12月後半の注目すべき電子書籍市場動向eBook Forecast

「忙しくて電子書籍の最新動向がチェックできない。でも気になる」――そんな方のためにお届けする「eBook Forecast」。今回は、Honeycomb搭載タブレットへの期待が盛り上がった12月後半の電子書籍市場動向をまとめました。

» 2011年01月05日 12時00分 公開
[前島梓,ITmedia]

 皆さま、明けましておめでとうございます。電子書籍に関する話題を専門に扱う「eBook USER」がリニューアルしたのが2010年11月のこと。そこから半月ごとにめまぐるしく変化する電子書籍市場の最新動向をまとめた「eBook Forecast」をお届けしてきました。今年も電子書籍市場はいろいろと面白くなりそうですが、たくさんあるニュースから重要なものだけをピックアップしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 では、すでに2011年ですが、昨年末は何があったのか、簡単に振り返っていきましょう。

KDDI、電子書籍配信サービスと専用端末を投入

発売4日前に開催された発表会では、ブックリスタ代表取締役社長の今野敏博氏(左)と、KDDI グループ戦略統括本部新規ビジネス推進本部長の雨宮俊武氏がbiblio Leaf SP02でまずは市場のパイを広げていきたいと語ったといいます

 さて、2010年12月後半の電子書籍市場についてですが、12月前半に大きな発表が相次いだこともあり、もう年内は大きな発表はないだろうと考えていましたが、実際には電子書籍市場の好調さを示すように、各社が精力的に最新の取り組みについて発表しています。

 大きなところでは、KDDIが12月21日、“和製Kindle”とでも呼ぶべき電子書籍端末「biblio Leaf SP02」と、電子書籍配信サービス「LISMO Book Store」を12月25日から提供開始しました。biblio Leaf SP02は、3G回線を利用していつでもどこでも気が向いたときに電子書籍の購入・ダウンロードが可能な端末として、ユーザーニーズに応えようとしています。先行して発売されたGALAPAGOSやReaderも3Gには非対応ですので、国内の電子書籍専用端末としては明確な差別化が図れています。

 価格は新規契約の場合で1万5000円程度と、ほかの電子書籍専用端末と比べてもかなり安価な価格設定で、3G回線の料金プランは「誰でも割シングル(特定機器)」に加入すれば月額525円とこちらも安価です。電子書籍ストアであるLISMO Book Storeは、ソニーのReader Storeと同様「ブックリスタ」から提供を受けており、コンテンツの数はReader Storeとほぼ同数のラインアップとなっています。なお、LISMO Book Storeは2011年3月末までコンテンツを通常価格の半額で提供しており、この辺りからも電子書籍が非再販商品であることを感じたりします。なお、2011年4月からは同社のスマートフォン「ISシリーズ」向けにもサービスを展開する計画としていますので、ISシリーズのユーザーはそれを待つのも1つの手です。

NTTドコモの隠し球はHoneycomb搭載タブレット?

 さて、気になるのは、NTTドコモが年度内に発売予定としていて、12月中には発表がなかったタブレット型端末の行方です。発表会の様子を伝えた記事では、「シャープが提供予定の電子書籍端末のホームタイプ(10.8インチ)も候補に挙がるが、電子書籍端末でなくタブレット型端末とされていることなどを考えると、別製品が登場する可能性が高い」とありましたが、その後の市場の動きを見ている限り、米国ラスベガスで1月6日(現地時間)から開催される「2011 International CES」で韓国のLGエレクトロニクスが発表するとみられるAndroidタブレットが、NTTドコモの隠し球となりそうです。

果たして、NTTドコモが年度内に発表予定としているのはHoneycomb搭載タブレットなのでしょうか

 ではなぜこの機種が隠し球となるのか。それは、このタブレットがAndroid OSの最新バージョン“Honeycomb”を搭載していることがまず挙げられます。ご存じの方も多いかと思いますが、各キャリアから発表された2010年冬春モデルのスマートフォンの多くは、Androidのバージョンが2.2で、辛うじてNexus SがAndroid 2.3(Gingerbread)として年内にリリースされた程度で、バージョンアップの早いAndroidと市場とのギャップが生じてきています。

 このGingerbreadの次のバージョンで、タブレットに最適化されているといわれるのがHoneycombで、これを搭載した端末が、CESでは複数登場する予定です。上述したLGエレクトロニクスのほか、Motorolaや東芝もHoneycomb搭載タブレットをここで発表するとみられますが、そうしたHoneycomb搭載タブレットが少なくとも3月末までにはNTTドコモから登場するのです。キャリアの中では電子書籍に対してじっくりと足場を固めてきた同社が、一気に王者の力を見せつけることになりそうです。

 なお、すでに市場に登場している幾つかのAndroidタブレット端末のうち、Honeycombが要求するハードウェアスペックを満たせないものも出てくるでしょう。KDDIから登場したスマートフォン「IS01」のOSアップデートが見送られたように、それらはよくてもAndroid 2.3のアップグレートまでしか提供されない可能性が高いと思われます。この仮定が正しいとすれば、現時点でAndroid 2.2ベースのタブレットを購入するよりは、少し待ってHoneycomb搭載タブレットを選択した方がよいと考えることができます。この辺りはNTTドコモのしたたかさを感じます。

