目的に特化した設計を安価に――東芝「BookPlace DB50」最新電子書籍端末レビュー

東芝が発売した電子ブックリーダー「BookPlace DB50」は7インチカラー液晶を搭載する非常に軽量な端末だ。東芝独自の魅力が詰まった同端末のファーストインプレッションをお届けしよう。

» 2012年02月29日 14時00分 公開
[前島梓,ITmedia]
BookPlace DB50 東芝の電子ブックリーダー「BookPlace DB50」

 東芝が2月10日に発売した7型カラー液晶を搭載する電子書籍リーダー端末「BookPlace DB50」(以下DB50)。カラー液晶を搭載した電子書籍“専用”端末が内資系のベンダーから提供されるのはパナソニックの「UT-PB1」以来となる。なお、同社はDB50を『電子ブックリーダー』と呼称している。

 DB50と類似する製品としては、上述した「UT-PB1」のほか、Androidタブレット化する以前のシャープ「GALAPAGOS」などが挙げられる。また、海外に目を向けると、Barnes & Nobleの「NOOK Color」「NOOK Tablet」、Amazonの「Kindle Fire」などもある。いずれもAndroid OSをベースにしながら(DB50はAndroid 2.3.4ベース)、独自のUIなどで差異化を図っている製品だ。

 そんな中で、東芝が世に送り出したDB50は、発表会での同社の言葉を借りれば、「汎用機ほどのリッチな機能は備えないが、目的に特化した設計を安価に提供した」製品だ。価格はオープンだが、本稿掲載時点の市場価格は約2万円。この価格には、電子書籍の購入に利用できる5000円分のポイントがあらかじめ含まれているため、実質的な本体価格は1万5000円前後とこの種の端末としては安価な部類に属する。

 以下では、ベンダーの評価機を基に、ファーストインプレッションをお届けしよう。

スペックで見る「BookPlace DB50」

 まずはDB50の基本的なスペックのおさらいから。

メーカー 東芝
モデル名/型番 DB50/25E PDB5025ENAW
サイズ 約120(幅)×190(奥行き)×11(高さ)ミリ
重量 約330グラム
画面解像度 1024×600ドット
ディスプレイ 7インチカラーLED液晶
CPU Freescale i.MX535 1GHz
メモリ容量 1Gバイト(オンボード)
内蔵ストレージ 8Gバイト(ユーザー使用可能領域は約6Gバイト)
メモリカードスロット microSD
通信機能 IEEE802.11b/g/n、Bluetooth(Ver2.1+EDR)
タッチ操作 対応
コネクタ USB(microB)、ヘッドフォン(3.5ミリピンジャック)
バッテリー持続時間(メーカー公称値) 約7.5時間
利用できる電子書籍ストア BookPlace

 主要なスペックの比較対象として、Kindle Fire、NOOK Tablet、UT-PB1を並べたものが以下の表だ。NOOK Tabletは最近発売された8Gバイトモデルで比較している。

  BookPlace DB50 Kindle Fire NOOK Tablet UT-PB1
メーカー 東芝 Amazon.com Barnes & Noble パナソニック
本体サイズ(※最厚部) 120×190×11ミリ 120×190×11.4ミリ 127×205.7×12.2ミリ 133×206×13.9ミリ
重量 約330グラム 約413グラム 約399.7グラム 約400グラム
内蔵ストレージ 8Gバイト 8Gバイト 8Gバイト 8Gバイト
価格 2万2000円前後 199ドル(約1万5500円) 199ドル(約1万5500円) 2万9800円
BookPlace DB50とスペックが近い製品とを比較したもの

 基本的なスペックは他社の7インチタブレットとさほど変わらないが、端末重量はほかを圧倒する330グラムという軽さだ。これはGALAXY Tab 7.0 Plus SC-02D(約345グラム)をも上回るトップレベルの軽さで、競合製品を圧倒している。また、本体の厚みも11ミリと薄い。こうした要素は読書体験にも大きく影響するため、この点でDB50は優秀な製品だといえる。

 なお、DB50でサポートされているファイル形式は以下の通り。

音楽:AAC LC、MP3、MIDI、AMR-NB、AMR-WB、Ogg Vorbis、HE-AACv1、HE-AACv2(enhanced AAC+)

画像:JPEG、PNG、GIF、BMP

動画:H.263、MPEG-4、H.264、VP8、VC-1/WMV9


外観チェック

 次に外観をチェックしてみよう。本体は白を基調とし、正面から見ると端末下部にホームボタンがあるだけのシンプルなデザインとなっている。本体上面には電源ボタンのほか、MENU、BACK、CONTINUE、VOLUME(大/小)といったハードウェアボタンが用意されている。それぞれの機能は以下のようなものだ。

