インタビュー
» 2010年12月08日 09時30分 UPDATE

「ラブひな」170万ダウンロード突破の衝撃:Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(前編) (1/4)

漫画家の赤松健氏が主宰する広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」が話題だ。無料で公開された「ラブひな」は、1週間あまりで累計170万ダウンロードを突破。なぜ今この取り組みが注目されているのか? 赤松健氏へのロングインタビューを敢行した。

[山口真弘,ITmedia]

“漫画屋”赤松健に迫る

 漫画家の赤松健氏が主宰する広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」が話題となっている。初回のタイトルとして投入された『ラブひな』は、公開から1週間あまりで累計170万ダウンロードを突破。かつて一世を風靡(ふうび)した大人気コミック、かつ無料であるとはいえ、メジャー週刊誌の部数並みの数をこの短期間で達成するというのは極めて異例である。

 ITmedia eBook USERでは、週刊連載と並行して「Jコミ」に取り組む多忙な赤松健氏にインタビューを依頼。Jコミのβテスト開始から5日後の12月1日にロングインタビューを行った。2010年、あるいは今後の漫画業界を大きくにぎわすことになるであろう赤松氏の価値観や、漫画家としての思想、さらには同氏の知られざる部分まで赤裸々に語ってもらう貴重なインタビューとなった。たっぷりと堪能してほしい。

赤松健氏 赤松健氏

Jコミのために、はじめて週刊少年マガジンとの専属契約を切った

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── 今日(編注:取材日の12月1日)は講談社に行かれていたようですね。

赤松 ええ、Jコミについて聞かせていただきたいということで行ってきたんです。局長クラスがズラッといらっしゃいました。Jコミと講談社で具体的に提携をするわけではありませんが、高く評価していただいて、少なくともJコミについて講談社が文句をつけてくることは、もうなかなかないと思います。作家さんにとってはすごく安心ではないかと思います。

── 先生はデビュー以来ずっと講談社で描かれているんですよね。

赤松 そうです。デビューからずっと専属契約です。実は今回のJコミのためにはじめて専属契約を切りました。週刊少年マガジン編集部からは「ええっ!他誌に行くんですか!?」と驚かれたり(笑)。

── 竹熊健太郎さんが以前、『バクマン。』のおかげで漫画家と編集者の関係、あと専属契約というものが認知されるようになってきたとおっしゃっていましたが、ジャンプだけの話ではないんですね。

赤松 週刊少年ジャンプや週刊少年マガジンでは専属契約がありますが、週刊少年サンデーや週刊少年チャンピオンにはありません。サンデーはあだち(充)先生や高橋留美子先生がずっといらっしゃることもあって昔からブランド力が高く、あまり作家を縛り付けたりというのはないようですね。あと小学館は2年ごとに配置替えがあるらしく、編集者と作家の結びつきも弱いです。集英社は作家と編集者が1対1で、のし上がろうぜという、わりと『バクマン。』じみたところがありまして、けっこう燃えてますよね。

 週刊少年マガジンは1人の作家に3人くらい担当編集がつくんですよ。ネームを見せると、「ここはこうしよう、ここはこうだ」って3人が意見を言って、責任の所在が明らかでない(爆笑)。割と公務員的ですが、でもちゃんとしっかりしたまんべんない意見を言ってくれる。集英社だとその編集者と合わないとすごくつらいんですよね。でも週刊少年マガジンでは1人と合わなくても残る2人がフォローしてくれるので、ケンカは少ないです。

コレクターとしての価値観をネットユーザーと共有している

ラブひな 今回のβテストで無料配信された『ラブひな』全巻。1巻のダウンロード数は35万件を突破した

── 今回のβテストで無料配信された『ラブひな』というタイトルは非常に破壊力があったと思いますが、この作品を選ばれた理由は?

