緊デジ事業の本申請始まる――出版デジタル機構のビジネスモデルも明らかに

6万点の電子化を行う経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」。その本申請が始まった。出版デジタル機構のビジネスモデルなども少しずつ見えてきたようだ。

» 2012年05月09日 14時57分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 4月2日に設立された「出版デジタル機構」。投資ファンドの産業革新機構が総額150億円を出資したことでも話題を呼んだが、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」(緊デジ事業)と連携し、今年度中に約6万タイトルを、機構としては5年後に100万点の電子化を行うと宣言したことが電子書籍業界の注目の的だ。

 緊デジ事業は、同事業を経産省から受託した日本出版インフラセンター(JPO)が、出版社から9万3735点の仮申請があったことを明らかにしている(著作権者の許諾を問わず申請できたもの)。現在、新刊だけで年間に7万5000点以上、絶版になっていない書籍は85万点ほど、さらにISBNで管理されている総数だと200万点を超える。これらの数字と比べるとどんな作品でも紙と電子の選択肢が利用者に提供されるまでの道は長いが、それでもこれまで緩やかだった電子化の動きに弾みがついている状態といえる。

 そんな緊デジ事業の本申請が5月9日から開始された。補助金の上限(約10億円)があるため、デジタル化される総数は約6万点で、基本的には申請順の受付となる。前日には説明会が開催され、これまで説明が十分ではなかったコスト感などについても言及があった。以下は説明会の動画だ。

 基本的な部分はこれまで報じてきたことと同じだが、ここにきて明らかになった点、特にコストやフォーマットといった部分を紹介する。

 本申請の後、出版社は実際に電子化する作品を申請することになるが、出版社ごとに2011年の新刊発行点数の2倍までを優先して受け付けるとし、個々の書籍はISBNコードが付与されているもの(雑誌は対象外)で、出版社が対象書籍のデジタル化に対し、権利者から許諾を得ていることが前提。万が一問題が発生した場合は出版社が責任を負うことになっている。

 緊デジ事業が東北の復興を支援する目的もあるため、東北関連書籍の電子化は補助率が優遇され、通常1/2の補助額が2/3となる。出版社負担となる残りのコストについても、出版デジタル機構と契約していれば機構が立て替える仕組みとなっているため、電子化に伴う出版社のコスト負担は実質的にゼロといえる。

 この「関連」の定義も明らかとなり、東北6県(青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島)の出版社である場合、または内容が東北に関連する(著者が東北に関係する、物語の舞台や研究テーマが東北であるなど)場合にこれが適用されるという。この辺りは申請を基本的に信頼するが、申請状況を広く公開することでチェック機能を働かせたいという。

配信用にドットブック、XMDFが新たに追加、中間交換フォーマットは機構の1業務に

 フォーマットやコスト感の詳細も明らかになった。上述したように、今回の取り組みでは大きく分けてフィックス(固定)型とリフロー型の電子書籍を制作する。前者は出版社から入稿された底本を裁断の後、スキャンして電子化するもので、後者はDTPデータから制作、または印刷底本からのテキスト作成による電子化を行うものだ。

 今回の取り組みでは出版社は実質的に無料で電子化できるが、制作費のコスト感も示された。このうち、特別料金はルビやインデントなど、特別な指定を必要とする場合に発生する料金となる。なお、出版社ごとにフィックス型とリフロー型が半々の割合で申請されることを想定しているという。

フォーマット ページ数 基本料金 特別料金
フィックス型 500ページ未満 1万2000円 3000円
500ページ以上 1万5000円 4000円
リフロー型 500ページ未満 4万円 1万円
500ページ以上 6万円 1万5000円
テキスト入力 1ページ 700円 -

 制作会社から機構に納品されるのは配信用とアーカイブ用のファイル。大ざっぱに言えば、アーカイブ用のファイルは後で変換が容易な形で保存しておくためのもの。配信ファイルが実際に流通するファイルフォーマットだ。説明会では、このフォーマット周りに若干修正が加えられたことが発表された。これらをまとめたものが以下の表で、太字が今回変更された部分となる。

アーカイブ 配信
フィックス型 ソースファイル ドットブック、XMDF、EPUB3
リフロー型 TTX、記述ファイル ドットブック、XMDF

 これを見ると、フィックス型の配信ファイルにドットブックとXMDFが選択可能になったことが分かる。EPUB3の将来性はともかく、現状ではEPUBを取り扱う電子書籍ストアが少ない現実を考慮したためだという。

 また、リフロー型ではアーカイブ用ファイルに中間交換フォーマットが想定されていたが、これがTTXと記述ファイルに変更された。TTXはドットブックの、記述ファイルはXMDFのソースファイルに当たるものだ。これは、中間交換フォーマットに対する制作会社の経験値が低いため、それなら市場に合わせてTTXや記述ファイルで保持した方が効率がよいという判断だ。

 表から消えてしまった中間交換フォーマットだが、その変換業務などを機構が行う方向性が示された。中間交換フォーマットの変換業務を手元に残すことで、時代に合ったフォーマットへの変換を掛けるビジネスが可能になる。説明会では「出版デジタル機構に預けていれば変換業務などを受け持つ」とされたが、この辺りの詳細は十分に明かされなかった。

電子化されたものは3年間を目安に価格の20%程度を控除

 中間交換フォーマットの変換業務も機構のビジネスモデルの1つといえそうだが、別のモデルも浮かび上がりつつある。

 これまで機構が説明していたのは、出版社の電子化コストを立て替え、成果物となる電子書籍の売り上げから相殺できた時点で権利を出版社に戻すというものだった。これが、出版社が代行を依頼すれば電子書籍ストアでの販売まで機構が対応し、売り上げは相殺を待たず出版社と最初からレベニューシェアするモデルに変更された。具体的には、ファイル制作分として3年間を目安に価格の20%程度を控除するというもので、別途契約を結び直すなどすれば出版社は3年を待たずして買い取りなども可能にするという。これが機構のビジネスモデルといえるだろう。


 直前の変更点なども少なくないが、とにもかくにも本申請が始まったコンテンツ緊急電子化事業。eBook USERでは引き続き注目していきたい。

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