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» 2012年04月23日 18時00分 UPDATE

講談社、新規事業「プロジェクト・アマテラス」を発表――これは出版の地殻変動だ

講談社が動いた――新規事業「プロジェクト・アマテラス」を発表した同社は、ユーザーとともに作り上げる新しい出版モデルを作り上げようとしている。

[西尾泰三,ITmedia]
tnfigpa1.jpg プロジェクト・アマテラスのWebサイト。システム構築はチームラボ

 講談社は4月23日、新規事業と位置づける「プロジェクト・アマテラス」を発表した。出版大手の同社が手掛けるWeb事業は何を生み出すのだろうか――。

 天岩戸に天照大神(アマテラスオオミカミ)が隠れ、世界が暗闇に覆われた岩戸隠れの伝説――そんなアマテラスの名を冠したこのプロジェクトは、「あらゆるタイプの才能を多角的に発掘」できる「ユーザー参加型」の場で、「新たなプロモーション手法」を試す場でもある。正式なサイトオープンは4月25日だが、すでにプレオープンしており、同社が「プロジェクト型コンテンツ生成システム」と呼ぶサイトの姿とそこに並ぶ幾つかのプロジェクトが確認できる。

 同日開催された説明会で、講談社取締役の大竹永介氏は同プロジェクトについて「デジタル時代のコンテンツのあり方を考えるもの」と説明、ダイナミックまたは複合的な情報発信」を探求するものだと話した。

 プロジェクト・アマテラスで志向する「新しい制作スタイル」とは具体的にどのようなものだろうか。それは、プロジェクト型コンテンツ生成システムを通して、講談社と各プロジェクトに集う参加者が一緒になってコンテンツを作り上げていこうというものだ。

tnfigpa4.jpg 講談社新事業プロジェクト部長の唐木氏

 このプロジェクトを率いる唐木 厚新事業プロジェクト部長は、プロジェクト名の由来について、「天岩戸に隠れている“才能”に出てきてほしいという気持ちから」と話す。旧来、出版社は「○○賞」などの賞を創設することで作品の公募を行い、それによって新たな才能を見いだすことが多かった。しかし、優れた才能、そしてそれを楽しむユーザーが数多くネット上に集っている昨今の状況で、出版社としてどうあるべきかを考えた結果、今回の発表に至ったのだという。アメノウズメが講談社、アマテラスオオミカミが「時代に合った才能」といえばよいだろうか。

 「われわれが紙の出版で培ったプロデュース力はデジタルでも生かせると考えるが、それだけでは不十分。コンテンツの作り方も時代に合ったものに変わるため、その変化に対応する才能が必要」(唐木氏)

さまざまなプロジェクトを用意

tnfigpa2.jpg なんだって――!! MMR復活プロジェクト(予告)

 では、どのようなプロジェクトが用意されているのか。サイトを見てみると、さまざまなプロジェクトが並んでいる。

 例えば、「な、なんだってー」のせりふで30代以上にはおなじみかもしれない「MMR マガジンミステリー調査班」の復活プロジェクト。同プロジェクトでは、キバヤシ、ナワヤ、タナカ、イケダといったオリジナルメンバーが再び集結し、読者から寄せられた謎を調査するという方向性が現時点では示されている。恐らく誌面での連載なども視野に入っているとみられる。

 電子書籍関連では、京極夏彦氏全面協力によるプロジェクト「姑獲鳥の夏」が注目される。同プロジェクトでは、京極氏のデビュー作『姑獲鳥の夏』を底本として、イラスト、デザイン、装幀、フォーマット、ビューワなど、まだまだ課題が多い電子書籍の形を考えようとするもの。素材として、原稿用紙800枚にも及ぶ「姑獲鳥の夏」がプレーンテキストで公開され、それらを自由に使ってもらいながら理想の電子書籍の姿を模索するという。

tnfigpa3.jpg 京極夏彦氏関連のプロジェクトは自身の新作をともに作り上げていこうとするものと、自身の作品を素材にさまざまな実験的な取り組みを期待するものが用意されている(写真はプロジェクト姑獲鳥の夏から)

 また、京極氏に関連するプロジェクトとして、プロジェクト「百鬼夜行 Next generation」も立ち上がっている。こちらは、「京極堂には、係累がいた……平成の世に、京極堂が甦る!?」というあおりからも分かるように、昭和を舞台にした「百鬼夜行シリーズ」の現代版を執筆するに当たって、その世界観などのアイデアを募集しようというもの。

 さらに、まだサイトでは公開されていないが、西尾維新氏の新作「悲鳴伝」についてもプロジェクトが立ち上がる予定だ。悲鳴伝にはイラストが一切使用されていないが、それらのビジュアルイメージをユーザーから募集することなどが検討されている。同様に、ショートストーリーやイメージソングなど、展開は幾らでも考えられるが、こうしたサブプロジェクトがさらなる広がりを見せることも期待される。

 プロジェクトの参加者の声を取り入れながら、コンテンツを制作し、必要に応じてサブプロジェクトを立ち上げながらさまざまな才能が活躍できるようにする方針はほぼすべてのプロジェクトに共通している。そこに、講談社がこれまで培ってきた編集や販売に関するノウハウを混ぜ合わせながら、参加者全員で創造の喜びを感じてもらおうとする新しい制作スタイルがプロジェクト・アマテラスなのだ。発表資料には「いままでタブーと思われていたことにも積極的に挑戦」とあり、出版社だけでは打破できないような取り組みもプロジェクト参加者とともに変革していこうとする姿勢が打ち出されている。

 ここで強調しておきたいのは、講談社がプロジェクト・アマテラスで見つけ出そうとしている才能は、クリエイティブな才能だけではない。唐木氏は、「プロジェクトの応援も創作活動」だとし、プロジェクトを評価したり、話題にしたりすることの意義も重要視している。もともとこのプロジェクトが多様化を期待する性質のものなので、さまざまなユーザーに集まってほしいと考えるのは自然なことだ。そうしたユーザーも巻き込んでプロジェクトを大きくしていくのはプロジェクトリーダーの肩に掛かっているといってもよいだろう。現時点では講談社社員がプロジェクトリーダーを努めるものがほとんどだが、今後それらも必要に応じて開放していく意向が示されており、まったく新しいアイデアを講談社のサポートの下、世に送り出していくことも期待できるだろう。

 うがった見方をすれば、ネットで反応がよいものをビジネスにつなげていこうとするものだといえなくもない。ただし、参加者の貢献は、プロジェクト内に閉じることなく、対外的にもその貢献を示すことなどが明言されている。例えば、プロジェクトのアウトプットとして講談社から紙書籍が刊行された場合は、貢献者一覧のページが設けられるといった具合だ。場合によっては収益機会も得られるのではないかと思われる。こうした見方もできるが、どちらかといえば、純粋に情報の送り手と受け手の距離を狭めたいという考えのようだ。実際、唐木氏は、演者とオーディエンスの距離が近かった大衆芸能を引き合いにしながら、活版印刷の登場により送り手と受け手の距離が遠くなったと興味深い発言をしている。

 それぞれの出版社が時代に合った方針を模索する中、出版大手の講談社がこうした取り組みを開始したのは意義深い。当面の目標は、50個程度のプロジェクトが常時動いている状態を目指すとしており、しばらくは目が離せない状態が続きそうだ。

 「プロジェクト・アマテラスは大きなイベント会場のようなもの。ただし、はじめてのイベントであり、そこには失敗もあるだろう。だが、それもすべて糧にしていきたい」(唐木氏)

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