―― 以前JEPAが行なったEPUB 3の成果報告会では、漫画をはじめ、雑誌や新聞、教科書といった各シナリオでのEPUBの利用事例の紹介がありました。恐らくどのシナリオでもEPUBがベストかというとそうではなく、向き不向きがあると思いますが、こうした各カテゴリーへの説明や働きかけについては現状いかがですか。
下川 少しずつ進んでいます。雑誌についてもマガジンハウスさんと試作をしていますし、教科書についてもEPUBを使った教科書や教材の話が来ています。漫画も幾つか具体的な話がありますね。
―― なるほど。EPUB 3でリッチコンテンツが入ってきて、海外ではそちらの方が注目されているというお話でしたが、これは雑誌での利用を前提にしているという解釈でよいのでしょうか。
高瀬 雑誌もありますが、どちらかというとアクセシビリティのためですね。
加藤 今回DAISYコンソーシアムさんが、新しいDAISYの仕様を作ろうとした際、EPUB 3にアクセシビリティの仕様があるなら新しい仕様は作らなくていいねということで、EPUB 3に統合という形になったんですよ。
高瀬 DAISYコンソーシアムではアクセシビリティを高めたDTBookという独自の配信フォーマットがあったんです。EPUB 2だとXHTMLの代わりにDTBookでコンテンツを書いてもいいという扱いでしたが、次のDAISY4という規格は交換フォーマット的な位置付けになって、配信する時はそこからEPUB 3を生成するようになりました。つまり、読者に直接手渡すのはDTBookではなくEPUB 3でよくなったわけです。
DAISY(Digital Accessible Information System)は、障がいなどが原因で印刷物を読むことができない人々のために開発された世界的な規格。DAISYコンソーシアムはこの規格を普及させるための団体で、さまざまな企業や団体が参加している。詳細はDAISYのホームページを参照。
―― つまり、EPUB 3のビューワがあれば見れちゃうと。
高瀬 そうです。それでも十分アクセシビリティは保証できるってことですね。
下川 いま「EPUB 3コンテスト」というのを開催しているのですが(編注:現在は終了)、その中に川幡さんという方がエントリーされていまして、彼の作品は文章にカーソルを合わせるとそこが音声で出るようになっています。オーディオファイルとテキストの該当個所をカチッと連携させているんですね。
高瀬 MP3で朗読したオーディオファイルがあって、そのファイルの何秒から何秒までがテキストのこの部分に相当するっていうのをSMIL(スマイル)というXMLで定義しているんですね。これを使えば「朗読少女」に近いことができるんですよ。
―― なるほど、面白いですね。
高瀬 実際の利用例としては音楽、楽器の教則本といったコンテンツが多いですね。学習用途にはニーズがあったのかなと感じています。
―― EPUB 3はオープンなフォーマットということですが、各社が配信する際には、独自にDRMを追加することもできると聞きます。その辺りの取り組みについて教えてください。
加藤 DRMは各社さんともやると聞いています。ただそれは特定の仕様に基づいてというわけではなく、独自ですね。標準的に使われている「ADEPT」というAdobeのDRMは、Sony Readerをはじめ世界中に広まっている非常に強力な方式なんですが、イニシャルで料金が発生するのに加えて1配信幾らという価格体系なので、全世界レベルで展開するようなところでもない限り、配信業者さんにとってはコスト的に非常にハードルが高い。今後は「カジュアルコピーが防げればいいや」ぐらいのDRMをちょこっとかけるパターンが多くなってくるかもしれません。
高瀬 コストとのトレードオフですよね、DRMは。
加藤 EPUBの仕様の中でも、DRMをかけるのならこことここの情報を使ってねというのが入っています。DRMを解釈できないリーダーでも、メタ情報を読めて、これはこういうファイルでDRMにかかわってますということだけは表示できます。
高瀬 EPUBの仕様で「絶対に暗号化してはいけないファイル」というのがあって、例えば本のタイトルや著者名など出版物そのものに関する情報は、DRMなど暗号化の対象にはなっていないんです。
―― つまりライセンスから外れた状態で読もうとすると、これはこういう本で著者は誰々です、でもこういう理由で本文が表示ができませんというアラートが表示されるわけですか。
加藤 そういうことです。AdobeのDRMもEPUBに関してはその形式をちゃんと順守しているので、AdobeのDRMを解釈できないリーダーでもメタ情報だけは見れられます。
高瀬 作り手のコストと、読者の選択によって、自然とどこかに収束していくんじゃないかなという気はしますね。
加藤 ユーザーが購入したコンテンツに関しては、ソーシャルDRMぐらいでいいんじゃないかという意見はあります。ただ、そこは出版社さんにはあまり通じないんですよね。これコピーされて配られたらどうするの? と聞かれたときに、「それはソーシャルDRMで十分ですよ」という意見はちょっと通らないですね。
―― 日本国内と海外とでDRMに関する温度差はありますか?
加藤 例えばオライリーさんはソーシャルDRMで成功しましたけど、その成功例を持ってきて日本でもどうですかというのは、ちょっと難しいですね。
高瀬 オライリーならではという感じもしますしね。
加藤 コンテンツの種類によるんですかね。オライリーなどは読む人が限られてるから。
高瀬 図書館はきっちり導入することを求められますね。ニューヨーク公共図書館やボストン公共図書館はいまAdobeのDRMを採用していて、図書館のホームページに対応リーダーが書かれています。「AdobeのDRMに対応したビューワでは読めますが、それ以外のビューワでは読めません」といった具合です。だから読める端末まで図書館側から制限されちゃってるんですよ。
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