作家から見た「絶版」漫画家・赤松健×小説家・桜坂洋 電子書籍対談(前編)

電子書籍「AiRtwo」に掲載されている、赤松健さんと桜坂洋さんの対談の一部を公開。絶版や版面権、編集権について、作家の視点で語る。

» 2011年02月04日 16時11分 公開
[ITmedia]

作家は一次産業という本来の姿に立ち返る 赤松健×桜坂洋

 iPhone/iPad向け電子書籍「AiRtwo」(エアツー)に掲載されている、漫画家・赤松健さんと小説家・桜坂洋さんの対談「作家は一次産業という本来の姿に立ち返る 赤松健×桜坂洋」の一部を、特別編集版として公開します。AiRtwoのダウンロードはこちら


中編:「萌えやツンデレを輸出すべし」――パロ同人誌を合法化、国際化するにはへ→

後編:「作者がもうからないと未来につながらない」へ→

著作権、版面権、編集権

桜坂 赤松さんはJコミという会社を立ち上げた。そして新しい構造の実地検証として「絶版扱いになっている作品の広告つき電子書籍化。しかも無料配布」という試みを、マンガの連載を続けながらやっていらっしゃいます。

 これは読者にとっては、ひとつの究極のモデルですよね。鮮やかな回答だし、単純に私も読者として「いいなあ」と思います。

 マンガでも書籍でも、思いのほか「これはまだいけるだろう」と思える作品が絶版になっているんですよね。

画像 赤松さん

赤松 そうなんですよね。ただ厳密に言うと、出版社が絶版にすることはほとんどない。なぜなら、絶版にしても得することはないから。単純に刷られなくなっているだけなんです。

桜坂 「品切重版未定」というやつですね。

赤松 僕の場合は『ラブひな』(講談社、1999)がそれに当たりました。絶版であるかどうかというのは、作者さんであってもわかりにくいところなんですよね。

 だから確認しなくちゃならないんですが、担当に「刷るのですか?」と確認したら、すぐには刷る予定はないと言う。では、絶版ということにしてくださいと依頼したので、現在は、『ラブひな』は絶版扱いになっています。僕の場合は講談社も「ご自由にどうぞ」という姿勢を見せてくれました。

 小説ではどんな状況なんでしょうか。

桜坂 特にライトノベルの場合は、旬が過ぎると刷られなくなりますね。しかしやはり「絶版」と確定されるわけではなく、品切重版未定です。もう、最後に刷って2、3年経ったら絶版、という形でいいんじゃないかと思います。

赤松 たとえば今後、Jコミから発行するために、重版未定の作品を絶版にしてくれと頼むケースが増えると思うんです。その場合、出版社に「刷らないけど絶版にもしない」と言われたとしたら、倫理的にはどうでしょう。あるいは、過去の作品の電子書籍化の契約だけはして、しかし刊行はされなかったりするケースも出てくるかもしれない。

 そこで「そういうことなら」と作家がJコミから出そうとしても、一度契約してしまっているから許されない、ということもありえます。しかしそれは、権利の濫用だと思うんです。

桜坂 しかしうかがっていると、マンガの世界では契約書が常に先立つんですね。

赤松 単行本の出版契約は必ずしています。それには刷り部数に関する条項や、刷って何年以内は、よそで出してはダメよ、といった条項が載っています。

画像 桜坂さん

桜坂 小説では独自の、強い慣習・慣例があるので、本を出すだけだと出版社と契約書を交わさないことも多いです。ただし裁判はいっぱい起きています。

 たとえば四六判で出した本を、他社で文庫にするとき、そこで四六判のときにつくった版面の使用や、編集権などで揉めることがある。我々は、そうした「揉めた歴史」を教科書にして、揉めないやり方を創意工夫してきたようなものです。

赤松 版面の権利というのは、組版をつくった権利のことですよね。しかしそれは権利として認められてはいないようです。「版面権というのは聞いたことがない」と言う弁護士もいました。

 あと著作隣接権や編集権みたいなものも、基本的には認められていないですよ。またロゴも原則は買い取りであって、そこには印税も発生しません。それらの権利を主張するのは、出版社のマジックですね。

 ただその一方で出版社には、フキダシの中のセリフを起こして印刷用データにしたものを作者に渡す義務もない。

桜坂 データは印刷会社が持っていることになっていますよね。

赤松 確かにデータは印刷会社が持っていますが、作者にはくれません。

 小説の場合は、原稿のデータはあっても、作者は組版されたデータは持っていないので、もし自分で出し直そうとするとまた一からはじめるしかない。テキストの人はそこで苦労があるんですね。

 しかし、マンガの場合だと、出版社からフキダシにテキストがくっついた状態で原稿が戻ってくるし、ページ全体が丸々作者のものになってしまう。

 だから僕の『ラブひな』の配信の場合も、版面権についてのクレームは来てないです。

中編:「萌えやツンデレを輸出すべし」――パロ同人誌を合法化、国際化するにはへ→

後編:「作者がもうからないと未来につながらない」へ→

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赤松健

 1968年生まれ。漫画家。1993年「少年マガジン」誌にてデビュー。翌1994年、『A・Iが止まらない!』にて初の連載を開始。1998年には『ラブひな』をスタートさせ、この作品は第25回講談社漫画賞を受賞するヒットとなった。現在は『魔法先生ネギま!』を連載し、この作品もアニメーション、キャラクターグッズなどさまざまなメディアを巻き込む大ヒット作となっている。2010年11月より絶版マンガ作品を広告入りで無料で配信する会社、Jコミを立ち上げ、社長に就任する。


桜坂洋

 1970年東京都生まれ。小説家。2003年、集英社スーパーダッシュ文庫『よくわかる現代魔法』にてデビュー。その後『スラムオンライン』(ハヤカワ文庫、2005年)などの作品を発表。2004年に発表した短篇『さいたまチェーンソー少女』では第16回SFマガジン読者賞を受賞する。ライトノベル界に熱いファンを持ち、かつ、いわゆる文芸領域からも高く評価される書き手。同人活動の造詣が深く、また自身もマンガやゲームなどのキャラクター表現のファンとしても知られる。


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