「Amazonがやってくる」で一挙に燃え上がった爽涼の電子書籍市場eBook Forecast(2/2 ページ)

» 2011年10月24日 12時00分 公開
[前島梓,ITmedia]
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ヤフーの本格参入

 本連載では、楽天の電子書籍ストア「Raboo」に注目していることを以前お伝えしました。TSUTAYAのTポイントやローソンのPonta、そして楽天の楽天スーパーポイントなど、利用者の多いポイントサービスと連携できる電子書籍ストアは、それだけで巨大な潜在ユーザーを有しているというのが主な理由です。

 そんな中、上記の条件を満たす強力なプレイヤーとして浮上してきたのが、国内最大手ポータルサイトを有するヤフーです。同社は10月7日、電子書籍配信サービス「Yahoo!ブックストア」を今冬にも開始することを明らかにしました。

 ヤフーはすでに「Yahoo!コミック」という漫画を中心とした電子書籍ストアを展開していますが、これを総合電子書籍ストアに発展拡大させる形でスタートさせる意向です。ヤフーというブランド、ヤフーが提供する各種サービスとの連携、そしてYahoo!ポイントとの連携、電子書籍ストアとして成功する要素はひととおり兼ね備えています。

 ヤフーの電撃参戦で注目すべきは大きく2点。電子書籍のフォーマットにEPUB 3を採用したことと、オンラインストレージ「Yahoo!ボックス」を書庫として利用可能にすることです。EPUB 3はまだ完成したばかりなので、目標としている3万点のラインアップをサービスインまでにそろえられるかは注目して見守りたいと思いますが、ヤフーとともにEPUB 3の検証を強力に行ってきた集英社をはじめ、EPUB 3の国際性に着目した出版社などが1販売チャネルとしてYahoo!ブックストアに作品を提供してくることが予想されます。

シャープのGALAPAGOS、少し足踏みか

 ソニーの「Reader」とともに2010年の電子書籍市場をけん引したシャープの「GALAPAGOS」。ここに来て、両者は明暗がはっきりと分かれる形になりました。

 9月15日には、2010年12月に発売したメディアタブレット「GALAPAGOS」2機種を9月30日で販売終了とする旨を発表。製品サイクルを考えると、これ自体は本来さほど不思議な話ではないですが、それまで市場が抱えていた漠然とした不安がネガティブな方向へと一気に傾いてしまいました。複数のメディアはGALAPAGOS事業からの撤退と断定的に報じ、翌日には担当役員が「GALAPAGOSは決して撤退しない」とコメントを出す事態にまで発展しました。

 しかし事態はこれで収束しません。9月27日には、シャープとともにTSUTAYA GALAPAGOSを展開していたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)がTSUTAYA GALAPAGOSからの離脱を発表、CCCが保有するTSUTAYA GALAPAGOSの株はシャープがすべて買い取り、新社名を「GALAPAGOS NETWORKS」に、電子書籍ストアを「GALAPAGOS STORE」に改めることが発表されました。

 報道では発展的解消とされていますが、TSUTAYA GALAPAGOSはシャープが49%、CCCが51%出資してできた合弁会社です。そのCCCがすべての株を手放したことの意味は言わずもがなでしょう。東洋経済は、GALAPAGOSの一般販売台数が5000台ほどだったと報じていることなどを考えると、両社が当初交わしたであろう販売目標の達成が困難になったため、CCCが離脱、シャープが責任を持って株を買い上げたのだと推察されます。

 Appleのような垂直統合型のモデルで勝負に臨んだシャープのGALAPAGOSですが、ここまでの結果は控えめに言っても芳しくありません。GALAPAGOS事業は今後、すでにスマートフォン向けにアプリの形でも展開している電子書籍ビジネスだけでなく、家庭・家族向けや電子教科書などの教育市場に目を向けていくとしており、来年にはGALAPAGOSの新モデルを発表するともしています。とはいえ、まずは何が問題だったのかを見つめ直さなければ、再び同じ轍を踏むことになるのではないでしょうか。

