富士通も動く、DNPと連携し5月に電子書籍サービスを開始

富士通は大日本印刷との連携し、電子書籍配信サービスを5月にサービスインすることを明らかにした。強みを生かせる連携でハードウェア単体のビジネスからの脱却を図る。

» 2011年03月03日 13時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

強みを生かせる連携で勝負

左から寺師氏、大谷氏、大日本印刷の北島元治常務取締役。北島氏はあいさつの中で「夏以降に外資の参入もうわさされるが」と発言したのは気になるところだ

 富士通は3月3日、電子書籍ビジネスへの参入を発表、大日本印刷(DNP)との連携による電子書籍配信サービスを5月にサービスインすることを明らかにした。電子書籍ストアの名称などは今後詰める予定。

 この日都内で開催された発表会では、「メーカーもハードウェアを売るだけの時代ではない。サービスを組み合わせた取り組みが必要。これからは強みを生かせる連携が増えるだろう」と富士通 執行役員常務 ユビキタスプロダクトビジネスグループ長の大谷信雄氏は富士通の取り組みを説明。2010年8月には健康管理サービス「深体創工房」を発表し、健康サービス市場への参入を発表しているが、そうした取り組みに続く一手として今回の電子書籍市場への参入に踏み切ったと話す。

 ユビキタスビジネス戦略室の寺師和久室長からは、具体的なビジネススキームについての説明がなされた。

 それによると、5月に立ち上げる富士通の電子書籍配信サービスは、DNPおよび同社の関連会社「モバイルブック・ジェーピー」、富士通のグループ会社である「ジー・サーチ」、富士通エフ・オー・エムのFOM出版などからコンテンツ提供を受け、@niftyやAzbyClubといったコミュニティーを生かした集客を図るというもの。

電子書籍ビジネス参入の理由(写真=左)と連携スキーム(写真=右)

 電子書籍ストアの立ち上げとしては後発組となる富士通だが、寺師氏は、「日本の電子書籍市場はまだ黎明(れいめい)期にあり、電子書籍ストアも乱立というほどではなく、市場性はあると考えている。現在問題だなと思うのは、ユーザーが電子書籍を利用する際のプロセスが煩雑であること。そうした部分にメーカーとしてできることはあると考えている」と自信を見せる。

 サービスの展開スケジュールは2つのフェーズに分けて段階的に立ち上げるとしており、5月のサービスインでは「コンテンツ数」「横断検索機能」が主な特徴となる。

 コンテンツのラインアップは、DNPのハイブリッド型総合書店の核をなす「honto」のコンテンツに加え、ジー・サーチが2010年9月に立ち上げた電子書籍ストア「G-Search ミッケ!」にあるコンテンツが並ぶとみられる。G-Search ミッケ!はビジネス分野の書籍・雑誌、白書などに強みを持ち、2010年12月時点のラインアップは約32万件だという。ラインアップだけを見ればほかの電子書籍ストアをしのぐ品ぞろえとなる見込みで、それらを横断的に検索できるようにしていくのだとしている。

 次のフェーズでは、機能・サービスの拡充を進める。2012年以降のスケジュールとして、DNPグループのリアル書店とのポイントサービス連携やライブラリの一元管理が挙げられている。前者は、hontoが掲げているハイブリッド型総合書店のビジョンに沿ったもので、後者は、例えばbookliveが実現しようとしているビジョンだ。ただし、説明では「他社の電子書籍ストアで購入した電子書籍を1つのライブラリで一元管理」とある。他社というのがDNP以外の陣営を指すのであれば、DRMの違いなどを解決する必要があり、かなり難易度の高い取り組みであり、ユーザーからすれば利便性が大きく高まる可能性がある。

 hontoからコンテンツの提供を受けるということで、hontoもしくはDNPがNTTドコモと進める「2Dfacto」が提供しているものに似たビューワアプリが提供されることになるだろう。つまり、複数のビューワを内応することで、ユーザーにはフォーマットの違いを意識させないタイプのビューワである。当然DRMもhontoの意向に沿ったものが使われるとみられる。なお、PCおよびAndroidスマートフォン/タブレット「など」がターゲットプラットフォームとされており、iPhone/iPadが名を連ねていないのはAndroidに掛ける富士通の期待も垣間見える興味深い点だ。

 くしくもこの前日には、TSUTATA GALAPAGOSがAndroidスマートフォン向けに「GALAPAGOS App」を提供している。こちらは品質を重視したこともあり、まずは自社のスマートフォンのみに限定しての展開となったが、富士通では5月のサービスイン時に、ベンダーを問わない形でサービスを利用できることを視野に入れているとしている。

富士通独自の電子書籍専門端末は出るか?

 この発表で注目すべきは、サービスの展開に合わせて「富士通独自の電子書籍専門端末をリリースするのか」だろう。寺師氏によると、PC、携帯電話ビジネスの拡大を図る取り組みの一環であり、富士通としては現状そうした考えはないが、もしそうした必要があるのなら、例えば富士通フロンテックが提供しているカラー電子ペーパー端末「FLEPia」などと連携することで目的は達せられるだろうという見解を示している。これはシャープが端末からサービスまで垂直統合で提供しているのとは異なるモデルだ。

 「今後3年間の累計で40億円程度のビジネスに育てていきたい」(寺師氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.