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» 2011年09月06日 14時30分 UPDATE

出版社からスキャン代行業者への質問状を全文公開、潮目は変わるか

「出版社7社、作家・漫画家122人が『自炊業者』に質問状」が話題となっている。ここでは、スキャン代行業者に送付された質問状の内容と、今後の動きについて考える。

[西尾泰三,ITmedia]

出版社7社、作家・漫画家122人が突きつけた質問状

 書籍を裁断・スキャンして電子化する行為を表す「自炊」は、Googleなどで検索すると、本来の炊事の意味より上位にくるまでになった。実際、さまざまな理由――電子化して部屋を広くしたい、大量の書籍や漫画を電子書籍端末で読みたい、など――から、自炊を行うユーザーは増加傾向にあるが、スキャナや裁断機などの購入をためらうユーザー向けに、それらを代行してくれる業者も複数登場し、人気を博している。

 そんな中、9月5日にニュースとなった「出版社7社、作家・漫画家122人が『自炊業者』に質問状」は、こうしたスキャン代行業者(自炊業者)に対する出版社・作家からのアクションとして注目を集めている。

 著作権法第30条1項では、著作物の私的使用を目的とする場合は、その「使用する者が複製することができる」と定められている。また、30条1項1号では、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合」、つまりコンビニエンスストアなどに置かれたコピー機などでコピーする場合は除くとある。しかし、スキャン代行業者が提供しているサービスは、「使用する者」ではない業者が主体で、かつ1号の自動複製機器に該当するため、業者には可罰的違法性があり、それを依頼した者も違法であるという見解が一般的だ。ただし、これは現行法の解釈であり、判例が存在するわけではないため、現時点ではグレーゾーンという位置づけにある。

 この状況に対し、出版社が何らかの法的措置を検討していることは過去にもお届けしたが(関連記事参照)、それが動き出したのが今回の質問状送付である。

 9月6日には、スキャン代行業者にこの質問状が届き始めており、その内容が明らかになった。以下はeBook USERが入手した質問状を文字起こししたものだ(住所や連絡先など一部は割愛した)。

質問書

前略

別紙記載の差出人(以下「差出人」といいます)は、貴社が、受注による市販書籍のスキャン事業(以下、「スキャン事業」といいます)を行っていることを把握しております。これに関し、貴社に以下のとおり質問します。

(質問1:)

 スキャン事業を行っている多くの業者は、インターネット上で公開されている注意事項において、「著作権者の許可を得た書籍のみ発注を受け付ける」「発注された書籍は著作権者の許可を得たものとみなす」などの定めをおいています。

 差出人作家は、自身の作品につき、貴社の事業及びその利用をいずれも許諾しておらず、権利者への正しい還元の仕組みができるまでは許諾を検討する予定もないことを、本書で通知します。

 かかる通知にもかかわらず、貴社は今後、差出人作家の作品について、依頼があればスキャン事業を行うご予定でしょうか。

(質問2:)

(1)貴社はスキャン事業の発注を受け付けるに際して、依頼者が実際に私的利用を目的としているか否かを、どのような方法で確認しておられるのでしょうか。

(2)貴社は、スキャン事業の、法人からの発注に応じていますか。

ご多忙とは思いますが、以上の各質問に対し、2011年9月16日までに、本質問書に添付の回答書により、下記の宛先までご回答下さい。

出版七社連絡会事務局


(別紙)