 いずれにせよ、iPadも近日中にモデルチェンジが濃厚ですので、汎用的なタブレットはiPadの後継機とHoneycomb搭載タブレットが2011年の台風の目になる可能性が高いといえるでしょう。

 こうしたAndroid端末の普及が確実視される中、Amazon.comは、電子ペーパー型の電子書籍専用端末「Kindle」シリーズの累計販売台数が1000万台を突破したと幾つかのメディアが報じています。iPadの登場に沸いた2010年でしたが、市場の反応としては両者はうまくすみ分けているようです。

 この連載でも何度かお伝えしたとおり、電子ペーパーは今後カラー化が見込まれていますが、しばらくは技術的に大きなブレイクスルーはなさそうです。このため、ユーザーの拡大を図りたいAmazon.comとしては、購入したコンテンツをどの端末からでも読めるようにする姿勢を強化しています。例えば、Android向けの電子書籍ビューアアプリ「Kindle for Android」をアップデートし、新聞や雑誌の配信を開始したことなどがその好例ですが、このほかにも、12月30日にはKindle Storeで購入した電子書籍を友人や仲間に無料で14日間貸し出すことができるレンタル機能の提供を開始するなど、年末にかけても市場のリーダーになるべく奔走しています。

GALAPAGOSは海外へ、パナソニックは再参入へ

 国内企業に目を向けると、シャープのメディアタブレット「GALAPAGOS」が3GおよびEPUBに対応したモデルで海外展開を検討しているとDevice Magazineが伝えています。「ミドル世代の視点でみたGALAPAGOSホームモデル」では、「GALAPAGOSの背面にSIMカードを挿入することを想定しているかのようなスペースがある」と書かれていますので、3G対応は想定内の動きといえますが、それなら最初から3Gモデルで出してくれというGALAPAGOSユーザーの悲鳴が聞こえてきそうです。余談ですが、経済学者の吉本佳生氏が「初期の買い手に報いる電子書籍を」と述べているインタビューがeBook USERに掲載されていますが、シャープにも初期の買い手に報いる施策を期待したいところではあります。

 このシャープの動きは、市場規模も違う海外市場で認められた方が、ビジネスとしては成長の余地があるという当然の流れで理解できるものですが、とはいえ足元をおろそかにせず、XMDFで国内の主に出版業界のニーズを満たしてきたことも考えれば、クラウドメディア事業で世界と渡り合っていく姿勢が強調されているようにも思えます。伊藤忠商事も北米向け電子書籍事業への参入を発表していますが、商社もこうした動きに敏感です。

 そんな中、注目したい国内企業の1社として東芝を挙げたいと思います。タブレットの可能性を確信し、eBook USERではあまり取り上げてこなかった同社ですが、PCでも携帯でもないタブレットという国際的なブルーオーシャンにリソースを早くから割いてきたことが、ここにきて実を結びつつあるように思います。これまでAndroidタブレット「FOLIO 100」などを提供してきた同社もまた、上述のCESでCPUにTegra 2を搭載した10.1型Honeycomb搭載タブレットを発表するとみられます。ハードウェアの上のアプリケーションまで含めてLG ElectronicsやMotorolaと同様の競争力があることを示すことができれば、必然的に国際的な同社のシェアは高まるでしょう。それがソニーのReaderのように日本に“逆輸入”されることになるのかもしれません。

 シャープ、東芝と国内企業の話題が続きますが、かつてΣBook(シグマブック)やWords Gearといった電子書籍端末をリリースし、ほどなく撤退したパナソニックもまた、この春をめどに電子書籍市場に再参入する意向を示していると毎日新聞が伝えています。まだ正式な発表ではないようですが、ソニー同様、一度は撤退した市場に再び参入するのですから、こちらも前車の轍(てつ)を踏むことのないよう期待したいところです。

 ここまでは主にハードウェアベンダーでしたが、コンテンツ供給の側にも多少動きがありました。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とメディアドゥの業務提携です。自社開発のコンテンツ配信システム「CAS」が「ドコモマーケットブックストア」や「ソフトバンクブックストア」で採用されている同社ですが、12月15日にはデジタルガレージが資本参加しており、メディアドゥの藤田恭嗣社長に次ぐ株主となっています。その後同社がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との業務提携という一連の流れは、CCCとデジタルガレージが2009年8月に資本提携契約をしていることをご存じの方であれば、さほど驚かなかったでしょう。Twitterを使ったマーケティングや「TSUTAYA」店舗・「TSUTAYA online」のユーザー拡大を目的としたコミュニティー、さらにデジタルガレージ子会社が提供する決済サービスを絡ませていくことで、CCCがシャープと提供している「TSUTAYA GALAPAGOS」の動向にも影響してくるでしょう。出版社と協力したプライベートブランド(PB)コンテンツの開発なども検討しているということですので、この辺りの動きが注目されます。

 こうした各社が続々と乗り出してくる電子書籍市場の規模について、野村総研からのリポートも出ています。同社は、電子書籍端末は2011年度末には280万台に、2015年末には1400万台の規模になると予想、電子書籍コンテンツ市場も約23%のCAGR(年平均成長率)で2015年度には2400億円に達する見込みであるとリポートしています。ハードウェアからサービスまで豊富なラインアップが本格的に提供されることになる2011年は、成長の年といえるでしょう。

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