プロデュース能力がある漫画家の寿命が来たとき、業界がポッキリ折れる徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.3(1/3 ページ)

「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――電子出版時代における業界の変動を現役漫画家である赤松健氏と「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏がそれぞれの視点で解き明かす5日間連続掲載の対談特集。第3幕。数年後の漫画業界と、そこでの新たな編集者像について両者の議論はヒートアップしていく。

» 2011年02月16日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

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フリーの編集者が増えて、編集者も実力勝負になる(竹熊)

赤松健 赤松健氏

赤松 コミケでも、古参のサークルっていまだに健在なんですよね。10年以上壁にいるサークルだっていっぱいある。一番並ぶサークルは、いつも同じサークル。あまり目立つ新人が出てない。彼らが40代50代になって引退したときに、買うものがポコッとなくなりますよ。買う方も高齢化しているようですが。

竹熊 戦後の漫画史を考えたときに、なぜ日本でこれだけ漫画文化が産業として発達したかというと、新人をとにかく次から次へと出してきたからだと思いますね。これは新人を見つけてくるという編集者の力があったから。でも、赤松さんがおっしゃる通り、これが崩壊しつつある。

 繰り返しになりますが、僕はこれからフリーの編集者が増えると見てます。フリーの編集者は会社の看板で仕事ができませんから、本当の実力勝負になる。目利きであるかどうか、的確なアドバイスができるかとかね。長崎(尚志)さんや樹林(伸)さんなんかがそうなんだけど、作品にかかわるというか、自分が原作者的に作ってくようなタイプの編集者で。長崎さんが言うには、将来的には漫画編集者は半分がフリーで、半分が社員編集者になるのがバランスがいいんじゃないかっていう。つまり会社を維持するには、最低限社員の編集者は要るけれど、実際に作家と作品を作っていくフリーが重要だと。

── ちなみに、編集者の必要スキルを端的な言葉で表すならどういうものなんですか。

赤松 私の場合は「直し能力」ですね。

── でも作家さんは直されるのを嫌がる方もいるわけですよね。

竹熊 編集として、その作家が納得する意見を言えるかどうか。

赤松 明らかにそうしたほうが面白いというのであれば、直しますよ。

竹熊健太郎 竹熊健太郎氏

竹熊 今、京都精華大学で、「のだめカンタービレ」担当編集者の三河かおりさんと一緒にゼミをやっているんですが、彼女はとても優秀なフリーの編集さんです。彼女が言う編集の最大の仕事は「ジャッジ」だと言うんですよ。三河さんは角川や講談社でずっとフリーの編集者でやってきて、さまざまな作家と仕事をしていますから、その中で編集者は何をすべきかというメソッドを明確に持っている。

 ゼミでは、三河さんが講談社で実際に担当してる作家さんのプロットを、作家さんの了承を得た上でゼミ生に配って、このプロットには問題があるから直してみなさい、っていうんですよ。

赤松 それって文章ですか。

竹熊 文章です。相手は少女漫画家でもうベテランの人でしたけど。編集者のプロットの読み方やネームの読み方をレクチャーしましてね。聞いていてなるほどと思うところが多い。例えば起承転結ってあると、三河さんなりに起承転結の役割というのがあるんです。例えば、転に相当するものが2回あるのがいいとか。ハリウッドのシナリオの本とかを読むと同じようなことが書いてあるのですけど、あちらには起承転結という考え方がないんだよね。お芝居の三幕物構成が基本ですけど、やはり物語の転回点は2回作ることが基本だとかで。

赤松 スクリプト・ドクターのせいでみんな同じようになっちゃうんですけどね。

竹熊 もちろんそうした問題はあるけど、やはり基本というのはあると思うんですよ。そういう意味ではフリーの編集者は、物語の基本が分かっている、能力のある人しか残れません。例えば作家さんって人気が落ちたら契約を切られるじゃないですか。でも編集者はクビにならないですよね。なぜかというと社員だから。社員は簡単にクビにはできないですけど、フリーだったらクビにできますよ。だから編集者もクビになるんですよ。自分が担当する作品の人気が落ちたら。

赤松 つまり、市場原理で質が上がるということですか?

竹熊 だと思います。甘いですか?

赤松 漫画家の立場から言うと、絵に集中したい漫画家は多いんです。ネームを描いて直してもらって、あとはなるべく人と会いたくない、読者とも意見交換したくないという人はいます。その人たちにとってマネージメントや原作をやってくれる人というのは、すごく必要な存在です。そうした役割分担というのは確かにあるでしょう。

 ただ、私はそういう人はこれからどんどん減ると思っています。pixivでも自分でアップロードする手間は発生するわけだし、ブログやTwitterで、言いたいことは言う人が多いと。そういう人の中からプロデュース上手な作家がどんどん出てくるはず。私のように起業してしまうやつもいれば、必ずアニメ化前提で始めちゃうやつもいると。その結果、プロデュース能力の高い人しか残らなくなっていくんじゃないですかね。

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