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» 2011年02月14日 10時00分 UPDATE

徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.1:電子出版時代における漫画編集者のあるべき姿 (1/3)

「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――週刊連載を抱える現役漫画家である赤松健氏と、「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏。電子出版時代における業界の変動を漫画家と編集家という異なる2つの視点で解き明かす。

[山口真弘,ITmedia]
tnfigta4.gif 都内某所で実施された赤松×竹熊対談

 1月27日、「サルまん」などで知られる編集家で京都精華大学教授の竹熊健太郎氏と、Jコミ代表取締役社長で漫画家の赤松健氏の対談が都内で行われた。

 この対談は、電子出版の時代における漫画編集者のあり方について、Twitterを通じて両氏の間でやりとりが行われたことに端を発している(対談までのいきさつはTogetterでのまとめ、および本対談に同席したコミックナタリー唐木氏によるニュース記事も参照いただきたい)。

tnfigta1.giftnfigta2.gif Twitter上における両氏のやりとりの一部。ここからすべては始まった

 両氏はこの日が初対面。日付をまたいで実に7時間にも及んだ対談では、電子書籍時代の漫画編集者像についての意見交換をはじめ、Jコミの現在と未来、さらに大学教授として漫画家志望の学生に指導を行う竹熊氏による業界評、果てには未完に終わった竹熊氏の「サルまん2.0」の裏話にも及ぶ、幅広いものになった。

 ITmedia eBook USERでは、両氏の思いが詰まったこの対談内容を本日から5日間連続でお届けする。これは、漫画業界、出版業界、そしてすべての漫画ファンに向けたメッセージである。

 なお、対談中の筆者および唐木氏、eBook USER編集部の西尾氏の発言は「――」として表記している。

動的広告が入るビューワの可能性に注目している(赤松)

赤松氏 赤松健氏

竹熊 赤松さんがJコミの構想を抱いたのは3年くらい前という記述をブログで読みました。だいたい3年くらい前から僕の耳にも大手出版社が危機的な状況だということが聞こえてきていて、そのころから多くの作家さんが電子出版を模索し始めましたね。

赤松 そうですね。ただ、3年前だとまだiPadもKindleもなかった。私も「ネギま!」が終わってからでいいやと思っていて、具体的に動き出したのは2010年からでした。

―― Jコミを考え始めたきっかけというのは何だったんですか?

赤松 半分は自分が古い漫画をたくさん読みたいという理由で、残り半分は違法流通対策ですね。そのころはWinnyが全盛で、例えばONE PIECEなどの現行作品は出版社が対策しますけど、絶版本は出版社が訴える権利を有していない。

竹熊 そりゃそうですよ。版元には出版権しかありませんから。絶版になれば出版権は消滅して、残るは作者の著作権だけですね。

赤松 著作権侵害が親告罪というのが逆にハードルになっていて。先日、「ネギま!」をShareに流していた人が逮捕されたんですけど、ちゃんと警察から私のところに連絡が来るんですよね、逮捕していいですかって。でもそれは、出版社が自誌の連載漫画について警察に通報しただけのことで、私は全然動いていないんです。これが絶版の漫画だと、作者本人が訴えないと警察も動かない。だから完全に泣き寝入りになってしまいます。

 あとコミケで売られたエロ同人誌が、その日のうちにネットにアップロードされているのも許せない。最近だと、例えば「俺妹」(編注:『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』)の同人誌が各所にアップされてるわけですが、それを描いた同人作家さんは泣き寝入りなんですよね。「俺妹」の作者さんがその同人作家さんと手を組んでそうした著作権侵害を訴えることができれば問題はないのですが、ちょっと現実的ではない。ワンフェス(ワンダーフェスティバル)は1日版権があって著作権をクリアにしていますが、コミケはそういう方針ではないので、こういう事態になっちゃってます。

竹熊 Jコミが発表されたとき、これは画期的だと感じました。広告モデルの無料配信で、しかもコピーは自由じゃないですか。僕も以前、漠然と似たようなことを考えたことはあったけど、実際どうすればよいのかは分からなかったんです。

赤松 私も誰かがすでにやっているだろうと思って広告代理店に聞いたんですけど、誰もやっていないといってました。考えていた人はほかにもいるのでしょうが、私の場合は知名度と営業力みたいなものが偶然あったのかもしれない。