DB50のハードウェアボタン

POWER:電源のオン/オフ、サスペンド状態のオン/オフ

MENU:メニューがある場合に表示。本棚画面では設定画面を表示

BACK:1つ前の画面に戻る。本棚画面では一番上の棚までスクロールする

CONTINUE:最後に読んでいた書籍のページを表示。長押しで読書履歴を表示

VOLUME:+−で音量を調整

HOME:本棚画面のホーム棚を表示。長押しで省電力モードのオン/オフ


 ハードウェアボタンは基本的に文字通りの単機能を提供しているものなのでさほど説明の必要もないだろうが、このうちホームボタンは長押しすると無線LANをオフにできる省電力モードに切り替える機能も備えている。また、CONTINUEボタンはDB50で特徴的な機能の1つなので後ほど詳しく紹介しよう。

 左側面にはカバーに覆われたmicroSDスロットが存在する。底面にはmicroUSBポート、イヤフォンジャック、モノラルスピーカーが備わっている。なお、本製品にはACアダプタが存在せず、給電はmicroUSBポートから行なう。

本体上面。写真右からPOWER、MENU、BACK、CONTINUE、VOLUMEボタン(写真=左)/本体底面。モノラルスピーカー、イヤフォンジャック、microUSBポートが並ぶ(写真=右)
本体左側面。カバーに覆われたmicroSDスロットがある(写真=左)/本体右側面。こちらにはボタンや端子類はない(写真=右)

読書に特化した画面設計

 DB50は専用端末だけあって、電源を入れると最初に表示される画面はAndroid OSで一般的なものではなく、本棚のような画面が表示される。これは専用端末ではさほど珍しいことではない。この画面がホーム画面と呼ばれ、本体下部のホームボタンを押すと、どの画面を表示していてもこの画面に戻ることができる。

ホーム本棚。3段目のマニュアルのようにシリーズものの作品の場合はこうしてまとめて表示できる(写真=左)/本棚画面は左右にフリックすることで別の本棚を表示できる。写真は立ち読み棚(写真=中央)/プリインストールアプリは8種類(写真=右)

 また、そこから画面上部の帯部分を左右にフリックすることで、立ち読み棚やユーザーが作成した本棚に切り替えることができる(追加できる本棚は7個まで)。立ち読み棚とはストアから自動配信される期限付きの書籍や試し読みの書類が並ぶ棚だ。なお、ホームボタン押下時の遷移先はこれらの本棚の中から任意に設定できるほか、JPEGまたはPNGのファイルを用意すれば、本棚の背景画像に設定することもできる。

 なお、この本棚画面は書影が並ぶタイプのほか、リスト表示も可能だ。リスト表示の場合はキーワード検索なども可能になるので好みに応じて選ぶとよいだろう。

 ところで、DB50には本棚とは別に「保管棚」というものが存在する。これは端末の容量を抑えるために、電子書籍ファイルをインデックス情報だけ残して端末から削除する仕組みといえる。例えるなら、本好きが本を買いすぎて部屋に収納できなくなり、あまり読まない本を納屋にしまい、部屋のスペースを確保するようなものだと考えれば分かりやすいかもしれない。保管棚に移した時点で端末から書籍データは削除されるが、購入履歴はストア側に残っているため、ストアから再度ダウンロードすることで読むことができるというものだ。仕組みとしては難しいものではないが、保管棚に移す際、端末上ではゴミ箱アイコンをタップすることになる。基本的には購買情報から再ダウンロードできるということを抑えておけばよいのだが、ゴミ箱というアイコンから一般に連想される機能とは少し異なるので注意が必要だ。

 操作系については標準的な作りとなっている。ページめくりは画面両側のタップまたはフリックで行え、画面中央をタップするとMENUボタン押下時と同じメニューが表示される。表示周りの設定項目はフォントサイズや行間の調整、拡大/縮小、反転本(背景を黒、文字を白)設定といったもののほか、単語のWeb連携機能(単語の選択により、Wikipediaサイトで検索)など比較的充実している。なお、IMEは富士ソフトのFSKARENが採用されている。

読書画面。画面ではメニューを表示している(写真=左)/フォントサイズなどはスライダーバーを操作して変更する(写真=中央)/ビューワの設定項目は比較的充実。反転本設定(ナイトモード)も可能

利用可能な電子書籍ストアは東芝「ブックプレイス」

 次にDB50で利用できる電子書籍ストアについて。DB50で利用できる電子書籍ストアは、東芝が運営する「ブックプレイス(BookPlace)」。同ストアは、凸版印刷系の「Booklive!」のシステムを利用する形で運営されており、各種プラットフォーム向けにアプリがリリースされているので、PCやAndroid端末でも購入した電子書籍を読むことができる。なお、同一アカウントで購入した書籍であれば最大3台までの端末で読むことができ、BookLive!を経由してiPhoneで読むといったこともできる。

 Booklive!のシステムがベースとなっているので、基本的な購入プロセスもそれに準じたものとなっている。ストアにログインした状態であっても、電子書籍購入の際、パスワードの入力を求められるのもBooklive!と同様だ。シリーズものをまとめ買いできる仕組みもあり、端末側でも、シリーズものをまとめて表示するような機能があるなど工夫を凝らした様子がうかがえる。

