「さぁ読むぞ」と構えなくていい読書ツール――ソニーの「Reader」大人のためのSony Reader講座

ソニーが2010年12月に発表した電子書籍専用端末「Reader」。ときには編集者として、ときにはミステリー・SF好きとして紙の文化にどっぷりと漬かってきたミドル層の筆者が、実際に触れて確かめてみた。

» 2011年02月25日 22時30分 公開
[池田圭一,ITmedia]

 SF小説に慣れ親しんでいると近未来の読書風景もそれほど奇異には思えない、紙の本が骨董(こっとう)品のように扱われる電子書籍全盛時代もいずれやってくるのだろう。そのとき、文字を写し出す表示デバイスがどのようなものになっているのか想像もつかないが、もしかすると、電子ペーパーの進化形かもしれない。そんなわけで電子ペーパー採用の電子書籍リーダー端末は興味深いのだ。

新世代の電子ペーパーを採用!

本体全景 いかにもIT機器っぽいシルバーカラーのほか、ビンク、ブルーモデルをラインアップ

 ビブリオリーフに引き続き、電子ペーパーを採用する国産の電子書籍端末として、ソニーの「Reader」を試用した。国内で発売されているReaderは、6型パネルを搭載する「Touch Edition(PRS-650)」と、5型パネルを搭載する「Pocket Edition(PRS-350)」の2モデルがある。

 両者の主な違いはパネルサイズに起因する本体サイズと質量だが、PRS-650はメモリーカードスロット(SDHC対応SDメモリーカードとメモリースティックPRO Duo)と、音楽ファイル(MP3およびAAC)再生機能を備えている。本と音楽を切り離さないPRS-650の考え方は、いかにもソニーらしい製品で食指が動くが、今回は、コンパクトさが魅力の「PRS-350」を触ることになった。

 PRS-350のサイズは104.6(幅)×145.4(奥行き)×9.2(厚さ)ミリ。一般的な文庫本サイズとほぼに仕上げてきた。本体重量は約155グラムと、文庫本よりも軽い。本体デザインもよく考えられており、側面のちょっとしたふくらみがほどよい引っかかりとなって、手にフィットする。Readerはほかの電子書籍専用端末に比べアクセサリー類が充実しており、ITデバイスというよりはさながらステーショナリーだ。カバーについても、暗い場所でも読書できるようにライトがついた「PRSA-CL35」などは使い勝手もよさそうな印象だが、それでもカバー無しの方がよいのではないかと思うほど本体が手になじむ。

PRS-350は一般的な文庫本とほぼ同サイズで、薄くて軽いので携帯性に富んでいる(写真=左)/ポケットなどからすっと取り出し、安定して持てる。サイズを含めたデザインが秀逸だ(写真=右)

 本体上部左にはスライド式の電源スイッチ、右にはタッチペンが収納されている。下部にUSBケーブルで充電できる電源コネクタがあるが、本体の厚み抑えるためか、この手の機器でよく見かけるMini Bタイプではなく薄型のMicro-Bタイプとなっていた。そのほか本体下部に5個の操作ボタンがある。

ボタン部分 左にページめくりボタン、中央にホームボタン、右に拡大/オプション呼び出しボタンを装備。書籍も表紙イメージ・作品名・著者名の必要項目を表示する
文字と地の濃淡はそれぞれ調整できる

 電子ペーパーの表示解像度は600×800ドット。このパネルは16階調表現にも対応し、モノトーンの写真表示も可能だ。また、表示濃度の微調整も行える。前回紹介したビブリオリーフの電子ペーパーと同じく米E ink製のパネルだが、Readerでは同社の最新型電子ペーパー「Pearl」が用いられている。

 このパネルの注目ポイントは、何といっても「パネル表面に光学式のタッチセンサーを装備する」ことだ。もちろんタッチペンも使えるが、指でほんの軽く触れるだけも反応する。メニューや各種操作画面も、指で容易に触れられるように大きなボタンで表現され、直感的に操作できる。読んでいる最中の画面に自由にメモを残せるノートも、今までの紙の本では実現できなかった機能として高く評価できる。

感圧光学式タッチセンサーを装備。付属のスタイラスや指先などで容易に反応する(写真=左)/メニューの選択や各種設定などは、すべての表示が指で操作できるようデザインされている(写真=中央)/書籍の任意ページの文字列をマークしたり、手書き線など書き込めるノート機能も思った以上に便利だ(写真=右)

ポテトチップをつまみながら読書できる! これぞ至福の読書時間

 読書に熱中しているときは、どのような姿勢でも本から手(あるいは視線)を離したくないが、その点、指を軽く動かすフリック操作でページがめくれるPRS-350は快適だ。ボタンの位置に縛られることなく、片手で本体をどのように持っても読み続けられる。「さぁ読書をするぞ!」と姿勢を正して構えることなく、片手でポテトチップをつまみながらでも読めてしまうのだ。

ページめくりボタンを押してもよいが、画面を指でなぞることさえできれば、どのような持ち方をしても読書が続けられる。卓上に置いて人差し指でなぞってもいい

 これなら通勤・通学の途中に満員の電車の中で本を読みたい、というニーズにも応えられる。恐らくソニーが想定するユーザー層も、そこにあるのだろう。移動中に本を読むのは意外とわずらわしいものだが、コンパクトかつ片手で自在に扱えるPRS-350はそれを解消してくれる。

