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» 2011年05月16日 13時00分 UPDATE

eBook Forecast:GW前後の注目すべき電子書籍市場動向

「電子書籍ってどこを押さえておけばいいの?」――忙しくて電子書籍市場の最新動向をチェックできない方のために最新動向を分かりやすくナビゲートする「eBook Forecast」。今回は、戦後最悪の自然災害となった東北関東大震災の前後で起こったトピックスを中心にお届けします。

[前島梓,ITmedia]

タブレット市場がヒートアップ、東芝、ソニー、そしてAmazonも参入へ?

 4月後半から5月上旬にかけては、各社からタブレット端末が数多く発表されました。日本国内でも4月28日から販売開始されたAppleのiPad2はすぐに手に入る良質なタブレット端末としてまだまだ市場をけん引していくでしょうが、2011年後半にはタブレットも多様化の波が到来しそうです。

 ここ1カ月で発表あるいは発売された注目のタブレット端末は、Appleの「iPad2」のほか、Android 3.xを搭載する東芝の「REGZA Tablet」、ソニーの「Sony Tablet」です。REGZA Tabletは6月、Sony Tabletはクリスマスシーズンの発売が予定されています。

電子書籍ストアも立ち上げた東芝

REGZA Tablet AT300 REGZA Tablet AT300

 先に発表があったREGZA Tablet AT300については、「ベールを脱いだREGZA Tabletとブックプレイス」や「「“REGZA”ブランドのAndroid 3.0搭載タブレット──『REGZA Tablet』」で紹介されていますので、スペックなどはそちらを参照ください。

 同日には、東芝製品活用情報サイト「東芝プレイス」の1コーナーとして、電子書籍ストア「ブックプレイス(BookPlace)」が開設されました。ブックプレイスは、凸版印刷系のBookLiveが運営する電子書籍配信プラットフォーム「BookLive!」を利用する形でシステムが構築されており、BookLive!のアカウントでサービスを利用できるようになっています。

 BookLive!とブックプレイスの違いは、ビューワアプリである「ブックプレイス リーダー」に音声読み上げ機能が独自実装されている点です。この音声読み上げ機能には同社の音声合成機能「TOSHIBA Speech Synthesis」が採用されており、文字属性を持っている活字系のコンテンツについては合成音声による読み上げを聞くことができます。この部分をどう訴求していくかが電子書籍市場における同社の当面の課題となるでしょう。

 ちなみに、TOSHIBA Speech Synthesis(ともちろんブックプレイス リーダーも)をインストールすればPCでもこの読み上げ機能を利用できますが、TOSHIBA Speech Synthesisが動作するOSは現時点でWindows 7のみとなっていますので注意が必要です。

ソニーは2機種を用意

 一方、切り札は先に見せるな、と東芝の発表から6日後の4月26日にSony Tabletを発表したソニーは、9.4型液晶(1280×800ドット)を備えた「S1」と、5.5型液晶(1024×480ドット)を2画面備えた「S2」の2機種を発表しました。独特の形状を持つS1と、ゲーム機に似た形状のS2については、eBook USERでも複数の記事で紹介されていますので、まずはそちらをチェックしてみるとよいでしょう。

Sony Tablet 手前が“Sony Tablet”「S1」、奥が「S2」

 ソニーらしく、音楽、映画、ゲーム、そして電子書籍といったコンテンツをうまく絡めたエンターテインメント端末となっており、音楽配信サービス「Music Unlimited」などを包括するコンテンツサービス「Qriocity」のほか、初代プレイステーションの名作タイトルなどを楽しめる「PlayStation Suite」、ソニーの電子書籍ストア「Reader Store」などが利用可能となっています。

 Wi-Fi(3GまたはWiMAXも搭載される可能性が高いです)やカラー液晶を搭載するSony TabletでもReader Storeが使えるということで、電子書籍端末「Reader」が今後どのようなポジションになるのかも注目されます。恐らく、Sony TabletではPCと同期させることなく、コンテンツを直接購入できるはずで、そうした意味でコンテンツの移動にPCを必要とするReaderは不便さが際立ってしまいます。価格面ではReaderに分があるでしょうが、やや気になる展開です。

 しかし、惜しくらむはやはりPSNの情報流出問題。タブレットの発表会のときにはすでに事態を把握していたといいますが、その後の話題はこちらで持ちきりとなってしまい、Sony Tabletが少々かすんでしまったように感じるのは残念です。

そのほかの国内企業の動きは?

 ソニー、東芝と名が知れた企業からAndroidタブレットが発表されたことで、そのほかの国内企業、例えばNECや富士通の動きも気にしておきたいところです。富士通については、NTTドコモがXi(LTE)に対応した富士通製タブレット端末を今秋に発売予定であると5月7日に報じられています。この端末にAndroid 3.xが搭載されるのはほぼ確実でしょう。

 また、富士通は3月に電子書籍ビジネスを開始すると発表し、この5月から電子書籍ストアを開設するとしていました。東日本大震災の影響で予定に遅れが生じているのかもしれませんが、次回の本連載で取り上げることができるのでしょうか。

いよいよAmazonタブレット登場か?

