電子書籍界の黒船「Kindle」とは?(前編)(3/4 ページ)

» 2012年05月24日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

2010年:「iPad」の登場と、第3世代Kindleの登場

 Kindle 2から約1年が経過した2010年3月。PC/IT史に残る製品がAppleから華々しくデビューする。ほかならぬ「iPad」である。

 iPadは必ずしも電子書籍専用の端末ではないが、スレート状のボディを持ち、iBookStoreなどさまざまな電子書籍ストアから書籍をダウンロード購入し、タッチ操作で読むことができる。Amazon側も、それまでiPhone用にリリースしていたKindleアプリをiPad向けにすぐさま投入したが、汎用端末がKindleのライバルとなることに危機感を抱いたことは想像に難くない。これが1年半後の「Kindle Fire」の登場へとつながっていくことになる。

 iPadの登場からおよそ半年後、2010年8月には第3世代のKindle(Kindle 3。現在の呼び名はKindle Keyboard)が発表されたが、これはあくまでKindle 2のマイナーチェンジとでもいうべき製品だった。E Inkの反応速度がさらに向上するなど性能面で見るべき部分もあるが、金属製の背面がプラスチック素材に変更されたり、キーボードの上一列(数字キー)が省かれるなど、どちらかというとコストダウンを念頭に置いた設計変更が主で、うわさされたタッチスクリーンへの対応も見送られた。

 中でもメニュー類はほとんど変更がなかった。Kindle 2の完成度が高すぎたというのも理由の1つだろうが(このメニュー構成は第4世代のKindleでもほぼそのまま継承されている)、今振り返ると、翌年発表になるタッチ対応の第4世代モデルまでのつなぎということで、あまり手を入れる余裕がなかったのではないかとも思える。

Kindle 2(左)と、Kindle 3(Kindle Keyboard、右) Kindle 2(左)と、Kindle 3(Kindle Keyboard、右)。外観上はひとまわり小型になったのが目立つ程度で、初代KindleとKindle 2ほどの見た目の差はない。スクリーン上下左右の余白が、Kindle 2に比べて狭くなっていることもよく分かる

 一方でこのモデルは、日本語フォントを含む多国語フォントを初めて内蔵し、ホーム画面のタイトル一覧で日本語が表示できるようになったため、自炊データやドキュメントを持ち歩く国内ユーザーから注目を集めた。価格も189ドルとぐっと下がり、日本円にして2万円以下で購入できるようになったので、このモデルで初めてKindleに触れたという日本人ユーザーも少なくないはずだ。ちなみに東村ジャパンからKindleに対応した英和辞書「英辞郎●MOBI/Kindle対応版」が発表されたのもこの時期で、デフォルトの英英辞典をこの英辞郎に置き替えることで、英単語の意味を調べながら電子書籍を読むことが可能になった。

 ラインアップ面では、このKindle 3で初めてWi-Fiモデルが投入されたことを特筆しておきたい。初代以来、3G回線にこだわってきたKindleの大きな方針転換といえる。これは同年発売されたiPadの普及により、スマートフォンなどによるテザリングやモバイルルーターなど外部機器を用いての接続が一般的になってきたことも大きく影響しているといえそうだ。翌年の第4世代Kindleのローエンドモデルでは3Gモデルが完全に消滅しており、読書専用端末では3Gのニーズそのものがあまり高くないと判断されたのかもしれない。

 もうひとつ余談として、Kindle 3ではボディカラーがホワイトに加え、グラファイトのモデルが投入された。第4世代のE Ink端末では全機種がグレーボディとなったため、ホワイトボディのKindleはKindle 3の3G+Wi-Fiモデルが最後となっている。コストを極限まで落とすべく成型色として安価なグラファイトならびにグレーを採用したのではないかと予想されるが、Kindle添付のUSBケーブルが第4世代のモデルでも本体とミスマッチなホワイトなのは、その名残ということになる。なお、本モデルの投入に合わせてKindle DXもボディカラーがグラファイトのモデルへとマイナーチェンジされている。

 この年の暮れ、2010年12月には、ソニーから「Reader」、シャープから「GALAPAGOS」という電子書籍端末が日本国内で発売された。Readerは北米市場向けのモデルを国内向けにローカライズしたもので、Kindleと同じくE Ink電子ペーパーを搭載していたが、通信回線を搭載した上位モデル「Daily Edition」の投入は見送られ、通信回線のない6インチの「Touch Edition(PRS-650)」と5インチの「Pocket Edition(PRS-350)」が投入された。ソニーもシャープも、連携ストアの蔵書数はスタート時点でおよそ2万点。対してKindle Storeの蔵書点数は、2010年暮れの時点で75万点にまで増加していた。

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