16階調で写真表示も可能。スリープモード時も表示できる

 しかし、小型化に伴うデメリットもある。データの出し入れがめんどくさいのだ。USBケーブルでPCと接続し、購入あるいは自分でスキャンしたデータを移さなければならない。PCとの連携を今なお色濃く想定している辺りは少し残念なところだ。ちなみに、PRS-350が扱える文書フォーマットは、XMDF(.mnh/.zbf)、EPUB、PDFおよびプレーンテキスト。それに、写真フォーマットとしてJPEG、GIF、PNG、BMPに対応する。

 なお、前回のビブリオリーフと同様、Readerもソニー、KDDI、凸版印刷、朝日新聞社による「ブックリスタ」陣営に属する電子書籍専用端末だ。ビブリオリーフが電子書籍ストア「LISMO Book Store」を用意していたように、Readerにも「Reader Store」が用意されている。両者はサイトの見た目こそ違えど、コンテンツのラインアップはほぼ同じであった。やはり筆者の好きな海外ミステリーや海外SFは少なく、ラインアップの拡充は電子書籍ストアの共通の課題といえそうだ。

ケータイに奪われた「読書」という行動機会の拡大/普及を担えるか

 一口に読書といってもいろいろある。周囲の雑音を遠ざけ頭の中で小説の世界を満喫する楽しみ方もあれば、ちょっとした空き時間に知識欲を満たすための読書、自己啓発の一環としてビジネス書を読んだり、やむを得ず報告書などに目を通したり……。その中でPRS-350が持つビジョンは? といえば恐らくそのどれにも当てはまらない。強いて言うなら「読書という行動の機会拡大」ではないかと思う。

書体比較1 ビブリオリーフ(写真右)と書体を比較。Readerは細身の明朝書体を採用
書体比較2 Readerの表示書体は文庫本の印刷書体とよく似ており、違和感なく読めるものだった

 PRS-350に搭載されている書体は1種類、新聞書体にも似た細身の明朝体で、わずかに上下をつぶした平体と呼ばれるタイプのようだ。文字サイズはタッチ操作で6段階に調節でき、ズーム機能も利用できる。メニューを開いてのサイズ指定という2段階操作だが、目的の大きさに一発で設定できるのがよい。余白カット表示を使えば、文庫本と似たような感じとなり違和感なく読めるのがうれしい。なお、ゴシック体表示を実現したければPDF化という手段もある。

最小XSと最大XXLの文字サイズの違い。余白の扱いなどはページモードで設定可能
反転状態 表示更新の瞬間を捉えた。わずかなちらつきだが、結構気になる

 ただ、問題がないわけでもない。電子ペーパーの特性からか、表示書き換えのたびに電子ペーパーの微粒子配置を整えるリセット処理が実行される。前回のビブリオリーフでは、5回ないしは10回の表示書き換えでこの処理が挿入されていたため、リセットが入らない書き換えでは前の表示が薄く残っていたが、Readerはこれが毎回行われ、ページをめくるたびに表示が暗転するのだ。

 書き換えそのものは高速で目が文字を追う速度を妨げるものではないが、反転→文字表示の流れが抵抗となり、小説の世界観を壊してしまう。読みふける内容にはあまり向いていないように感じた。やはり通勤の途中に新聞やビジネス書に目を通す、といった使い方が想定されているのだろう。

 そう考えればReader Storeのラインアップにも納得だ。売れ筋の注目本、自己啓発やビジネス志向の書籍が目立つ。絶版ものなど、入手が困難な本こそ電子書籍で読みたいのだが……。

 とはいえ、いつでもどこでも本を読めるチャンスを与えてくれるソニーの「Reader」。PRS-350(シルバー/ピンク/ブルーともに)の市場価格は最安値で1万6500円前後となっている(2011年2月25日現在)。ここに来て急に10%ほど値下がりし、お買い得感があるが、さらに3月1日からは、Reader Storeなどで使えるソニーポイントが最大2000ポイント還元されるポイントバックキャンペーンなども開始予定となっており、買い時といえそうな状況にある。

 最後にわがままをひとつ。「入浴中に読書はできないか?」である。PRS-350は電子ペーパーと光学式のタッチセンサーを搭載するので、ジップロックのような透明で厚手の防水アクセサリーも容易に提供できそうなものだ。バッテリーをフル充電すれば連続1万ページのページめくり(表示書き換え)が可能ということは、厚めの文庫本(およそ500ページ)が20冊も読める。たまの休日に温泉に浸かりながら、ゆっくりと好きな本を読みまくる、そんなぜいたくな大人の時間の過ごし方を実現してくれそうな電子書籍端末がReaderなのである。

筆者紹介 池田圭一

1963年生まれ。IT系雑誌・Web媒体への企画および執筆、天文・生物など科学分野の取材記事などを手がけるフリーランスライター。デジイチ散歩で空・月・猫を撮る日常。理科好き大人向け雑誌「RikaTan」編集委員。主な著書に『失敗の科学』、『光る生き物』(技術評論社)、『〜科学を遊ぶ達人が選んだ〜科学実験キット&グッズ大研究』(東京書籍)、『やっぱり安心水道水―正しい水のお話』(水道産業新聞社)などがある。


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