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» 2011年02月21日 09時30分 UPDATE

eBook Forecast:2月前半の注目すべき電子書籍市場動向

「電子書籍ってどこを押さえておけばいいの?」――忙しくて電子書籍市場の最新動向をチェックできない方のためにお届けするまとめ記事「eBook Forecast」。今回は、News Corporationが仕掛けた新たなデジタルメディア「The Daily」や、米国第2位の書店チェーン「Borders」の経営破たんなどの話題を中心にお届けします。

[前島梓,ITmedia]

iPad専用のデジタル日刊新聞「The Daily」の波紋

The Daily The Daily

 電子書籍市場における2月上旬の大きなニュースとしてまず第一に挙げられるのは、メディア大手の米News Corporationと米Appleが2月2日(現地時間)にリリースしたiPad専用のデジタル日刊新聞アプリ「The Daily」でしょう。Appleの新たな定期購読サービスを利用したこのアプリについては、筆者もインプレッション記事を書かせていただきました。

 2週間ほどThe Dailyを読んでみた筆者の印象では、最初は新鮮だったこともあって熟読できたのですが、だんだんと読むのがつらくなってきたというのが正直なところです。厳選された記事であるとはいえ、1日に100ページ近く配信されてくるThe Dailyを読むのはかなりの時間を要しますし、ゴシップなど筆者があまり必要としないような話題も多いのも好きになれないところです。また、目次に相当するものがないことなどもあって「読まされている」感を持ってしまうのですが、同じようなことを考える人もいるようで、「The Daily: Indexed」のような目次的に使えるサイトが有志によって作成されていました。総じて言えば、もうしばらくは様子見というのが筆者の見解です。

 そして、米国時間の2月15日には、The Dailyに用いられている定期購読サービスが一般にも開放され、アプリ開発者はApp Store内で販売するコンテンツに対し、価格とサブスクリプションの継続期間(週、月、隔月、3カ月、6カ月、1年)が設定できるようになりました。Appleの手数料はこれまで通り30%です。

 新聞や雑誌を手掛けるパブリッシャーからすれば、この定期購読サービスが利用できるようになったことで、紙への興味を失いつつあるユーザーを新規読者として獲得できる機会が得られることになりますが、もろ手を挙げて歓迎とはいかないようです。

 これは、前回お伝えしたように、SonyがiPhone向けに提供しようとしていた電子書籍リーダーアプリがApp Storeで却下された辺りからくすぶっている話ですが、Appleが提供する課金方式が常に優遇される課金形態を採用せよ、というルールが厳格に施行される方向になりつつあるためです。

 同じビューワを使い回し、中のコンテンツが異なるタイプの電子書籍アプリはApp Storeで却下される方向になっているのは業界の中ではよく知られたところですが、ストア型のアプリについてもAppleの意向に沿わないものを排除する動きが顕在化しています。

 これまでも、アプリから外部のサイトに飛ばし、そこで課金する方法でコンテンツを販売していたパブリッシャーは存在していましたが、今後はアプリ内にそうした外部課金につながるリンクを設けることが禁止され、また、App Storeでの販売価格が外部課金を利用した場合と同額かそれ以下の価格にすることが求められました。外部課金が完全に禁止されるわけではありませんが、これはパブリッシャーには大きな痛手です。ユーザーからすればApp Storeで一元的に購入できる手軽さは魅力ですが、パブリッシャーからすると、新規読者の開拓のための踏み絵としてAppleに売り上げの30%を渡すのかという悩ましい選択を強いられることになります。

 もちろんこのモデルは、Appleの製品やサービスが今後も変わらぬ支持を得るという前提があって成り立つものです。1月に米国で開催された「2011 International CES」や、2月中旬にスペインのバルセロナで開催された「Mobile World Congress 2011」では数多くのAndroid搭載デバイスが登場しており、市場ではAndroid搭載スマートフォン/タブレットが急速に普及してきていることは間違いありませんが、AppleがiPhone/iPadで築いてきた勢力図がすぐに変わることはないため、一概にAndroidにフォーカスすればよいというものでもなく、結局はAppleの要求をのまざるを得ないことになるのは明らかです。

 ただし、こうしたAppleの動きが米独禁法に触れるのではないかとして、米司法省と米連邦取引委員会は内々に調査を開始したと報じているメディアもあります。次回のeBook Forecastで取り上げることになるGoogleのコンテンツ販売・決済サービス「One Pass」も発表されたこともあり、今後、課金関連は要注目のトピックとなりそうです。

Bordersが経営破たん

Borders 米国に約670店舗を構えていたBordersの破たんは衝撃でした(Photo by luisvilla)