 DB50の内蔵ストレージは8Gバイト。このうちユーザーが利用可能な領域は約6Gバイトほどだ。一般的なユーザーであればすぐに容量が足りなくなるということはない容量だが、足りなくなればmicroSDカードを用意し、そこに保存すればよい。内蔵メモリに保存されるしおりやマーカーといった情報も、microSDカードにバックアップできる。PDFファイルを入れたmicroSDをDB50にセットすると、本棚画面のホームにそのPDFファイルが現れる。

 ただし、DB50で書籍データを保存したmicroSDカードを別の端末などにセットしても、カード内の電子書籍が読めるわけでない。また、端末を初期化した場合は、書籍データを保存していたmicroSDカードをセットしても、書籍データはブックプレイスから再ダウンロードする必要がある。

特徴的なCONTINUEボタン

CONTINUEボタン長押しで読書履歴の表示

 さて、DB50の特徴として挙げられるCONTINUEボタンについて触れておこう。一言で表現すれば、「どの画面からでも読書に戻れる」ということになるだろうか。DB50は電子書籍専用端末だが、実際には、本棚の画面もあれば、ストアの画面もあり、Adobe Reader、Webブラウザ、メール、ギャラリー、カレンダー、電卓、時計、設定といった幾つかのプリインストールアプリなども用意され(Flash Playerは未搭載)、汎用機には及ばないものの、電子書籍を読む以外のこともできるようになっている。Androidマーケットには非対応なので、基本的には自分で追加のアプリを入れることはできない。

 一度読書し出すと読み終わるまでほかのことはしない、という方ならともかく、ほかの作業をしたくなるケースは往々にして存在する。そうしたときに再び読書に戻るには案外手間が掛かることが多い。DB50でも素直に考えれば、ホームボタンを押して本棚画面に戻ってから読みかけの書籍をタップするといった流れになるが、それをワンボタンで行えるのがCONTINUEボタンというわけだ。ボタンを長押しすることで読書履歴の表示も可能なので、直近に読んでいたものだけでなく、これまで読んだ履歴からさっと読書を再開できる。

 ただし、ホームボタンを除くハードウェアボタンが本体上部にまとめられているのは評価の分かれるところだ。ハードウェアボタンが持つ機能の幾つかは画面の中央をタップすることでも呼び出せるが、それでもソフトウェアボタンが表示されない場面なども多々あり、使用頻度はそれなりに高い。本体を持った手でこれらのボタンを操作するのは不自然な格好になるので、自然ともう一方の手で操作することになるが、筆者にはこれが少々わずらわしく感じられ、両手を使わなければならないということも片手で持てる軽量性という大きなメリットを損なっているように思える。

 また、ボタンレイアウトについて苦言を呈したついでに、もう1点触れておきたい。それが液晶の品質だ。DB50はTFTカラーLED液晶を搭載しているが、その色温度はかなり高め(10000K程度と思われる)に仕上げられている。輝度を稼ぐためか、液晶のコストを抑えた結果か、真相は分からないものの、液晶パネルの品質には若干の課題が残る。ブックリーダーという端末の性質上、本を読むことがメインとなる中で、この液晶で本を読むのは筆者にはややつらかったことを付け加えておく。そうした意味でも、次に紹介する音声読み上げ機能を活用したいところだ。

意外にいいぞ! 音声読み上げ機能

 DB50の特徴的な機能として触れておきたいのがテキストデータから音声を生成する東芝独自の音声合成機能「TOSHIBA Speech Synthesis」だ。といってもDB50のみに備わっている機能ではなく、ブックプレイスリーダーアプリが搭載されている東芝製端末、例えばREGZA Tabletなどにも備わっている機能だ。あくまで読み上げ機能に対応した電子書籍(本棚の書影表示ではアイコンで確認できる)でのみ利用可能な機能で、音声合成ということでどこまで実用的なのかと疑問に思う方も少なくないだろうが、これが意外によくできている。

 音声は男声と女声の2種類が用意され、読み上げ速度は5段階で設定できる。単語によっては違和感を覚えることもあるが、単語登録などである程度は解消でき、全体としてはおおむねスムーズに読み上げてくれる。情緒豊かな描写が多い作品だと興を削がれてしまうかもしれないが、混雑する電車の中でビジネス誌などを早めのスピードで聞くなどのユースケースでは便利な機能で、積極的に活用を進めたい。

バランスが取れた電子書籍普及期の端末

 以上をまとめると、細かなところで気になる部分はあるとはいえ、電子書籍の購入から閲覧まで全体的にスマートに使いこなせる1台だといえる。その意味では冒頭に紹介した「目的に特化した設計を安価に提供」というフレーズはそのとおりで、割り切りの良さが垣間見える。

 東芝はタブレット製品としてDB50と同じ7インチ液晶を搭載する「AT3S0」をリリースしているため、両製品の差別化をどう図っていくかは課題だが、万人がリッチな機能を備える端末を必要とするわけではないし、予算などもあるため、ユーザーの求める機能や価格帯に応じて選択すべし、というメッセージなのかもしれない。

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