百合でもBLでもない漫画「ぼくらのへんたい」が切ない気になる新刊

8月10日に発売されたふみふみこさんの漫画「ぼくらのへんたい」は、女装する男子中学生3人を描く群像劇。それぞれ異なる理由で「男の娘」となった3人が、悩み、傷つきながら、心を交わしていく。

» 2012年08月23日 11時11分 公開
[山田祐介,ITmedia]
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photo 「ぼくらのへんたい」

 「お前らさあ、なんで女装なんかしてんだよ」――8月10日に第1巻が発売された、ふみふみこさんの漫画「ぼくらのへんたい」が切ない。徳間書店の月刊COMICリュウで連載中の同作は、女装する中学生男子たちを描く群像劇だ。「へんたい」というタイトルが目を引くが、めくるめくHentaiワールドが待っているのかというとそうではない(性的な表現もあるが)。

 男の娘を描いた作品というと筆者は「ストップ!! ひばりくん!」を思い出すのだが、「ぼくらのへんたい」に同作のようなコミカルな雰囲気はない。主人公は、それぞれ異なる理由から「男の娘」となり、生きづらさを感じている3人の中学生だ。最も女装にポジティブなのは、「物心ついたときには自分は女だと思っていた」という“まりか”こと青木祐太。“パロウ”こと田村修は、憧れた男の先輩から女装を求められたことをきっかけに女装を続けている。こんな2人に“ユイ”こと木島亮介は「マジでキモイなお前ら」と辛らつな言葉をぶつける。ユイは、姉の死を受け入れられない母親のために姉を演じていたのだった。


photo 男の娘たちの物語が、静かに淡々と進んでいく
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 男の娘であることの悩みは、ときに滑稽に描かれ、だからこそ生々しい。12時を過ぎたシンデレラのように、女の心を持つまりかが妄想から現実に引き戻されるシーンは、見ていてつらい気持ちになる。どの人物も何かしらの“見たいもの”“見たくないもの”に悩まされていて、特にパロウやユイはその悩みと女装を続けることが複雑に絡み合っているようにも感じられる。「こうありたい」と思う自分と現実との違いに悩む人にとって、彼ら(彼女ら)の悩みに共感できる部分もあるのではないだろうか。

 また、男の娘として「ずっと1人だった」3人が出会うことになったきっかけが“男の娘向けSNS”だったりと、今ならさもありなんという設定も面白い。オフ会で出会った3人は次第に心の傷を共有し、交流を深めていくことになる。学校では美少年である彼らが、男の娘に「へんたい」し、女の子としてつかの間の青春を過ごす――心を交わした3人の幸せな雰囲気が、透明感のある絵と相まって印象深い。

 コミックの帯には「男の娘×男の娘」「性別を超えた愛の物語」といった言葉も踊っており、男としてか女としてか、そんな区別の付けにくい恋愛感情も描かれている。3人の関係はこれからどうなるのか。そして少年から青年への成長が待ち受ける時期を迎えた3人に、どんな「へんたい」が待っているのか、あるいは3人がどんな「へんたい」を選ぶのか――。物語の行方が気になる。


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