 出版社がやっていなかったのは理由もあってですね、講談社や小学館といった大手出版社は、作家さんからもらった原稿に広告を挟んで無料で配布するというのは、出版社の商行為ではないと考えている節があるんですよ。だから、彼らは今後もやらないと思います。

竹熊 今の出版社は、基本的には紙を売る物流を前提としていますからね。

赤松 それもありますが、無料で配布するという考え方がないんですよ。テレビ局はやっているけど、出版社はやらない。これはね、出版が文化事業であると考えているからです。

―― 例えばリクルートが発行するフリーペーパー「R25」もあれだけ普及しましたけど、出版社の人はあれをよく言いませんしね。

竹熊 多くの出版関係者は、フリーペーパーはチラシの一種であって、出版ではないと思ってるんですよ。

赤松 電子出版もどこかそれに似たところがあって、さらにそれが無料配布となると、興味がわかないんでしょうね。

竹熊健太郎氏 竹熊健太郎氏

竹熊 だから逆にチャンスがあったということでしょう。漫画家さん以外に小説家、例えば村上龍さんも「G2010」を設立されていますけど、どれもデータを売るというモデルからは脱却できていませんよね。そういう意味では広告モデルを選択したJコミしか成功しないのではないかと僕は思っています。

赤松 今回Jコミのβ2テストで無料配信した「放課後ウェディング」では、結果的に52万5000円が(新條)まゆ先生に渡りますが、同じくβ2テストで無料配信した「交通事故鑑定人 環倫一郎」は、クリックレートが放課後ウェディングと同じレベルになるかは分からないとはいえ、恐らくそれ以上の額になると思います。これは絶版本ですからね、もし絶版本が100万円を超える金になったら凄いことですよ。

 ただ、その一方でWebブラウザで見る動的広告が入るビューワをGoogleさんと一緒に手掛けていこうとも考えています。長期的な視座に立つとこちらが重要ではないかと思いますね。

竹熊 それはいつ公開なんですか?

赤松 2月末にはリリースします。本音を言うとこちらは月に数千〜数万円でもいいかなと思っています。絶版本から月に数千〜数万円が定期的に入ってきたらすごいことですからね。今回驚いたのは「放課後ウエディング」が52万5000円って発表したときに、「そんなもん?」とか言う人がいて。新作と間違えてるのかなと。

── 確かに、新しく描き下ろした場合のページ単価と比べている人はいましたね。

赤松 「大御所だったらページ2〜3万円は行くはずだよな」とか書いてあって、あー分かってないなと思って。本当は5万円でも喜んでいいはずなんですよ。この辺りJコミの広報が足りていないなと感じています。

 広報という意味では、広告主となる企業にも広報が足りていなくて。Jコミの広告は5年、10年という単位で載るからオイシイんです。PDFは10年後も読めるでしょうから。だから、例えば1週間限定の安売りとかいう広告が入ってしまうのは本来あまりそぐわないんです。

竹熊 広告主からすると新製品を売りたいでしょうからね。その辺りは今後もくすぶりそうですね。

赤松 そうなんです。一方で、動的広告が入るビューワであれば、いつも新製品の広告が出ますし、アメリカから見るとアメリカの広告がちゃんと出る仕組みになってます。そうすればアメリカの人も押しますよ、それは。

竹熊 それはすごいですよね。当然、今後Jコミでは翻訳版を出すわけですよね?

赤松 出します。映画の字幕のように、漫画の画面上にセリフや感想などをテキストとして表示させるんです。もちろんオフにもできます。この字幕は中国語や日本語などいろいろ切り替えられるんですが、私が注目してるのは、日本漫画の日本語セリフ字幕です。これを打ち込んでしまえば、例えば手塚漫画に「生」または「死」という字が何回出てくるかっていうのが、すぐに検索できる。これが一番面白いなと思っています。

竹熊 面白いですね、それは。

赤松 本当はOCRで読み取りたいのですが、漫画ってOCRでは全然読んでくれないんですよ。それで、ボランティアが、漫画の1ページに対してセリフを真似して打ち込んでいく方式をとりたいわけです。そうするとそのコメントが検索可能になります。あと、そのセリフやうんちくの文字をキーにした広告が入るという仕組みです。例えば「放課後ウェディング」はJコミがセリフを打ったんですが、テキストを打つだけなら比較的すぐ終わります。

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