ソニーの「Reader」新モデル登場、他ストアとの連携も始まり上り調子

新Reader、ストア連携によりコンテンツも充実し、「買い」の1台に

 一方のソニーは、8月末に発表していた電子書籍リーダー端末「Reader」の新モデル「PRS-T1」の国内投入を発表し、ビジネスを堅調に進めています。国内向けにはWi-Fiモデルの「PRS-T1」が10月20日に発売され、登場が待望されている3Gモデルの「PRS-G1」が海外に先行して11月25日に発売予定です。3G接続のパートナーはソニーとともにブックリスタ陣営といえるKDDI。Reader Storeに接続するだけであれば、3G通信のコストは実質的に無料で、Webブラウジングなども行いたい方向けに月額580円のプランも用意されています。

 新Readerのポイントは、大きく「PCレスで利用可能」「通信機能を強化」などです。北米市場向けには3G+Wi-Fi通信機能内蔵の「Daily Edition」が提供されていましたが、昨年国内向けに登場したReaderは通信機能を搭載せず、電子書籍はPCから購入したものを本体に転送するという煩わしさが残るものでした。それが新モデルで一挙に解消されたのは評価できます。

 ハードウェア的には、6型の電子ペーパーを搭載した端末としては世界最軽量となる168グラムの端末(PRS-T1)に仕上がっているのもポイントです。本を読まない方にはさほど刺さらないでしょうが、何冊も持ち歩くような方からすると、この軽さは魅力的ですね。ただし、海外のレビューを見ると同じモデルでも国内向けでは一部の機能(Google BooksやOverdriveとの連携)が削られているようです。

 価格はPRS-T1が2万円前後、PRS-G1は2万6000円前後と、後述するAmazonの新Kindleなどに比べるとやや高いのが残念ですが、Readerは楽天の「Raboo」、紀伊國屋書店の「紀伊國屋書店BookWeb」といった電子書籍ストアのコンテンツも閲覧可能になるなど、見事な進化を遂げました。現時点で筆者がお勧めの電子書籍リーダーを1つ挙げろと言われれば、迷わずReaderと答えます。ソニー、楽天、紀伊國屋書店、パナソニックの4社による取り組みは順調に推移しているようですが、パナソニックの「UT-PB1」が放置されているように思えるのが少し気がかりです。

そのほかのトピック

 これまで紹介してきたトピックに比べると注目度は低いですが、ウオッチしておきたいトピックも幾つか紹介しておきます。

 まずは、昨今話題が尽きない「自炊」関連。9月上旬にスキャン代行業者(自炊業者)に対して出版社7社、作家・漫画家122人が『自炊業者』に質問状を送付したことは大きな話題となりましたが、その後の詳細が「自炊業者の回答、86%が『スキャン事業は行わない』など」として報道されています。

 これによると、質問状は自炊業者83社に届き、43社から回答が得られたようで、「事業終了」「サイトを閉鎖した」と答えた事業者が37社(86.0%)に上ったとされています。実際、自炊代行ドットコムは写真や手紙、書類などのスキャン代行サービスに業態を刷新するなど、サービスの見直しを図ったところも現れました。

 このほか、国内の出版社20社が電子出版ビジネスの新会社「出版デジタル機構(仮称)」の設立に合意しました。「日本電子書籍出版社協会」(電書協)など、似たような団体がすでに複数存在する中、「またか」という印象ですが、これで事態がよい方向に進むのならエンドユーザーとしても大歓迎です。今後の取り組みが注目されます。

 あとは角川グループホールディングス(GHD)によるメディアファクトリー買収も今後が気になるトピックです。この買収により、ライトノベルではほぼ角川一強となり、影響力がさらに高まっていきそうです。


 来月は、いよいよ発売されるKindle Fireの話題が中心になってくると思いますが、年末に向けてさらなる大きな話題があるかもしれません。Appleの動きにも注意を払いつつ、少し明るい方向に進み出した電子書籍市場に引き続き注目していきましょう。ではまだ次回。

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