シャープ、「book-in-the-box」を発表――複数の電子書店を1つのアプリで

シャープが電子書籍配信ソリューション「book-in-the-box」を発表。同ソリューションにより電子書籍配信の参入障壁を下げ、エンドユーザーは複数の電子書店で購入したコンテンツを1つのアプリで閲覧できるようになる。

» 2012年07月02日 09時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 シャープは6月29日、電子書籍配信ソリューション「book-in-the-box」を発表した。エンドユーザー向けのAndroidアプリはGoogle Playで7月4日から提供開始予定。

book-in-the-boxアプリ。基本的な操作感はGALAPAGOS Appとほぼ同じ

 book-in-the-boxは、電子書籍を取り扱う電子書店事業者向けのソリューション。.bookやXMDF、EPUB(Open Manga Format)といった主要な電子書籍フォーマットに対応するビューワ(本棚管理含む)と、シャープ提供のDRM(著作権保護機能)を組み合わせたもの。ユーザー視点での一番のメリットは、同ソリューションを採用した電子書店のコンテンツであればどの電子書店で購入したコンテンツであっても同アプリで一元的に管理・閲覧できること。

 book-in-the-boxアプリはシャープの電子書店「GALAPAGOS STORE」が用意している「GALAPAGOS App」をベースにしている。GALAPAGOS Appと大きく違うのは、上述したように同ソリューションを採用する書店のコンテンツであればどこで購入したものでも読めることだ。アプリ内からコンテンツを直接購入することはできないが、コンテンツを購入した各電子書店サイトへアクセスできるショートカットが用意される。まずはAndroid版がリリースされるが、iOSやWindows Phoneなどのプラットフォームへの対応も検討しているという。

 シャープ通信システム事業本部 ネットワークサービス事業推進センター所長の辰巳剛司氏は発表会で、国内の携帯電話市場はフィーチャーフォンからスマートフォンへ急速に移行しており、電子書籍についても、いわゆる“ケータイコミック”などフィーチャーフォン向けの電子書籍とは異なる状況が生まれていると説明する。

 特に顕著なのは、昨今スマートフォン向けに各社が提供している電子書籍サービスは、それぞれ異なる閲覧環境を用意しており、しかも基本的に互換性がない点。サービス事業者はビューワの開発やDRMの導入・運用、そしてそれらのメンテナンスを行う必要が生じ、ユーザーからするとそれぞれのビューワアプリを用意しなければならず手間が大きい。「大手事業者はともかく中小規模の事業者にとっては参入障壁になっている」と辰巳氏は述べ、book-in-the-boxがそれらを解決し、電子書籍市場の発展に寄与するのだという。

 分かりやすく言えば、book-in-the-boxは、自社で電子書店を展開している、またはこれから展開しようと考えている出版社などに向けたソリューションといえる。特に、フィーチャーフォン向けにケータイコミックを展開していたが、スマートフォン向けの電子書籍サービスをどう展開するか検討している出版社などに向けたものといえる。細かな開発は発生するだろうが、それでもビューワアプリの開発、DRMの導入などを1から行う場合に比べればサービスインまでの期間と手間は大幅に短縮できる。なお、同ソリューションの具体的な料金についてはコメントを避けた。

 すでに電子書籍の取次業務を行うモバイルブック・ジェーピーがDRMを採用したことが告げられたほか、7月初旬には白泉社のケータイコミックサイト「白泉社e-コミックス」が同ソリューションを採用予定。7月下旬にはもう1社、8月〜9月にかけて計4書店、年内には計10書店が採用予定。シャープが展開する総合系の電子書店「GALAPAGOS STORE」も7月4日のアプリリリース時点から対応する。

 ただし、同ソリューションを採用するということは、自社サイトを販路の起点にすることが想定される。このためGALAPAGOS STOREのような総合系の電子書店と食い合う可能性があるためか、発表会ではこの部分はあまり強調されなかった。また、book-in-the-boxの開発にはインフォシティが協力しているが、これは「GALAPAGOS Appで使っている.bookモジュールとbook-in-the-boxで使っているそれはバージョンが異なる(後者が最新版)」ためだという。「GALAPAGOS STOREはGALAPAGOS STOREで独自の進化を遂げながら」という説明があったことからも、book-in-the-boxはGALAPAGOS STOREで培われたノウハウを活用しながらも、一定の距離を置いた中立的な位置づけになっている様子がうかがえる。

 大手電子書店はこうしたストア間の“共有本棚”の構想をそれぞれ進めている。例えば大日本印刷(DNP)とインプレスR&Dが進める「オープン本棚」、角川グループのBOOK☆WALKERとKDDIの「LISMO Book Store」の連携などもそうした取り組みの一環といえる。こうした連携が行われることで、互換性がある程度解消されることになるが、全体として俯瞰してみるとそれらも単に連携する範囲が拡がっただけだともいえる。実際、book-in-the-boxにGALAPAGOS STORE以外の総合系電子書店がこの座組に参加するかはまだ不明だ。なお、同ソリューションには集英社、小学館、新潮社、ボイジャー、そして出版デジタル機構が賛同を表明している。

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