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» 2012年04月24日 10時30分 UPDATE

読者を「編集者」に――ネットの“発掘力”に期待する出版社

講談社と小学館、出版大手2社がこの4月に相次いでWeb上で新たな取り組みを始めた。どちらも共通するのは、ユーザー参加型で作品や作家を発掘しようとしている点。ネット時代の新しいヒットの生み方を、出版社が模索している。

[山田祐介,ITmedia]
photo 「プロジェクト・アマテラス」のトップページ。小説投稿の募集から、「やってほしいプロジェクト」の募集まで、さまざまな“お題”が掲示されている

 2012年度に入り、出版大手2社が相次いでネット上で興味深い取り組みを始めている。4月23日、講談社は読者参加型の新規事業「プロジェクト・アマテラス」を発表。同事業では、Webサイトを通じてコンテンツの制作過程に読者やクリエイターの卵などを巻き込み、寄せられた意見や創作物などを反映して作品を生みだしていくという。

 一方、小学館は18日にWeb漫画サイト「裏サンデー」をプレオープンした。同サイトではWeb漫画作家の連載作品を無料で公開しており、読者の反応が「訪問数」「得票数」「コメント」などで分かるようになっている。人気の高い作品を書籍化するなどして収益化を目指していく考えで、将来的には漫画投稿サイトとしてサービスを拡大することも検討されている。

 2つの新サービスに共通しているのは、ユーザー参加型で作品や新人作家を発掘しようとしている点。ネット上でまずコンテンツやプロジェクトを公開し、ユーザーの反応を受けてビジネス化にふみ出す。あるいはクリエイター予備軍のポテンシャルを見極める――こうした事業スタイルを取り入れようとしている。


才能ある「参加者」への期待

 既存の出版物の多くは、作家と編集者とが作品を完成させて初めて、読者の目に触れていた。しかしプロジェクト・アマテラスは、作品の制作過程に読者を巻き込み、ときにオーディエンスは「編集者」「作者」としての役割を担う。サイトでは、まず講談社の担当者がさまざまな「プロジェクト」を立ち上げ、これに一般ユーザーが意見や作品を投稿する。プロジェクトが盛り上がれば、参加者の意向や創作物を反映しながら作品を世に送り出す考えだ。参加の貢献度によっては、参加者に報酬が支払われるケースもあり得るという。

 どのようなプロジェクトが実際にあるのか。例えば、プロジェクトの1つ「姑獲鳥の夏」では、京極夏彦氏の長編小説をプロジェクト参加者とともに電子書籍化する計画だ。イラストやデザイン、装幀、フォーマットの選択など、電子書籍化に伴うさまざまな要素に参加者の意見や作品を反映させる。京極氏のもう1つのプロジェクト「百鬼夜行 Next generation」では、昭和20年代を主な舞台とした「百鬼夜行シリーズ」の“現代版”の設定を、参加者とともに作る。


photophoto プロジェクトでは掲示板での議論に加え、作品の投稿が可能

 有名作家・作品の支援プロジェクトだけでなない。ユーザーから「オリジナル小説の一番面白い部分8000字」だけの投稿を募る「ワルプルギス賞」プロジェクトなども実施する。投稿作品の中に良い作品があれば、執筆の依頼や書籍化を検討するという。こうしたプロジェクトの中で、優れた貢献をする“才者”を見つけ、関係性を深めていく――そんな青写真を講談社は描いている。

ネットを「発掘」の場に

 出版社はこれまで、主に新人賞の公募などで作家を発掘してきた。しかしインターネットが普及した今では「それだけでは不十分」とプロジェクト・アマテラスを担当する唐木厚氏(講談社 新事業プロジェクト部長)は話す。携帯小説ブームの最中には、人気の投稿作品が書籍化されて大きなヒットを生んだが、唐木氏は「なぜ(紙の)新人賞に応募されないのかと歯がゆい思いだった」という。作品発表の場は、もはや「賞」だけではない。

 また、コンテンツのネット化や電子化が進めば、支持される作品の傾向も変わってくるかもしれない。「携帯小説の新人賞に携わって、大失敗した経験がある。紙にプリントして作品を読んでしまったが、これでは良さが伝わらない」と唐木氏。携帯で読んで初めて伝わる間や雰囲気があると、同氏は話す。こうしたメディア(デバイス)の変化を加味して作品を見極める必要があり、そのためには紙だけで才能を発掘していてはいけない――そんな危機感が唐木氏の言葉からは感じられる。

 「これからはコンテンツの作り方が全く変わってくるだろう。紙からデジタルになるだけでなく、さまざまな変化が予想される。その変化に対応する才能を見つけたい」(唐木氏)

photo 読者の得票数や訪問数がひと目で分かる「裏サンデー」

 小学館の裏サンデーも、紙の習慣とは違った方法で才能を発掘しようとしている。漫画雑誌の多くは、賞で読み切り作品を公募し、作家を見出してきた。作家がデビューできるかどうかは編集者の評価にかかっており、「いい読み切りが描けないと連載ができない」という状況もあったという。裏サンデーでは、Web漫画作家にまず連載を持たせ、読者からの人気に応じて書籍化などの“次の一手”を決めていく考えだ。

 裏サンデーでは現状、小学館の編集者が目をつけたWeb漫画作家の作品が公開されている。しかし、同サイトの運営担当者が思い描く将来像は、“投稿サイト”だ。漫画家志望者が自由に連載作品を投稿し、サイト上で人気を競いあう。人気の高い作品に対しては出版社側がビジネスのサポートをする。このように、新たしい作家・作品を発掘する場としてサイトを機能させようとしている。


 無数の投稿作品の中からランキングで質の高い作品が浮かび上がったり、コミュニティの中でコンテンツが生まれる光景は、ネットユーザーにとっては見慣れたもの。こうしたネットの潮流に注目し、その“場”を出版社としてプロデュースしようと動き出したのが、プロジェクト・アマテラスであり裏サンデーといえる。

 一方で、こうした参加型サービスを盛り上げるには、紙の出版とは異なる運営ノウハウが必要とされるはずだ。「紙の時代に培ってきたプロデュース能力がデジタルでも生きると信じたいが、それだけでは不足するだろう」と、唐木氏は話す。手探りの中で船出した大手出版社のWebサービスに、ネットのオーディエンスはどんな反応を示すだろうか。

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