赤松 ちょうど10年前の作品なんですよね。これより昔の『AI止ま(編注:『A・Iが止まらない!』)』は知名度が低いですし、それ以降の『魔法先生ネギま!』(ネギま)は連載中ですので、選択肢としてはこれしかありませんでした。ラブひなについては、しばらく重版が掛かっていない状態でしたので、講談社と相談し、絶版扱いにしてもらうことでJコミで配信できるようになりました。

── 反響はいかがでしたか。

赤松 一番多いのは、「懐かしい」という声ですね。ちょうど10年前の作品ですから、いま30歳くらいの方が、高校や大学、浪人時代に読んでいて、あー懐かしい、これ読んで東大目指したよな、といったツイートがすごく多いですよね。今読んでも面白いとか、でも絵は古いよねとか、当時盛り上がってたなーというのはすごく多いようです。

── 例えば、今回の取り組みがもっとマネタイズに特化していれば、最初の3巻くらいを無料でダウンロードさせて、残りは本を買ってねというやり方もあったと思うのですが、Jコミのコンセプトからするとまったくあり得なかったというわけですね。

赤松 (笑)。コレクターとしては、ファイルネームが一字ずつ違うものが並ばないと納得できないですね。いまiPadに『ラブひな』1〜14巻まできっちり並べて入れたよーって記念写真を撮っているケースが結構あるようです。ネットユーザーたちはそういう几帳面な人たちなんですよ。そういう気分をわたしは結構分かっていて。そういう人たちは1、2、3巻があって4巻がなくて5巻があるというのが絶対許せない。『ラブひな』を落とすんだったら全巻落としますから。だから3巻までというのはあり得ない(笑)。そういう価値観を彼らと共有できている感じはすごくありますね。一般の方々ならば、1巻だけ、とか全然ありなのですが。

── ファンと価値観を共有しているというお話が出ましたが、赤松先生はネットの黎明(れいめい)期からホームページを通じてファンとの交流が盛んなようにお見受けします。

赤松 わたしはPC-VAN(編注:NECが運営していたパソコン通信サービス。2003年に終了)のサブオペだったんですが、すごい密接ですよね。オフ会なんかもよくやりましたし。あと昨年まで毎年「ネギのお茶会」というのをやっていたんですが、ブロガーなども集めて、声優さんも呼んで歌ってもらうという、結構予算が掛かるんですけど(笑)、すごい盛り上がりますよ。(アニメ『魔法先生ネギま!』の主題歌の)「ハッピー☆マテリアル」とかも歌ってもらって(笑)。

 『ラブひな』を描いてるころにちょうどホームページがはやり始めて、漫画家がホームページやって、掲示板持ってるとみんな珍しいから来てくれるんですよ。それでいろんな趣味の掲示板を三十個くらい作って、読者から募った管理人を立てて運営したりしてました。で、管理人をみんな集めてオフ会をやってみたり。それが2000年くらいですね。まだブログもなかったころの話です。

── ちょうど『ラブひな』の1巻の巻末に、ドメインを取得してホームページがこっちに移転したので来てねというメッセージが載っていて、あれが1999年だと思うのですが、そのくらいのタイミングですね。

赤松 ええ、当時から同じアドレスですね。

── Jコミには、何名の方が携わっておられるんでしょうか。

赤松 実際にプログラムを作ってる会社とWebデザインの会社を除くと、わたしを入れて5人です。Googleグループでディスカッションして、サーバもAmazon EC2ですし、全部クラウドで。部屋とかサーバとか、いわゆる設備はまったく持っていません。いかにも現代的ですよね。社員の中に1人だけ、一度も会ったことがない人がいます(笑)。

── その会ったことがない方というのは、どのようにして知り合われたんですか?

赤松 Jコミの技術部長の部下です。わたしは給料は出していますが、名前だけで顔は知らないんです。でも昔から技術部長の補佐をずっとやってくれてて。一回だけリアルで集まったのですがその方は来なくて、ネットカメラで参加したんです。ウィーン、ウィーンって首を振るやつ。ですので、わたしの中では彼の顔はネットカメラです(爆笑)。

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