さて、計6社から納品があったところで、各業者の優劣を、成果物を基に3段階に分けてチェックしてみたい。
自炊PDFデータで最もクリティカルな問題として、ページの抜けやスキャン時に発生した破れなど、後からの修正が不可能なミスが挙げられる。本によっては価値そのものがゼロになってしまう可能性もあり、スキャン代行サービスの価値そのものを否定しかねないことから、絶対に犯してはならないミスだと言えるが、今回の6社はこれについてはいずれもクリアしていた。
ページの抜けや破れに次ぐ問題点として挙げられるのは、ページの順序が入れ替わっていたり、あらぬ方向を向いているといったミス。ユーザー側で手間を掛ければ修正できなくはないが、PDFを修正するソフトを誰もが持っているわけではない上、納品されたデータをそのまま電子書籍端末に転送できないという点では致命的だ。
今回の6社のうち唯一「BOOKCOPY」でページが180度回転している例が見られた。この「BOOKCOPY」では他の冊子で実際には存在しない白紙が表紙の次に挿入されている場合もあるなど、チェック体制を疑う。
最も軽度なミスとして挙げられるのは、汚れがあったり斜行しているなど、ユーザー側が我慢しさえすれば問題ないもの。かなり個人差があるので線引きが難しいが、本そのものがスキャナとの相性が悪いことによる斜行やカラーモードの誤選択はどの業者でも起こりうる可能性があるので、まだあきらめはつく。むしろ問題視すべきは、機器のメンテナンス不足に起因する汚れだろう。しっかり清掃さえしていれば防げるわけで、こうした汚れが見られる業者は、サービスの質が低いと言われても仕方がないだろう。これに該当するのは「スキャンエージェント」「電私化.com」「BOOKCOPY」の3社。PFUのサイトではScanSnap用の清掃用具として「クリーナF1」「クリーニングワイプ」が販売されているので、ぜひ利用することをお勧めしたい。
今回の試用はとくに結論ありきで行なったわけではないが、実際に試用をしてみての率直な印象は、「手間を節約するには有用だが、クオリティを求めるレベルにはまるで達していない」ということだ。
本を自炊する目的は人それぞれだ。本の置き場所を減らすのが目的なので品質が多少低くても気にしないという人もいれば、気に入った本を劣化なく保存するためにクオリティにこだわる人もいるだろう。今回試用した6社に関して言うと、前者のニーズには合致するが、後者のニーズに合致するところはひとつもなかった。
実際のところ、個々のファイルを見ていくと、ある程度裁断およびスキャンに慣れてしまえば、自分でも同等レベルでできてしまうクオリティでしかない。もちろん裁断機とスキャナをそろえるには初期投資が必要になる上、自炊にまつわる細かいテクニックを習得するにはある程度の冊数をこなさなければいけないわけだが、これらが不要になること以外のメリットは皆無といっていい。
スキャン代行サービスを利用するユーザーのほとんどは、自炊をしたことがないと考えられるが(だからこそ依頼をするのだろう)、もし彼らが自分で機器をそろえて自炊を行えば「あれ? 自分でもできるじゃないか」と拍子抜けすることだろう。
ただし、費用が1冊あたりわずか100円程度で済んでしまうのは、コストパフォーマンスの観点からは非常に高い。そもそも1冊の本をきっちりデジタルデータ化しようとすると、機器の準備がすべて整った状態でも30分は軽く掛かってしまう。それが(送料やファイル名付与は別料金とはいえ)1冊わずか100円程度で済んでしまうのは、破格であるのは事実だ。従って、品質は二の次でとにかく低価格でデータ化し、置き場所を減らしたいというニーズには(法的リスクの問題はさておき)十分に合致すると言える。
逆に業者側の観点で見ると、1冊の裁断&スキャンに30分掛かるとすれば、1冊100円として1時間で200円の売り上げにしかならない。もちろんラインを複数用意して稼働率を上げれば実際はこのような計算にはならないのだが、それでも薄利のビジネスであることは容易に想像がつく。実際のワークフローを取材させてくれたBOOKSCAN(後日掲載予定)にしても、クオリティが最低限のレベルまで達したあとはむしろローコストで回していくためのスキーム作りに注力しているように感じられた。どの業者もそうであるかは分からないが、起業が容易でなおかつ市場のニーズが多いことを除けば、ビジネスとしての旨みはあまりないように感じられる。裁断済み冊子の転売疑惑が出るのも、こうしたビジネスモデルの危うさが裏付けになっていると言える。
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