差出人一覧

あいだ夏波 愛本みずほ 青木琴美

青山剛昌 赤川次郎 秋本治

浅田次郎 浅田弘幸 あさのあつこ

阿刀田高 荒木飛呂彦 安藤なつみ

いくえみ綾 池野恋 池山田剛

石川雅之 石田衣良 石塚真一

石持浅海 伊集院静 一条ゆかり

五木寛之 内田康夫 浦沢直樹

江國香織 大暮維人 逢坂剛

大沢在昌 小川洋子 荻原浩

奥浩哉 奥泉光 甲斐谷忍

角田光代 桂正和 神尾葉子

上条明峰 川上弘美 かわぐちかいじ

岸本斉史 北方謙三 北川みゆき

北川タ夏 北見けんいち 樹林伸

京極夏彦 桐野夏生 くらもちふさこ

黒井千次 小池真理子 香月日輪

小山宙哉 さいとう・たかを 坂上弘

桜小路かのこ 里中満智子 猿渡哲也

椎名軽穂 重松清 篠田節子

白石一文 清野静流 宗田理

タアモ 高橋源一郎 ちばてつや

筒井康隆 津山ちなみ 冬目景

永井豪 西炯子 西村京太郎

楡周平 乃木坂太郎 馳星周

畑健二郎 葉月かなえ 林真理子

はやみねかおる 春田なな 東野圭吾

平岩弓枝 弘兼憲史 深見じゅん

福井晴敏 フクシマハルカ 藤子不二雄A

藤島康介 藤田宜永 武論尊

誉田哲也 槇村さとる 真島ヒロ

増田こうすけ 松本ひで吉 松本零士

三田紀房 道尾秀介 皆川亮二

水波風南 南勝久 宮城理子

宮城谷昌光 宮本輝 村山由佳

本宮ひろ志 森絵都 森川ジョージ

森田まさのり 森村誠一 森本梢子

やまさき十三 山原義人 山本一力

山本文緒 唯川恵 弓月光

夢枕獏 米沢りか 六花チヨ

若木民喜 渡辺淳一

角川書店 講談社 光文社

集英社 小学館 新潮社

文藝春秋


回答書

 2011年9月5日付け質問書に対し、以下のとおり回答します。

<質問1(該当する記号を○で囲んでください。)>

ア. 当社は今後、差出人作家の作品について、依頼があればスキャン事業を行う予定です。

イ. 当社は今後、差出人作家の作品について、依頼があっても、スキャン事業を行うことはありません。

<質問2(該当する記号を○で囲んでください。)>

(1)当社はスキャン事業の発注を受け付けるに際して、依頼者が実際に私的使用を目的としているか否かを、

ア. 特に確認していません。

イ. 依頼者に私的使用目的であると申告させています。

ウ. 上記以外の方法で確認しています。(質問者注:下欄にご記入ください。)

(2)

ア. 当社は、スキャン事業の、法人からの発注に応じています。

イ. 当社は、スキャン事業の、法人からの発注に応じていません。


 質問状の内容をまとめると、スキャン代行業者は著作権者の許可を得た書籍のみ発注を受け付けるとしているが、そもそも著作権者はそれを許諾していない。また、権利者への正しい還元の仕組みができるまでは許諾を検討する予定もない。スキャン代行業者はどういった方法で依頼者が私的利用を目的としているかを判別しているのかを明らかにするとともに、今回質問状に名を連ねている作家の作品のスキャン依頼があった際に、どのような対応を取るのかを明らかにしてほしい、というものだ。

 今後の動きとして想定されるのは、スキャン代行業者側で、権利者からの許諾可否を受け付けるライトコントロールの仕組みを用意し、一括で拒否設定できる仕組みなどを用意するところも出てくるだろう。また、利益還元の仕組みとしては、すでに1冊当たり定価の10%(印税相当)を支払うと提案した「自炊の森」のような例もあるので、これは協議により解決できるものである(出版社が応じればの話だが)。

 今回の質問状の送付により、事業が軌道に乗っていない幾つかのスキャン代行業者は、全面的な撤退を検討するところも出てくるだろうが、スキャン代行サービスに寄せられる書籍は必ずしもこうした大手出版社のものばかりではない。仮に質問状に名を連ねる出版社や作家の書籍を一括で受け取り拒否することになったとしても、事業継続できるレベルにある業者も複数存在する。逆に、「こうした争いばかりで出版社からはユーザーが望む形の電子書籍が出ないではないか」と考えるユーザーの不満が何らかの形で爆発する可能性もある。

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