プロデュース能力がある漫画家の寿命が来たとき、業界がポッキリ折れる徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.3(2/3 ページ)

» 2011年02月16日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

プロデュース能力がある漫画家の寿命が来たとき、業界がポッキリ折れる(赤松)

竹熊 われわれは立場が違うので、多分同じようなことを別の立場で言ってるように思います。Twitterでも言いましたけど、プロデュース能力が作家にも要ると。確かにそうだと僕も思うんですが、そうするといずれ作家と編集者の区別がなくなってくるんですよね。

赤松 そうですね。絵しか描きたくない人と、あとはプロデュース能力がある人の二極分化しちゃって、新人だとプロデュース能力がないですから、それ以降は絵しか描けない人しか残らない。そういう人は原作編集者みたいな人が成長させる余地はある。でも、もう最初から売れてて客も付いてて、しかも自分でネームを描いて自分で直せるやつらが、今後5年間のさばり続ける。そして彼らの寿命が来た時に、若い編集者が育っていないから、業界全体が一緒にポッキリ折れてしまって、日本漫画界は死滅するんじゃないかという仮説を私は持っています。

竹熊 赤松さんがおっしゃっていることは、作家の立場からですよね。僕は編集者がベースですのでその立場から「新しい漫画作り」ができないかと考えています。編集者=プロデューサーとして、アニメを作るみたいに、作品の企画を立ち上げてね、スタッフに支払う金を集めて。

赤松 でも、金なんかないですよね。あと、映画を作るみたいに、いろんなスタッフを集め出すともう危険ですよ。失敗できないじゃないですか。漫画のいいところは、失敗してもいいくらい初期投資が要らないところですよね。複数の人がかかわってる時点で私は危険だと思いますよ。

竹熊 何人で始めるかは慎重に決めるべきですが、最初は実績のある人とやるしかないと僕も思いますね。

赤松 新人さんはどうするんですか。育てるのにもお金が必要でしょうし、作品を載せる場所もありませんよね。

竹熊 お金については、集めるめどがあるとしたらどうですか(笑)。

赤松 私が危惧(きぐ)しているのは、これから新人がデビューできなくなってしまう。直し能力がなくなって、編集者が育たなくなってしまう。これはフリーでも社員でも同じです。今売れてる人たちが今後5年間ずっと売れ続けて、一斉に引退したところで日本漫画界が終わる。そうなってほしいと思っているわけではないですが。

竹熊 おっしゃることは分かります。業界の縮小は避けられないというのは僕もそう思います。ただ、完全にこの世から漫画が消滅するとも私には思えないんですよ。そうすると縮小したなりに、小規模の漫画出版はそれこそ同人誌を含めて残るでしょうし、そうした中から次世代の漫画の作り方が出てくると思うのです。要はスモールビジネスなりに損をしなければよいので、それこそ投資を基にした漫画作りというのもあり得ると思ってるんですよ。

赤松 確かに、最近のテレビドラマを見てもほとんどが漫画を原作としていますし、一次産業としては漫画は今もちゃんと機能していますよね。投資先としてはいいかもしれない。

竹熊 ただ、日本国内で金を集めるのって今はすごく難しいです。映画のプロデューサーも苦労してると思うんだけど。制作委員会で分担して分け合うしかない。

―― 才能ある若い子を見つけてきたから、1000万円とかのファンドを組んで、それでアシスタント雇ってドンってやるのはどうですか。

赤松 それ、私が言ってる危険性の高い商売そのものじゃないですか。

竹熊 多分僕もそのやり方は取らないでしょうね。おっしゃるとおりで漫画の制作費は安いわけです。アニメーションを作ることに比べるとけたが一けた、下手すると二けたくらい安い。だから新人を1年間週刊連載させるんだったら、1000万円あればできるんじゃないですか。

赤松 つまらなかったらどうなるんですか。さっき才能のある新人を、って言ってましたけど、才能のある新人が必ず売れるとは限らないんですよ。私も数多くの天才漫画家を見てきましたけど、何でこの人うまいのに売れないの、って人たくさんいますよね。

竹熊 それはそうですよ。新人にこだわる限りばくちですよそれは。

赤松 ばくちに金をかける投資家はいませんよ。

── あらかじめもうファンがついてる人とか、コミケで人気が高い人とかをデビューさせる方がいいんじゃないですか。

赤松 コミケで売れてる壁の人は、原稿を直してと言っても直さない可能性があります。だって直さなくても売れてるわけで、自分の好きなものを描いてそれを好きな人が並んでるわけですから、いわば完全無欠なんですよ。これつまらないから直してと言っても、嫌ですよってことになるでしょう。となると編集者は必要ないんです。

── なるほど。その時点で完成されているという。

赤松 完成されてます。1日2万冊くらいが限度で、そこから先はないんですけど、自分が好きに描いた絵をみんなこんなに並んで買ってくれるってことは嬉しいし、それで1回につき数百万円はもうかりますから、それで十分なわけです。いや、同人誌書店におろせば、もっと稼げるか。

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