 海外では米書店チェーン最大手Barnes & Nobleの動きが活発です。同社は4月に電子書籍端末「NOOK Color」をAndroid 2.2ベースにアップグレードしていますが、さらに、最新モデルを5月24日に米国・ニューヨークで開催される電子書籍カンファレンス「Digital Book 2011」で発表予定であると報じられています。NOOKシリーズは現行モデルすべてがAndroid OSを搭載していますが、最新モデルはAndroid 3.0を採用したカラータブレット型になると予想されています。

 そして、ゴールデンウイーク前の話題をさらっていったのが、前回のeBook Forcastで一足先にお知らせした「Amazonタブレット」です。米Amazon.comからの正式な発表ではなく、部品業者の話として紹介されているものですが、2011年下期にこちらもAndroidタブレットをリリース予定だといいます。この記事が出た後、複数のメディアからこのうわさを深掘りした記事が登場しており、例えば「Android and Me」では6型から9.7型までの複数のタブレットのほか、何とスマートフォンもリリースするのではないかと伝えています。Kindle Storeの本格的な日本市場進出も待たれるAmazon.comですが、同社が2011年の話題をさらっていくように思います。

 Amazon.comのこうした動きの一方では、コンテンツのラインアップに動きがありました。まずは、Amazon自身が電子書籍/紙書籍の新レーベル「Montlake Romance」を今秋から刊行することが明らかとなり、返す刀で、Kindle Storeからは一部の日本製ボーイズラブ作品が削除されました。後者については、今後どの程度削除対象が拡大されるかはまだ分かりませんが、少し雲行きが怪しくなってきた感があります。

シャープはXMDF制作ソフトを無償化、紀伊國屋書店も動く

tnfigxmdf3.jpg XMDFの制作環境は7月から無償提供へ

 そのほか、シャープとCCCが推進する電子書籍ストア「TSUTAYA GALAPAGOS」では、動画の配信もひっそりと開始されています。第1弾となったタイトルは、先日NHK総合テレビで放送されたアニメ作品「もしドラ」です。一般的な動画形式ではなく、XMDF3.0の機能を使って制作されたとみられます。価格は1話105円で、1週間の視聴期限が設けられている辺り、TSUTAYAが得意とするレンタル業に近いものを感じます。購入したコンテンツがシャープのAQUOSなどでも見られるようになれば面白くなりそうです。

 シャープと言えば、ビックニュースもありました。EPUB3.0が間もなく登場することも影響しているのか、これまで有償で提供されていたXMDFの制作環境が無償化が発表されました。7月から提供が開始される予定で、次世代XMDFでの電子書籍制作に追い風となりそうです。こちらについては、ジャーナリストの風穴江氏によるコラム「XMDF制作ソフトの無償化は何をもたらすか?」も掲載されていますので、一読することをお勧めします。後はそうして制作された電子書籍の販路までサポートしてくれるとよいのですが……。

tnfigk1.jpg ストア/ビューワ一体型のアプリ「紀伊國屋書店Kinoppy」

 そして、書店の雄、紀伊國屋書店もAndroid向けに電子書籍ストアを5月20日から開始します。当初の予定ではiPhone/iPad向けアプリが先に提供予定でしたが、こちらはAppleの審査が厳格化したこともあり、Android向けが先行してリリースされることになりました。

 電子書籍の台頭で紙の本が売れなくなるのではないかとささやかれる中、紀伊國屋書店のこの取り組みは注目されます。アプリからは電子書籍だけでなく、紙の本を注文することが可能なほか、独自のポイントサービス「紀伊國屋ポイント」もリアル店舗と共通化するなどしてリアル店舗との連携も視野に入れています。今後は、ショーケースとしての書店、といったような感じになっていくのでしょうか。書店に足を運んで品定めし、その電子版を別の電子書籍ストアで買う、といったユーザーを引き戻すことにつながればよいと思いますし、そこでは信頼と実績の紀伊國屋ブランドが力を発揮できる部分もあるでしょう。

 電子書籍元年の顔となった作品を決める「ダ・ヴィンチ電子書籍アワード2011」も受賞作が発表されました。各賞の受賞作については「『ダ・ヴィンチ電子書籍アワード2011』大賞に輝いたのは?」をご覧いただければと思います。

 興味深いのは、大賞を受賞した「ヌカカの結婚/テロメアの帽子/カルシノの贈り物」に対して「電子書籍だからといって、紙ではできなかったインタラクティブな機能をむやみやたらに盛り込もうとする動きは確かに目を引くが、それらは局所的には最適解であるように見えても、本という存在の最適解ではないかもしれない」と審査員がコメントしている点です。

tnfigdd8.jpgtnfigdd9.jpgtnfigdd0.jpg ダ・ヴィンチ電子書籍アワード2011大賞を受賞した「ヌカカの結婚/テロメアの帽子/カルシノの贈り物」

 紙の本ではできなかった機能をいろいろ盛り込めるのは電子書籍のよいところではありますが、技術的に考えれば、Webの技術でできないことは電子書籍でも基本的にはできません。これはつまり、すでにWebの世界にある技術などを電子書籍に転用したところで、本質的には革新性はないということになります。紙の書籍を作ってきた方からすると、Webの技術は新鮮に映るかもしれませんが、それが本当に読者のためになっているかは再考の余地があるといえます。作り手には耳の痛い話です。

 さて、これまで隔週を基本に掲載し、好評をいただいてきた本連載ですが、半年ほど連載を続ける中で市場動向がある程度落ち着いてきたということもあり、今後は月1回の掲載とさせていただければと思います。今後ともどうぞよろしくお願いします。

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