電子書籍界の黒船「Kindle」とは?(後編)Kindleが持つ5つの「強み」(2/3 ページ)

» 2012年05月25日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

強みその3:多彩なプラットフォーム

 Kindleは多彩なプラットフォームを持っていることが特徴だ。E Ink電子ペーパーを採用した読書専用端末はもちろん、iPhone、iPad、Android、さらにはWindowやMac OS向けに閲覧用のアプリが用意されており、Kindle Storeで購入した電子書籍を読むことができる。同じアカウントでログインすれば、開いていたページやメモも含めて同期されるという徹底ぶりだ。

電子書籍端末「Kindle」のラインアップ。本稿で主に紹介しているE Ink電子ペーパー採用の端末のほかに、カラー液晶を搭載した7インチタブレット「Kindle Fire」も米国では爆発的に売れている(写真=左)/こちらはアプリのダウンロードページ。iPhoneやAndroid、iPad、Windows Phone 7のほか、WindowsやMac OS、さらにはKindle Cloud ReaderのようなWebアプリも用意され、いずれも無料で利用できる

 ここで重要なのは、プラットフォームが多ければ多いほど、購入済みの電子書籍を長期にわたって閲覧できる可能性が高まる、ということだ。上述した会社の倒産や事業の打ち切りまでいかなくても、プラットフォーム側のOSのバージョンアップなどにより、購入済みの電子書籍が読めなくなってしまう可能性はなくはない。

 実際、iPhoneアプリとして販売されていた電子書籍の中には、iOSのアップデートによって閲覧ができなくなった例がある。この場合、iPhoneで読めなくなったからといって、ではPCで読みましょう、Androidで読みましょう、といったわけにはいかない。本1冊がひとつのアプリになっている電子書籍はもちろん、対応プラットフォームが少ない電子書籍ストアも、この種の問題を抱えている。

 しかしさまざまなプラットフォームをサポートするKindleなら、いざとなれば異なるプラットフォームを利用して閲覧するのもたやすい(もちろんそこまでして読み続けるかは別の問題だが)。1アカウントに対して登録できるデバイスの台数も最大6台とほかの事業者に比べると多いので、新たな対応デバイスに購入済み電子書籍を再ダウンロードしようとして台数制限で弾かれることも、相対的に少ないといえる。

1アカウントあたりの登録デバイスは6台まで。それを超えるとどれかの登録を解除するように促される。この画面から分かるように、iPhone向けのKindleアプリはすでに日本語化されている(写真=左)/設定ページでは、登録済みのKindleデバイスが閲覧できる。この画面から直接解除することも可能

 加えていうなら、Kindleはストリーミング型ではなく電子書籍まるごと1冊をダウンロードして読む仕組みのため、ダウンロード完了後に通信回線をオフにしてしまえば、万一の際にもダウンロード済みのデータは守られる。余談だが、米Amazon.comのマーケットプレイスで中古のKindleを購入すると、前オーナーが購入した電子書籍が入ったまま送られてくることがある。自分のアカウントでアクティベートすればこれら電子書籍は端末から消えるが、通信をオフにしておけばそのまま読めてしまうのだ。著作権的に好ましい行為でないことは明白だが、Kindleという端末の仕組みをよく表しているといえる。

強みその4:購入してから読めるようになるまでのシームレスさ

 内蔵の通信機能を用いてストアに直接接続して電子書籍を購入するという仕組みは、いまやKindleに限らずほとんどの電子書籍端末に搭載されており、さほど珍しいものではない。しかし、いかにスムーズに買えるかという点では、現在でも大きな差があるのが実情だ。

 例えばIDとパスワード。Kindle Storeでは、購入時にはIDやパスワードをいちいち入力する必要はない。購入ボタンを押すと購入完了を示すダイアログが表示され、併せて注文を取り消すためのリンクが表示される。Amazonのサイトで言うところの1-Click注文がデフォルトでオンになっている一方、キャンセル機能を用意することで誤操作にも対応できるようにしているわけだ。つまり誤操作に対する担保をユーザー側ではなく、事業者側で持っていることになる。

Kindleは端末もしくはアプリをRegisterしておけば、IDやパスワードを意識することはまったくない。Kindle Storeもログイン/ログアウトという概念は存在しない(写真=左)/注文をキャンセルしたところ。ダウンロード済みの書籍は自動削除され、クレジットカードで引き落とされた代金は返金される(写真=右)

 これに対して国内各社の端末は、購入のたびにIDとパスワードの入力を求めてくることがほとんどだ。IDはあらかじめ登録しておける場合もあるが、メールアドレスや任意の文字列ではなく、事業者が発行した文字列のまま変更ができない場合も多い。ユーザー情報が予め登録された状態で手元に届くKindleとは大違いだ。

 実際に使っていると、もっとひどい挙動に出くわすこともある。例えばある国内事業者の電子書籍端末では、インターネットアクセスが一定時間なければ無線LANをオフにする機能を実装している。こう書くとあたかもインテリジェントな機能に見えるが、これが上記のパスワード入力と組み合わさると、購入フローの途中でパスワード忘れなどによって操作をしばらく中断しただけで、ネット接続が切断され操作が続行できないという現象が生じる。十数分かけてパスワードを探し、ようやく見つけて操作を再開しようとした途端「インターネットに接続できませんでした」といったメッセージが表示され、一からやり直しになってしまうのだ。笑い話のようだが、実話である。

 決済完了から実際に読めるようになるまでのフローにも大きな差がある。Kindleでは購入完了と同時に電子書籍データのダウンロードが開始され、ホーム画面上に電子書籍のタイトルが表示される。冒頭に「NEW」と書かれたこのタイトルを選択すると、すぐさま電子書籍を読むことができる。Kindleはすべての本を60秒以内に読み始めることができるとアピールしているが、実際に使ってみると、これが嘘でないことがよく分かる。

 ここでのポイントは、ダウンロードが自動的に始まることだ。国内事業者の端末やアプリでは、購入後のダウンロードは手動という場合が多く、一手間掛かってしまうことが多い。たったワンクリックの違いではあるが、こうした細かな部分の操作性で、Kindleはカユいところに手がきちんと届く印象が強い。

 もっともこの背景には、1冊ずつしか買えないKindleと違って複数冊のまとめ買いをサポートしているという事情もある(漫画などシリーズものが多い国内事情を反映した機能だといえる)。しかしそれならそれで1冊のときは即ダウンロード、複数冊のときはダイアログを出して挙動を選択させるなどの設計を検討すればよいだけで、現状の操作が煩雑であることは否めないだろう。

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