スキャン代行訴訟、「実質的勝訴」として作家が訴え取り下げ

スキャン代行事業は著作権侵害行為だと作家7名が原告となってスキャン代行業者2社に行為の差し止めを求めていた訴訟は、業者が解散を選択したため、原告側が実質的勝訴として訴えを取り下げた。

» 2012年05月22日 22時13分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 スキャン代行事業は著作権侵害行為であるとして、浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名が原告となってスキャン代行業者2社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求めていた訴訟は、既報の通り業者が廃業したため原告側が訴えを取り下げた。

 この訴訟は、スキャン代行事業を手掛けていたスキャン×BANKと愛宕に対し2011年12月に提訴されたもの。このうち愛宕は4月に訴えを認める「認諾」を表明しており、残るスキャン×BANKの動向が注目されていた。

 書籍を裁断・スキャンしスマートフォンやPC、タブレットなどで大量に持ち歩けるデータにすること行為を俗に“自炊”と呼ぶ。これをユーザーに代わって行う「スキャン代行業者」(自炊業者)が2010年ごろから人気を博し、多くの業者がサービスを手掛けるようになっていた。

 しかし一方で、それは著作物の私的使用の範囲を超える、すなわち著作権法違反であるとする版元側は2011年9月、出版社7社、作家・漫画家122人の連名でスキャン代行業者に対しまず質問状を送付。これに対し多くの業者が事業を見直す方向と回答したのに対し、上述の2社は「今後も依頼があればスキャン事業を行う」としていたが、その2社を訴権を持つ作家が矢面に立つ形で提訴していた。

 スキャン×BANKは2012年2月初め、スキャン代行サービスは今後行わないと発表していた。今回訴訟終結として集英社から出ているプレスリリースによると、スキャン×BANKは2012年1月末でスキャン代行事業を廃止、スキャンにかかわる機器を廃棄事業者に依頼して廃棄済みであることを証拠とともに裁判所に提出。さらに会社自体も解散すると宣言していた。そして5月15日に解散、解散登記も確認されたことで原告側は当初の目的は達成できたと判断。作家側の実質勝訴として訴訟を取り下げることにしたという。

 結果として原告側の実質勝訴ということもできるが、「スキャン代行業務」が著作権侵害かどうかについて裁判所の判断、つまり判例が出ないまま終わってしまったことは、問題の本質はグレーなままだともいえる。

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