電子書籍界の黒船「Kindle」とは?(前編)(1/4 ページ)

近い将来の日本進出が予想される、米Amazon.comの電子書籍サービス「Kindle」。なぜKindleは「電子書籍界の黒船」と形容されるのか。初代製品が登場してからこれまでに至る歴史を振り返りつつ、機能やサービスなどさまざまな観点から見たKindleの強みと特徴を、前後編にわたって紹介する。

» 2012年05月24日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

 「電子書籍界の黒船」などと形容される、米Amazon.comの電子書籍サービス「Kindle」。国内でサービスインするといううわさは何年も前から出ていたが、先日ようやく同社のジェフ・ベゾスCEOから、日本での電子書籍事業の開始について年内に発表するとの発言が報じられた。電子書籍ストアの大本命として、サービス開始を待ち焦がれている人も多いことだろう。

 大々的に「黒船」と書き立てられるKindleだが、ほかの電子書籍サービスと比べてどのような優位性があるのか、正しく理解している人は少ないだろう。出版業界はもちろん、電子書籍の業界に足を突っ込んでいる筆者でも、その全貌を理解するのは困難なので、読者たるユーザーからしてみるとなおさら意味不明に違いない。「何だかよく分からないがとにかくすごいらしい」という印象が先行しているというのが、国内におけるKindleの認識ではないだろうか。

 本稿では、初代製品が登場してからこれまでのKindleの歴史を振り返りつつ、Whispernetなどの機能をはじめとしたKindleの強みと特徴を、前後編で紹介したい。前編である今回は、ハードウェアとしてのKindleを軸にこれまでの流れを時系列で解説する。

Kindleは専用端末の名称であると同時にソフトウェアの名前でもあり、またKindle Storeを含めた一連のシステムを指す言葉でもある

2007年冬:初代Kindleの登場とKindle Storeオープン

 電子書籍ストア「Kindle Store」とともに、初代の「Kindle」がAmazonから登場したのは2007年9月のこと。それまでも数多くの電子書籍端末が「出ては消え」を繰り返していたが、当時KindleとKindle Storeが大きな注目を集めたのは、主に2つの理由による。

 ひとつは、Amazon.comという小売業者による新規参入だったこと。書籍の小売ですでに実績があり、年々シェアを高めているAmazonとなれば、むしろ紙の本のマーケットを守るべく「アンチ電子書籍」の立場を貫いてもおかしくはない。そのAmazonが率先して電子書籍に乗り出したことは、業界にとってビッグニュースだった。当時はiPadというプラットフォームがまだ存在しなかったこともあるが、独自のハードウェアをひっさげての参入は、その本気度をうかがい知ることができる。

 もうひとつはこの電子書籍端末、つまり「Kindle」が、本体に3G回線を内蔵していたことだ。いまでこそ端末からストアに直接アクセスして電子書籍をダウンロード購入できるのは当たり前だが、当時としては画期的だった。

 例えば、当時国内ではソニーの「LIBRIe」松下電器産業(現:パナソニック)の「ΣBook」といった電子書籍端末の生産が終了しており、市販されている電子書籍端末はほぼ皆無といっていい状況だった。一方海外では、ソニーが2006年に北米市場向けに発売したLIBRIeの流れをくむ電子書籍端末「PRS-500」と、その後継機種「PRS-505」が人気を博していたが、コンテンツはPCで購入したのち転送する必要があった。端末で買ってすぐダウンロードして読むという発想がなかったのだ。

初代Kindle(左)と、ソニーの「LIBRIe」(EBR-1000EP、中央)。発売時期は3年半ほど開きがあるが、いずれも6インチのE Ink社製電子ペーパー(モノクロ4階調)を採用しており、ボディの質感も似通っている。「世界初のE Ink電子ペーパー端末」であったLIBRIeによって立ち上げられたE Inkの生産ラインをKindleが受け継いだ格好だ。右端は初代Kindleと同時期に販売されていたソニーの「PRS-505」で、端末自体の高級感はこちらの方が圧倒的に上だが、Kindleと違って通信回線は非搭載

 こううした状況下で、3G回線を内蔵し、端末から電子書籍コンテンツが直接購入できるKindleは、当時画期的な端末として捉えられた。いまKindle登場時のニュースを改めて検索してみると、「携帯電話を内蔵した電子書籍端末」といった表現が散見される。通信回線を内蔵していることは、それほど大きなトピックだったわけだ。

 この3G回線は個別の回線契約なしに利用でき、料金も不要だったことも注目を集めた。もちろん実際の通信コストは電子書籍の代金に少なからず上乗せされていると考えられるが、仮に書籍の購入に至らなかったとしても月額料金のような形で費用を支払う必要はなく、わずらわしい回線契約の手続きも必要ない。しかもKindle Store以外のWebサイトの閲覧にも対応していたため、一部のユーザーからは好奇の目で見られることになった。

 しかし、この初代Kindleは398ドルとそこそこ高価で、エッジが鋭角になった独創的なフォルムやスクロールホイールを用いたインタフェースの評価は必ずしも芳しいものではなかった。2007年のクリスマス商戦を前に投入された初回ロットは即完売したとされているが、実際にどの程度の台数が用意されていたのかは定かではない。また日本では端末を購入すること自体が不可能とあって、一部で注目を集めたにとどまった。

 もっとも、賛否両論ある中でKindle Storeは着々とラインアップを拡充し続け、2007年暮れのスタート時点では9万冊程度だったラインアップは、約1年半後、後継モデル「Kindle 2」の発表を迎える時点で、20万冊を超える数へと倍増していく。

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