Jコミ、違法に流通している漫画を“浄化”する禁断の計画を発動正式オープン

絶版漫画に広告を付加して無料配信しているJコミは正式オープンに合わせ、ユーザーから違法に流通している漫画ファイルのアップロードを受け付け、それらを合法化して再配布する仕掛けを発表した。

» 2011年04月12日 12時30分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

いよいよJコミが正式オープン――違法流通する漫画ファイルを駆逐へ

正式オープンしたJコミ

 絶版漫画に広告を付加して無料配信しているJコミは、4月12日のJコミ正式オープンに合わせ、ユーザーから違法に流通している漫画ファイルのアップロードを受け付け、それらを合法化して再配布する仕掛けを発表した。

 Jコミは、「魔法先生ネギま!」や「ラブひな」などの作品で知られる漫画家の赤松健氏が立ち上げたもので、著作権者の許諾を得た絶版漫画を広告入りのPDFファイルなどの形で無償公開し、その広告料を作者に還元するというモデルが、絶版作品を有する作者と無償で作品を読みたいユーザーの双方から高い評価を受けた。

 これまでは正式オープンに向けたトライアルが続けられており、「ラブひな」のほか、新條まゆさんの「放課後ウエディング」や梶研吾氏(原作)/樹崎聖氏(作画)の「交通事故鑑定人・環倫一郎」、石岡ショウエイ氏の「ベルモンド Le VisiteuR」などをこのモデルで無償公開、数十万円から多いときには100万円を超える広告料を作者に還元している。

 今回、Jコミの正式オープンに合わせて、いよいよ“本丸”ともいえる違法流通ファイルにメスを入れることになる。赤松氏は以前行われた竹熊健太郎氏との対談で、Jコミを始めたきっかけの半分は違法流通対策であると語っている。絶版漫画は、出版社が訴える権利を有していないため、著作権者である著者自身の親告がなければ違法に流通しているものを止める手だてがない。Jコミはここに切り込んだ格好だ。

 「絶版違法マンガファイル浄化計画」と名付けられたこの計画は、一見トリッキーな方法によって実現される。というのも、違法に流通しているファイル(多くの場合はZIPやRARでアーカイブされたもの)をユーザーから提供してもらうことが起点となっているためだ。Jコミ側では、ユーザーから提供を受けたこれらのファイルを絶版作品かどうか判別、絶版作品であれば、その著作権者にコンタクトを取り、広告付きで再配布する許諾を得るための交渉を行う。許諾が取れたファイルはこの段階で晴れて「浄化」(合法化)され、作者には広告収入が、読者には気持ちよく絶版漫画を読める環境ができあがることになる。

 ユーザーから違法なファイルの提供を受けるという手法がトリッキーに映るが、実際には幾重にもセーフティネットが張られている。例えば、自分の作品がアップロードされたことを著作権者が前もって知るすべはなく、かつ、アップロードされたファイルは著作権者の許諾が得られるまで公開されないため、親告罪の訴えは起こせず(著作権法違反は親告罪)、また、Jコミが発信者情報を開示する義務もないことを複数の弁護士からの共通見解として得ていることが明記されている。これはつまり、違法に流通していた漫画ファイルを所有しており、それをJコミにアップロードしても、ユーザーがその責任を問われることはないということだ。

 また、著作権者との折り合いが付かず仮にJコミが民事で訴えられるようなことがあったとしても、絶版書の市場価値がゼロであるがゆえに、損害賠償のみなし額も算出できない(つまり訴訟の意義が薄い)ことも織り込み済みだ。

 この方法では根本的な違法ファイルの根絶につながらないと考える方もいるだろうが、無償だが違法のファイルと無償で合法のファイルが同じような入手難度で用意されているのなら、ユーザーは後者を選ぶというのは、AppleがiTunes Storeで半ば証明している。違法に流通する漫画ファイルを撲滅するため、多少のリスクを承知の上で踏み込んだJコミに、著作権者はどのような反応を示すのだろうか。

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