コラム
» 2011年06月17日 15時00分 UPDATE

なるいのDRM進化論:Financial TimesはなぜHTML5を選択したのか

AppleやGoogleが競って定期購読の仕組みや柔軟な課金サービスを提案している中で、Financial TimesはなぜHTML5ベースのWebアプリという形でコンテンツを提供することにしたのか。自らTechnical Q&Aとして公開しているものを読むと、30%のApple課税を逃れたいからという理由以上の強い意志が感じられる。

[成井秀樹,ITmedia]
(当記事はブログ「なるいのDRM進化論」から一部編集の上、転載したものです。元エントリーはこちら
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 雑誌や新聞コンテンツを呼び込もうと、AppleやGoogleが競って定期購読の仕組みや柔軟な課金サービスを提案している中で、Financial Times(FT)が多くの既存のアプリケーションユーザーがいるにも拘らず、HTML5ベースのWebアプリに移行したのは注目に値する。

 FTはその技術的な理由を「FT Web App-Technical Q&A」として公開している。簡単に紹介すると以下のようなものだ。単に、30%のApple課税を逃れたいからという理由以上の強い意志が感じられる。

Why did the FT decide to create an HTML5 web app?

  1. 新しいコンテンツや機能にユーザーは直ちに触れることができる。App Storeなどを通るプロセスがなく、常にユーザーは最新のバージョンを見ることができる
  2. 複数の異なった端末に対して専用のアプリを開発するのは、物理的にも経済的も管理できない
  3. 多くの場合、端末ごとの専用アプリは単なる「経過的(bridging)解決」であり、Web技術は常に最新でリッチなユーザー体験を提供できる。新しい機能は専用アプリではなく、HTML5ベースのWebアプリにより多く見られる。ただし、常に特定のブランドや端末のハードウェアと密にインテグレートされたり、特別に早い性能を必要とするような専用アプリのニーズは存在する(ゲームなどはその良い例である)

What is the difference between HTML5 and native apps?

  1. HTML5とはHTMLやCSSやJavaScriptを含む数十の技術から成る最新のWeb標準の総称である。これらの技術は、アクセシビリティやセキュリティ、互換性といった数十年に及ぶWebの歴史的な経験値を受け継ぐ何世代ものバージョンから進化したもので、特定の企業に属することなく広く市場で支持されている
  2. 専用アプリは特定のハードウェアやOSを利用して開発される。AppleやAndroidまたはBlackberryなどの専用アプリはそれぞれ違った異なった技術を持っている。例えていうと、ある規格の線路用に開発された列車の後に別の規格の線路用の列車を開発しなくてはならないのと同じことだ
  3. 専用アプリとWebアプリの違いは、その開発段階だけでなく、アクセス方法にも現れる。HTML5は単なるWebサイトであり、Webブラウザでアクセスするだけである。専用アプリはAppStoreやAndroid Marketなどからダウンロードしてインストールする必要がある。これらのApplication Storeは特定の企業がコントロールし、ときに課金されたり、HTML5ではあり得ない束縛を課す。HTML5は純粋にWebによって提供される。

How is the process of developing an HTML5 app different from creating a native app?

  1. HTML5コンテンツの開発は通常のWebサイトの開発の延長線上にあり、Webサイトの開発と同じツールやテクニックが用いられるが、テストすべき端末の数がはるかに多い。つまりFTは専用アプリに比べてより素早くテストして登録することができた。Webアプリの開発ははるかに早く効率的で、新しい機能に対する反応も素早く得ることができた
  2. 専用アプリの開発は一般的にはより容易である。1つのプラットフォーム上でそのフレームワークのライブラリを使うことができるし、AppleやGoogleやRIMやMicrosoftなどのプラットフォームが持っているコンポーネントやテンプレートを使うことができる。専用アプリ開発で使われるツール群はプラットフォームそのものの開発に使われるものと同じである。AndroidではJava開発環境である「Eclipse」が、Appleであれば「XCode」のような純正の開発ツールが使われる。Windows Phoneの場合は「Microsoft Visual Studio」だ。しかし、Webアプリの開発はそれとはまったく異なり、端末特有のプラットフォームというものはなく、膨大な種類のツールや技術の中から開発者は自分の好みに応じて使うことができる

What were some of the challenges faced during the process?

  1. FTの主なチャレンジはまったく新しい世界にいるという事実だった。専用アプリ開発や通常のHTML5開発のために用意されているツールやドキュメントのたぐいは携帯端末をターゲットとしたWebアプリの開発用には存在しなかった。さらに、機能や性能をテストするツールもなかった。このため、自分たちのシステムやプロセスをアプリケーションが効率よく動くことを確認するためにそうしたものを開発する必要があった
  2. 2つ目のチャレンジは「画像やビデオが正しく表示されるかどうか」だった。Webkitを使ったWebブラウザは端末の持つグラフィックスハードウェアを使ってスムーズな表示を行い、高度なユーザー体験を実現している。しかし、スクリーンの一部がちらついたり、ユーザーが文字を入力する際にアプリがスクロールしたりといった問題を起こすことがあった。こういった課題を解決するにつれ、新しく開発されたWebテクノロジーの制限を広げることができると同時に、端末間の違いやWebkitのバージョンの違いがわれわれのチャレンジを当惑させた
  3. これらのチャレンジは専用アプリの開発に比べて多少困難だった。それは、例えば記事の一部である画像がオフラインの状態でちゃんと表示されるかといった、アプローチの違いのせいだ。恐らくユーザーは始めてWebアプリというものを使うことになるので、ユーザーがWebアプリをiPhoneやiPadのホームスクリーンに登録する方法を示すことにした

以上

原文はこちら

 ここまで読まれた方は、このような思想が反映されたFTのWebアプリがどのようなものか試していただきたい。無料の登録だけで試すことができる。iPhoneやiPadから「www.app.ft.com」にアクセスすればよい。

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