三省堂書店オンデマンドで「本のATM」を体感してみた大人の社会科見学

三省堂書店が開始した店頭オンデマンド出版サービス「三省堂書店オンデマンド」。注文から10分ほどで製本された本ができあがるこのサービスを実際に試してみた。

» 2010年12月16日 16時07分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

本のぬくもりを感じられる三省堂書店オンデマンド

 東京にある神田神保町といえば、古くから本の街として知られる。電子書籍市場が急速に盛り上がる中、書籍流通のあり方を提案すべく、三省堂書店が新たなサービスを12月15日から開始した。

 三省堂書店神保町本店が開始したサービスは、「三省堂書店オンデマンド」。同サービスは、いわゆる「店頭オンデマンド出版」だ。店頭オンデマンド出版は、米国の大手出版社Ramdom Houseの元編集者であるジェイソン・エプスタイン氏が提唱したもので、その構想を米On Demand Booksが「Espresso Book Machine(EBM)」というオンデマンド印刷機を製作したことで具現化した。米国を皮切りに、英国でも2009年にBlackwellが導入したことが話題を呼んだが、これが日本でもいよいよ登場したことになる。

Espresso Book Machine 三省堂書店神保町本店に登場した店頭オンデマンド出版を行う「Espresso Book Machine」。日本にはこれ1台だ。小ロットの自費出版や大活字本にも対応する

 12月16日、記者は三省堂書店神保町本店に足を運び、三省堂書店オンデマンドを体験してみた。一階奥に置かれたEBMは、基本的にはプリンタと製本機で構成されるシンプルな構造だ。プリンタは2台で、表紙を印刷するインクジェットプリンタと、本文を印刷するプリンタ(FUJI XEROXの4112 Light Publisher)を用いていた。製本機部分は透明になっており、実際にどのように製本されるかを目で追うことができる。

 EBM脇の受付では、製本したい書籍を選択する。店頭で申し込める和書はすべて講談社から刊行されていたもので、55タイトルが並ぶ(和書のリストはこちら)。いずれも書店では品切れが多い作品だ。このうち最も高額なものは、吉村英治氏の「江戸城心中」(529ページ)で2790円、最も安価なものは、林京子氏の「やすらかに今はねむり給え/道」(178ページ)で950円だった。

 一方の洋書は、Googleが発表している「Google eBookstore」でパブリックドメインとして提供されているものや、オンデマンド出版の大手である米Lightning Sourceから提供しているものが選択可能となっている様子で、300万点以上の書籍から選択できるという。受付には検索用のPCも置かれており、そこで検索することもできるが、Web上にも洋書検索サイトが設けられている。今後は和書のラインアップを増やすとともに、検索もできるようにする予定だという。

 今回注文したのは、上述した「やすらかに今はねむり給え/道」。EBMに接続したMacから印刷ジョブを投入すると、さほどノイズもなく作業は進む。表紙の印刷と本文の両面印刷(モノクロ)は別工程で進み、両面印刷が終わると表紙にのり付けされ、三方切断されて完成だ。掛かった時間はわずか5分ほど。ページ数が少ないということもあるが、あっけなく完成する。手渡された製本済み書籍はほんのり温かい。

印刷中。写真下部の紙が表紙で、本文が印刷されたものは上にたまっていく(写真=左)/印刷が終わると、両面印刷されたものと表紙がのり付けされる。この後三方切断されて完成だ(写真=右)
Espresso Book Machineの脇には、三省堂書店オンデマンドで製本された書籍が並べられている。和書の場合は表紙に固定のレイアウトを利用しているようだが、洋書は本来の表紙が用いられる(写真=左)/製本過程で裁断した紙の切れ端も集められ、自由に持って行くことができる(写真=右)

製本された書籍。表紙はインクジェット印刷のため、完全に乾くまで半日ほど掛かる。指紋などが付くのを防ぐため、ビニールでこん包されて渡される

 三省堂書店神保町本店の霞卓也氏によると、初日は70冊ほどの申し込みがあったという。 書籍の需要と供給をより密接に一致させようとするこのサービス。基本的には返品も在庫も存在しないため、書店にとってメリットがあるのは自明だし、eBookリーダーを持たない人間をむげにすることもない。EBMがもともと持っていたコンセプトである「本のATM」が日本でも定着することを期待したい。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.