絶体絶命の“白い世界”で少年は――「ホワイトドーム」胡瓜の「このWeb漫画読もうぜ!」第10回

水も食料も何もない閉鎖空間「ホワイトドーム」に日々送られてくる人間――主人公の「少年」も、その1人だった。絶望的な世界を経験しながら懸命に自分を貫く若者を描いたWeb漫画「ホワイトドーム」を紹介しよう。

» 2012年06月28日 10時48分 公開
[山田胡瓜,ITmedia]
photo 「ホワイトドーム」

 出口のない密室に閉じ込められ、絶体絶命の状況にさらされる中、「少年」は何を思い何を得たのか――。コミック投稿サイト「新都社」に掲載されている漫画「ホワイトドーム」(原作:藤山芸者さん/絵:おくやまさん)は、重々しく緊迫した展開と、それとは対照的なラストが印象的な中編作品だ。

 親との口論が絶えず、常に自分を否定され、負の感情に満ちた日々を送っていた「少年」。ある日を境にその日常は終わりを告げる。しかし、少年を待っていたのは救いではなく、より悲惨な世界だった。

 一面が白い壁に囲まれた広大な「ホワイトドーム」には、日々どこからともなく人間が送り込まれる。ドームの中には水も食料もトイレも何もない。人々はその中で不安や怒りや絶望とともに衰弱し、人間らしさを失おうとしていた。

 正気を失った大人に暴力を振るわれる少年。しかし、1人の「少女」が彼を助けだす。絶望的な状況の中、「ヒーロー」であり「友だち」を得た少年は、彼女との交流のなかで自分のコンプレックスを見つめ、不回避に見える死を前に自分の生き方を問う。

 筆者はこの漫画を読みながら、漫画家・坂口尚さんの名作「石の花」を思い出した。石の花もまた、絶望的な世界を経験しながら自分を見失わず、懸命に生きた少年と少女を描いた漫画だ。自分を貫く大事さを感じられる作品として、こちらもともにオススメしたい。

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