガジンの中でも、メジャー誌内メジャー作家と、メジャー誌内マイナー作家に完全に別れてしまった。上の人たちはだんだんこうちょっとマンネリ化してくるし、下は出てこないしで業界全体のパワーは下がると見てます。

植村 だから、結局コミケのようなシステムが機能してないっていうか、出版社っていう組織体じゃないところからどんどんどんどん若い人が入ってきて、しかも、何度も言うけどその人たちが「食える」って……

赤松 彼らが食えなくていいって言ってたらどうします?

植村 だから、食えなくていいならどうやって食っていくんだろうって。

赤松 いや、本職があって。

植村 うん、だからさ、そこがさっきの……

赤松 ニコ動でミクの動画、流してる人たちってのは、編集者とかこの、ディレクターの直し入ってないんですよ。漫画もそうなんですけど。

植村 むしろそれで凄くいいコンテンツがどんどん出るっていうんだったら、そのシステムが素晴らしいと思いますけどね。

福井 ボカロのシステムは確かに、非常に面白いんだけれども、もう少し質問もとってみましょうね。ほか、いかがですか。別なことで結構です。はい、じゃあこちらの中ほどの方。

来場者(2) よろしくお願いいたします。先ほどからやり玉に上げられていた、若い、アマチュアの制作者の一人として、ちょっと一言言わせて頂ければと思います。確かに、僕らがアマチュアでやっていて、本職があるし、それで食えているんで、わざわざ出版社を通して何かをしたいという思いもないですし、一定の人たちが読んでくれて支持してくれてればいいな、と。

 そういう思いもありますけども、ただ実際に、本を出してもっとメジャーになりたいと思ったときに、電子書籍が、今の出版社のような役割をしてくれるとは思えないんですね。

 例えば、コミケに本を出すと、それと同じレベルで、電子書籍の中の一部に僕の本が入ったとして、そこから僕の作品がメジャーになる可能性って皆無だと思うんですね。ですからやっぱり、出版社の力は必ず必要だと思います。ただ、Webで有名になった人が、出版社を通して漫画が出ると何か面白くなくなってるのを最近感じたりとか、そういう意見がネットで見られていたりして、非常に物悲しいものがありますので、僕は出版社として魅力ある人たちが、もっと前面に出てきてほしいと思いますし、とある出版社の編集者なんか、わりと顔を前に出されてですね、去年か一昨年か、このブックフェアでも講演されてたと思いますけど、そういう方たちがもっと出てきて、「この出版社と、この編集者と組んでみたい」って、そういう人たちが出てきてくれると、嬉しいなと思います。

赤松 質問じゃねぇ(笑)。

来場者(2) じゃないですね。すいません。

岡田 前半に関して答えます。無理。無理です。何で無理かっていうと、あなたが考えてるのは、出版社が限定された本を出してるということが前提です。今日本では、多分1日100冊くらい、100種類くらい新しい単行本が出てるんですけど……。

植村 2〜300くらいありますよ。

岡田 あ、で、これでも多すぎるって言われてるんですけども、この状態でもやっぱ目立たないわけですね。これが電子出版時代になるとどうなっちゃうのかっていうと、極端な数値を代入すると、1日に1万種類とか、5万種類の新刊書が出るわけですね。そうなるとあなたの本が目立つことはできない。

 コミケだったらまだブースの数が有限で、歩いて回れるから、まだ、自分の本が目立たないってことはないんですけども、こっから先、どんどん電子出版が盛んになって、参入しやすくなってくると、編集者がいようがいまいが、1日5万冊、10万冊っていう新刊書が出る世界の中で目立つことなんか到底不可能だと思います。

 だから、おっしゃってることは、そうやって編集者の人が頑張って、とかいう感じで、才能ある作家を見つけて育成するシステムを残してくれというのは、かなり難しいんじゃないかなと僕は思っています。

植村 その文脈でとらせて頂いて、ある種の反論なんだけど、だからこそ、電子書籍における、セールスプロモーションとか、やっぱり良質な、オススメしたい、高く売れるな、これだったらっていうメカニズムが、やっぱり生まれちゃうと思うんですよ。だからやっぱり中抜きは僕は起こらないって。

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