シャープは日本の電子書籍市場をどこへ導くのか次世代XMDFとGALAPAGOS(1/2 ページ)

電子書籍が日本市場でも盛り上がりを見せる中、シャープは電子書籍を軸とするクラウドメディアサービス「GALAPAGOS」と、同サービスに対応したメディアタブレット「GALAPAGOS」を投入、同社の電子書籍フォーマットである「XMDF」も電子書籍の概念を超えたものに進化しつつある。シャープが考える日本の書籍文化と新たなITビジネスの融合について、ジャーナリストの神尾寿氏が鋭く迫る。

» 2010年12月15日 00時00分 公開
[神尾寿,PR/ITmedia]
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2010年に脚光を浴びた「電子書籍」

メディアタブレット「GALAPAGOS」の発売で読書体験は新たな領域へ

 今年のIT業界で話題になったキーワードの1つが「電子書籍」だろう。北米でのAmazon「Kindle」の大ヒットを皮切りに電子書籍がにわかに脚光を浴び、日本でも多くのキャリア/メーカーが電子書籍市場への参入を表明している。

 そのような中で、日本における電子書籍ビジネスのキープレーヤーとも言えるのがシャープである。同社は総合家電メーカーとして携帯電話/スマートフォンに注力しているだけでなく、古くから日本の電子書籍フォーマットのひとつである「XMDF(ever-eXtending Mobile Document Format)」を推進してきた。そうした実績と背景から、今年12月、電子書籍を軸とするクラウドメディアサービス「GALAPAGOS」と、同サービスに対応したメディアタブレット「GALAPAGOS」を投入。日本の書籍文化と新たなITビジネスの融合を図ろうとしている。

 シャープはGALAPAGOSで電子書籍市場にどのように臨むのか。また、日本発の電子書籍フォーマットであるXMDFとはどのようなものなのか。シャープ ネットワークサービス事業推進本部ネットワークサービス推進センター 副所長 兼 サービス企画室長の中村宏之氏、同ネットワークサービス事業推進本部係長の笹岡孝佳氏、同ネットワークサービス事業推進本部B205プロジェクトチーム副参事の村松正浩氏に話を聞いた。

電子書籍の歴史とともに歩んだXMDF

中村宏之氏 シャープ ネットワークサービス事業推進本部ネットワークサービス推進センター副所長兼サービス企画室長の中村宏之氏

神尾 2010年は電子書籍に注目が集まり、一部では「電子書籍元年」とも言われています。しかし、日本では以前からモバイル分野を中心として電子書籍市場の開拓に取り組んできました。

中村 はい。日本の電子書籍ビジネスへの取り組みは十数年前から行われており、過去にも何度か「電子書籍元年」と言われたことがありましたが、恐らく歴史的には今年がトピックになるでしょう。特に近年、携帯電話向けの電子書籍コンテンツ市場が市場を牽引していることは言うまでもなく、日本の特徴的な事象とも考えています。

神尾 2009年度の国内電子書籍市場は、事業者売上高ベースで610億円。前年度比119.6%増でした。そして、その大半が携帯電話向けコンテンツですね。

中村 とりわけ大きいのがコミックですね。ケータイで電子コミックを読むというのは、若い人たちの間では一般的になってきています。小説系の電子書籍もありますが、ライトノベルのような気軽に読める作品が多く、コミック同様若い世代を中心に支持されています。

神尾 シャープは国内の電子書籍市場にかなり早期から参入されていましたよね。

中村 ええ。最初が2001年の「ザウルス文庫」のころからですね。当時はまだPDAのザウルス向けの取り組みで、シャープとして電子書籍のフォーマット作りから行いました。その対応端末を拡げる事で市場を作りたいと考えたのですが、実際に(シャープの電子書籍への取り組みで)端末普及台数が伸びたのはケータイ向けに展開し始めてからです。現在では7000万台以上のケータイが、われわれの推進してきた電子書籍フォーマットである「XMDF」に対応しています。