 こうした新たなデジタルメディアが登場した一方で、米国の書店チェーン第2位の米Bordersが、日本でいう民事再生法に相当する連邦破産法11条の申請準備を行っていることが報じられていましたが、米国時間の2月16日に正式に申請を行いました。米国メディアが伝えるところによると、負債総額は約13億ドルとなっており、今後数週間以内に全体の3分の1近くに相当する約200店舗の閉鎖を行うとしています。

 Bordersの破産は、電子書籍の台頭に書店経営が立ちゆかなくなったというよりは、革新や改善につながるイノベーションを起こせなかった同社の経営戦略のミスであると考えるのが適当です。同社は2001年から7年間、米Amazon.comと組んでEコマース事業に進出していましたが、2008年にこの提携を解消、独自のEコマースサイトを立ち上げるなど混迷している様子が外部からも見て取れました。これは、米国最大手の書店チェーンである米Barnes & Nobleが最初から独自のEコマースサイトで臨んだのとは対称的な動きです。

 電子書籍の領域においても、米Barnes & Nobleが独自の電子書籍端末「Nook」を開発したのとは対称的に、カナダの電子書籍サービス企業koboと提携し、kobo製の電子書籍リーダー端末や配信インフラを採用していました。比較的リスクの少ない戦略で、こちらは悪くなかったように思いますが、いかんせん動きが遅く、結果的に出遅れた感は否めませんでした。こうした経営判断のミスや、株主の変化などもあって今回の申請につながったのだといえます。

 ちなみに、Barnes & Nobleもまた、実店舗での書籍販売は落ち込んでいます。同社の第2四半期の総売上高は19億ドル(約1600億円)で、前年同期比1%増でしたが、デジタル部門は前年同期比59%増であるにもかかわらず全体では1%増にとどまっているのですから、経営は推して知るべしというところでしょう。今後、Bordersが閉鎖する店舗などを買い取っていくのかどうかが注目されます。

 アルメディアの調査では、2000年からの10年間で、日本国内の書店数は約3割減少したとアサヒ・コムで報道されています。華やかに映る電子書籍市場の一方で進む書店の経営危機、そう遠くない将来、日本でも今回のBorders同様の経営破たんが起こりそうです。

livedoorやAll Aboutも参戦した国内電子書籍市場

 国内の電子書籍市場については、各社がさまざまな形で乗り出しているといった程度で、米国の動きに比べるとやや話題性に欠けるのですが、それでも幾つか注目しておきたいものもあります。

 まず、livedoorが電子書籍の販売を開始したことを挙げておきたいと思います。同社のオンライン書店「livedoor BOOKS」では、パピレスが提供する電子書籍販売システム「eBookBank」を利用し、4万5000点という比較的大量のラインアップで電子書籍の販売が始まっています。

 ラインアップの3割程度はアダルト系のコンテンツと独自色が強いですが、新刊本や中古本との同一カート決済などが可能な点は、NTTドコモ、大日本印刷(DNP)、CHIの共同事業会社「トゥ・ディファクト」が進めるハイブリッド型総合書店と似たアプローチであるといえます。もっとも、livedoor BOOKSは実店舗を構えているわけではありませんので、厳密にはAmazon.comに近いとした方が正確です。ビューワはそれぞれのフォーマットに合わせてユーザー側で用意しなければならない点など課題もあり、次の施策が注目されます。

 また、生活総合情報サイト「All About」も独自の電子書籍ブランド「All About Books」を立ち上げ、パブーでの販売を開始しました。最初は数タイトルからのスタートで、ページ数は18〜24ページ程度とKindle Singlesに近い文量のコンテンツとなっています。サイト上のコンテンツを電子書籍としてパッケージし直して売るというモデルは、広告モデルに依存することが多いWebメディアが模索する新たな収益源の1つになっていくのでしょうか。

 All About Booksの販売場所となったパブーは国内の電子書籍販売プラットフォームとして勢いを増していますが、そんなパブーは青空文庫を原作とする漫画コンテストの開催を発表しました。青空文庫といえば、著作権の消滅した日本の近代文学作品をインターネット上で無料公開しているサイトで、青空文庫にある作品をラインアップに加えている電子書籍ストアは数多く存在します。もちろんそのことに問題はないのですが、パブーはさらに一歩先を行き、作家発掘プロジェクトという名目で青空文庫から二次創作物を生みだし、新たな才能を見つけようとしているとともに、そうしたにぎわいを作ることでこのプラットフォームにユーザーを集めようとしているのは面白い手法ではないでしょうか。

 このほか、2月上旬は、広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」を主宰する漫画家の赤松健氏がメディアに精力的に露出し、相次いで記事化されています。ITmedia上では、小説家の桜坂洋氏、編集家の竹熊健太郎氏との対談記事が相次いで掲載され、電子出版や漫画の今後について熱く語っており、一読の価値があります。

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