話題の「出版デジタル機構」って何?本紹姉妹が解説

4月2日に設立される新会社「出版デジタル機構」が注目を集めている。100万タイトルの電子化を目標に掲げ、賛同出版社は3月28日時点で274社。この新会社とそれに関連した動きを分かりやすく紹介する。

» 2012年03月29日 15時30分 公開
[ITmedia]

 4月2日に設立される新会社「出版デジタル機構」が注目を集めている。100万タイトルの電子化を目標に掲げ、賛同出版社は3月28日時点で274社。これからの電子書籍を語る上で外せない存在となるであろう出版デジタル機構について分かりやすく紹介する。

出版デジタル機構とは?

 出版デジタル機構とは、2011年9月に講談社・集英社・小学館・新潮社・筑摩書房・東京大学出版会・東京電機大学出版局・文藝春秋・平凡社など20社が設立に合意したもので、2012年4月2日に設立されることが決まっている。

 出版社がすべての出版物の電子化を目指して立ち上げる新会社で、代表取締役は、東京電機大学出版局の植村八潮局長が就任する。そのほか、講談社の野間省伸氏、小学館の相賀昌宏氏、集英社の堀内丸恵氏の社長3氏が取締役を、筑摩書房の菊池明郎会長が監査役を務める。3月28日時点の賛同出版社は274社で出資社は15社。投資ファンド産業革新機構も総額150億円を出資するほか、角川書店も出資予定という。

 なお、同社が提供するサービス名は「Pubridge」とされているが、同社がBtoCのビジネスを行うわけではない。

 出版デジタル機構の目指す姿として掲げられているのは以下の3つだ。

  • 電子出版物100万点を達成し、電子出版物の普及を促進する
  • 電子書店、図書館を通じ、広く読者に対して電子出版物を提供する
  • 出版社の電子出版事業拡充に資するインフラを構築する

なぜ今話題になっているのか

 ここからは、なぜ今出版デジタル機構が話題となっているのかを、eBook USERのコンテンツナビゲーションを担当する本紹五姉妹が紹介していきます。

本紹沙織本紹綾 今回出版デジタル機構を紹介するのは、長女の沙織と五女の綾です

 お姉ちゃん、さっぱり分からないよ! 出版社が一致団結して電子化を進める、ということ?

沙織 一致団結というとちょっと語弊はあるけれど、協力して電子化を進めるといったところね。業界では昨年から話題になっていたけど、ここに来てぐっと注目が高まっているわね。特に今注目を集めているのが、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」と連携した動きなの。

 コンテンツ緊急電子化事業?

沙織 略して緊デジ事業。この事業の目的を分かりやすく言えば、東日本大震災で被災した地域への復興施策。以下は経済産業省から発表されている事業目的よ。

東日本大震災の影響により被災地域では、出版関連事業者の生産活動が大幅に減退し、被災地域の書店等が失われたことにより地域住民の知へのアクセスが困難になっている。

被災地域において、中小出版社の東北関連書籍をはじめとする書籍等の電子化作業の一部を実施し、またその費用の一部負担をすることで、黎明期にある電子書籍市場等を活性化する。

それともに、東北関連情報の発信、被災地域における知へのアクセスの向上、被災地域における新規事業の創出や雇用を促進し、被災地域の持続的な復興・振興ならびに我が国全体の経済回復を図ることを目的とする。

 要するに、被災地域では知のアクセスが困難な状況で、雇用創出など経済復興の観点からも電子書籍を利用しようということかな。

沙織 そういうこと。少し補足しておくと、経済産業省はこの事業に約20億円(事業総額)の予算を付けていて、同事業の補助事業者は日本出版インフラセンター(JPO)よ。

 ふむふむ。

沙織 この事業の肝は、「書籍の電子化作業に必要な制作費用の一部を国が補助すること」。1冊の書籍の電子化に掛かるコストは3万円ほどといわれることもあるけど、刊行点数が多ければ結構な額になるし、そもそも電子化にまつわる諸作業は出版社にとっては不慣れな領域なの。「机と電話があれば出版社はできる」とはよく冗談めかして言われるけど、電子化のコストも人的負担も日本の大半の出版社にとっては大変な負担よね。だから、この事業では、その費用の50%を国が負担するよ、というわけ。特に、東北関連の書籍であれば、3分の2まで国が負担してくれることになっているわ。ちなみに、この事業で目標としているのは、約6万タイトルの電子化よ。

 で、出版デジタル機構はどういう役割なの?

沙織 コンテンツ緊急電子化事業における出版デジタル機構はいわば代理出版社なの。今回の取り組みでは、出版デジタル機構と契約すると、出版社は初期費用をまったく掛けずに電子化できるの。

 どういう仕組み?

沙織 費用を出版デジタル機構が立て替えて、電子化された作品の売り上げで相殺するというスキームよ。

 なるほど。出版社にとっては自社作品の電子化を無料でできて、かつ被災地域の振興にもつながるなら、乗らない手はないというわけね。オーサリングが東北でも行えれば一定の雇用創出にもつながるだろうしね。

沙織 まぁそういうことね。この仕組みって独禁法的にどうなのかなと思わなくもないけど、震災復興という錦の旗が掲げられているから、その辺りは大丈夫なのかな。ともかく、事業スキームを図にするとこんな感じね。図の右下にある電子化作業の委託業務などを行う中核企業は、ソニー、講談社、大日本印刷、凸版印刷ほか15社が出資するパブリッシングリンクに先日決定したわ。

コンテンツ緊急電子化事業の事業スキーム(JPO資料より作成)

 すごく……矢印が多い……。エンドユーザーとしては、タイトルがガッと増えるということでよいのかな?

沙織 スキームが複雑なのは、出版社としての実績があるかどうかや、予算がしっかりと国内の経済復興につながるように、つまり、オーサリング作業を海外にアウトソーシングしたりすることのないように配慮した結果ね。

 で、エンドユーザーとしては電子書籍として購入できるタイトルが増えるという理解でおおむね問題ないわ。今比較的品ぞろえが豊富なGALAPAGOS STOREが5万4000点タイトルほどだけど、そもそも2010年後半から相次いで立ち上がった電子書籍ストアはどこも「2011年末には10万タイトルのラインアップをそろえる」と喧伝してたよね。でも、結局そうはならなかった。それにはいろいろな事情もあったんだろうけど、今回は明確に6万タイトルを目標として掲げているから、2012年度末には既存のものと合わせて10万タイトルを超えるのは間違いないわね。

 なるほど。あ、そういえば電子書籍のフォーマットとかはどうなるのかな?

沙織 ここは結構デリケートな部分だから、eBook USERの編集さんがしっかり取材するといってたわ。そのほかにも電子出版コードや権利周りの話もあるし。いずれにせよ、今年の電子書籍市場で大きな動きといえるんじゃないかしら。



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