神尾 ザウルスが出た初期のころから電子書籍に注目していたのでしょうか。

村松 ザウルスでは4型クラスの液晶画面を活かせるサービスの一つとして、「PDAで本が読める」というところからスタートしたのですが、そこから本(日本語表現)のあり方について、出版社様の意見をお聞きしながらXMDFを築いていきました。その中で、外字やルビの必要性や、求められるフォントの美しさなどについて多くのことを学びました。日本語の表現力をどう高めていかなければならないか。それを出版業界から学ばせていただいたのです。

中村 ほかにも「レイアウトへのこだわり」もありますね。一般の読者は何となく本を読んでしまいますが、出版社や著者の方々からすると、ページのレイアウトにはすべて意味があります。禁則処理やインデントはもちろん、図版が入った場合の文字の回り込みや空白の大きさまで、ひとつひとつにこだわりがあるのです。電子書籍フォーマットは、そうした「本のこだわり」をきちんと表現できるものでなければいけない。XMDFでは、そういった細やかな日本語表現のニーズに応えるべく、これまで出版業界の方々と一緒に開発してきました。

神尾 電子書籍フォーマットとして、日本の出版文化にきちんと対応してきた、と。

中村 フォーマットだけではありません。ビューアやオーサリングツールも含めて、XMDF全体で日本の出版表現・出版文化に誠実に対応させていただきました。

それは「モバイル」から始まった

村松正浩氏 シャープ ネットワークサービス事業推進本部B205プロジェクトチーム副参事の村松正浩氏

神尾 その後、XMDFは携帯電話で大規模採用されたわけですが、なぜXMDFはこれほどまでに携帯コンテンツ市場で支持されたのでしょうか。

中村 これはXMDFの技術的な特性であり、われわれのこだわりでもあるのですが「少ないメモリで再生できる」ことを重視して開発しました。全体の容量をコンパクト化するだけでなく、配信時の(通信インフラへの)負荷軽減も配慮して、モバイル環境で使いやすいように腐心したのです。こういった少ないメモリや低帯域でも使えるように工夫したことが、携帯電話向けの電子書籍フォーマットとして評価されたのです。

村松 当時の携帯電話は画面サイズも小さく、CPUも非力で、メモリの制約も大きかった。そこで快適に読める電子書籍フォーマットとすることが、XMDFの至上命題でした。これは出版業界から要望があった「日本語表現」と並んでわれわれがこだわったポイントになります。

神尾 なるほど。当初から「モバイル端末」を前提に開発されていたわけですね。軽くてサクサク動く。それがXMDFの特徴であり、日本で広く採用された要因となった、と。

中村 ええ。実はわれわれがモバイル端末/モバイルインターネット環境を重視していることは、名前でもきちんとうたっているのですよ。XMDFの「ever-eXtending Mobile Document Format」とは、“進化し続けるモバイル機器向けのドキュメントフォーマット”という意味ですから。XMDFという名前は「発音しにくい」と言われることもあるのですけれど、電子書籍ビジネスはモバイルだ、という思いが込められているのです。

 日本発の電子書籍フォーマットはXMDF以外にも存在しており、そちらも日本語表現にこだわっていると思います。しかし、モバイルのニーズに注力して技術開発をし、研さんを積んできたという点では、われわれシャープのXMDFの方に特徴があると言えるでしょう。

神尾 XMDFが日本の出版文化と、モバイルコンテンツの文化・ビジネスとの親和性が高かったという点はよく分かったのですが、一方でユーザー側から見て、XMDFならではのメリットというのはあるのでしょうか。

中村 活字だけの本ではフォーマットの違いをユーザーは意識しづらいかもしれませんが、XMDFでは「コミック」と「辞書」に対応していますので、ここが(ユーザー側から見た時の)メリットになると思います。

 XMDFではコンテンツ全体に対して検索がかけられるので、あまり知られていませんが電子辞書端末でも利用しています。また電子コミックでは、携帯電話向けならではの対応として、スクロールやバイブレーション連動といった機能も用意しています。

神尾 電子コミック用の拡張機能は面白いですね。そのあたりは“携帯コンテンツ”で成長したXMDFならではの特徴ですね。

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提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia eBook USER 編集部/掲載内容有効期限:2011年1月11日