コンテンツ利用だけでなく、何かを創りだす、クリエイティブな分野でも新型iPadは大きな飛躍を遂げている。それを強く感じたのが、新たにリリースされた「iPhoto」である。
iPhotoはMacではおなじみの画像管理・加工ツールであり、利用そのものは先代iPad 2でもできる。しかし、新型iPadで使うiPhotoは別格だ。デジタル写真の世界に革命を起こすものと言っても大げさではない。
それは新型iPadのiPhotoで、写真を触ってみれば分かる。
まず表示される写真が、まるでデジタルプリントされたかのように美しい。Retinaディスプレイの高解像度により、PCで表示するよりも、カメラで撮影されたそのままの写真に近いのだ。これはiPad内蔵カメラはもちろんだが、別売のApple iPad Camera Connection Kitを用いて、デジタル一眼レフカメラの写真を読み込むとさらによく分かるだろう。光のゆらめきや素材の質感までディスプレイ上で確認できる。
そして、写真の管理や加工もMac版iPhotoより直感的で使いやすい。サムネイル画面で写真をダブルタップすれば似た写真をピックアップし、編集画面では指先1つで簡単に写真を加工できる。これまでだったら自宅に帰り、PCを立ち上げて写真を読み込まなければできなかったようなことが、ちょっとした外出先から旅行先まで、どこででもできてしまうのだ。
この「新型iPad + iPhoto」は何かと写真を撮ることの多いファミリー層はもとより、カメラ好きの人に広く勧めたい組み合わせだ。最近ではコンパクトなデジタル一眼カメラを持ち歩く女性も増えているが、そういった人たちが気軽に、でもきれいな写真を楽しむのにぴったりなのだ。
また、新型iPadは内蔵カメラを使っても楽しい。
背面側のiSightカメラは500万画素に解像度が上がっており、レンズ部分の光学系はF2.4の開口部と5枚のレンズの構成になった。800万画素の「iPhone 4S」と比較するとイメージセンサーの性能はやや劣るが、光学系のスペックは同等である。
今回、筆者は家族と一緒に小旅行に出かけ、そこで新型iPadをカメラ代わりに使ってみた。実際にiPadで写真を撮ってみると、最初は画面の大きさに苦笑してしまうが、なかなかどうして使い勝手はよい。「撮影される写真」がそのままのクオリティでディスプレイに表示されるのは、使ってみるととても便利だ。むろん、撮影後にすぐに高解像度で確認したり、iPhotoで編集できるのも便利だ。
さらに動画撮影で使ってみると、新型iPadの「1080p フルHD撮影」の威力を感じる。録画された映像はとても緻密で、何も言われなければ専用のデジタルビデオカメラで撮影したものだと思ってしまうだろう。しかもこれも、撮影したそのままの品質ですぐにiPadの画面上で見られる。ファミリー層の人はぜひ試してもらいたいのだが、これは妻や子供たちにとても喜ばれる機能である。
新しいiPadで撮影した動画サンプル (表示されない場合はこちらから) |
新しいiPadで撮影した動画サンプル (表示されない場合はこちらから) |
このように新型iPadの魅力は枚挙にいとまがないが、実際に利用してみて気になった点もある。それは従来以上に高速通信が欲しい、ということだ。
ここまでで述べたとおり、Retinaディスプレイを搭載した今回のiPadはユーザー体験が劇的に上がり、高品質なコンテンツ/アプリが利用できるようになった。しかしこれは、Retinaディスプレイの高解像度に合わせて、コンテンツ/アプリの容量も増えていくということでもある。そのため通信速度は速ければ速いほどよい。しかし、日本では北米でラインアップされたLTE版が用意されなかった。
率直に言えば、筆者は今回のiPadを3Gインフラで使うのは少しもの足りないと感じている。日本向けにLTE版がない以上、ドコモの「Xi」やUQコミュニケーションズの「モバイルWiMAX」、ソフトバンクの「SoftBank 4G」、イーモバイルの「emobile LTE」など、ポスト3G時代の次世代通信サービス対応のモバイルルーターと組み合わせて使うことのメリットが大きいと感じるのだ。その上で、GPSなど3G版にしかない機能も欲しいならば「3G + Wi-Fi版」を、少しでも通信コストを抑えたいなら「Wi-Fi版」を買うことを検討するといいだろう。
AppleはポストPCを打ち出し、実際にコンピューターとインターネットのトレンドを、初代iPadからiPad 2によって変えてきた。ITの世界では大きな革新が起きたといっていい。
しかし、今回の新型iPadのインパクトは、それとは比較にならないほど大きなものだ。そのユーザー体験がPCを超えただけでなく、有史以来もっとも古くて重要なメディアである紙をも超えたのだ。紙の発明に匹敵するほどの意義を、Retinaディスプレイを搭載したiPadは持っている。デジタルの世界が、アナログの世界についに肩を並べた。新型iPadを使えば使うほど、その直感が実感に変わっていった。
最後に1つ、おわびを述べねばならない。
この記事内では写真や映像を多く使い、新型iPadを紹介してきたが、どれ1つとしてRetinaディスプレイの実力は伝え切れていない。PCのディスプレイやテレビの解像度は新型iPad以下であり、この網膜にぴたりとあう緻密さ・美しさが伝えられないのだ。
だからぜひ、新型iPadが発売されたらApple Storeをはじめとする販売店に足を運び、実物のRetinaディスプレイを見て触ってもらいたいと思う。それでしか、新型iPadのすごさと可能性は分からない。そして自らの目で実際に見たら、筆者の「紙の発明に匹敵する」という評価が正しいかどうか分かっていただけるはずだ。
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