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» 2010年12月06日 10時00分 UPDATE

eBook Forecast:11月後半の注目すべき電子書籍市場動向

「忙しくて電子書籍の最新動向がチェックできない。でも気になる」――そんな方のためにお届けする「eBook Forecast」。今回は、11月後半の電子書籍市場動向をまとめました。

[前島梓,ITmedia]

Reader VS GALAPAGOS

Sony Reader 5型ディスプレイを採用した「Pocket Edition」

 11月後半の電子書籍市場は、電子書籍専用端末を中心にさまざまな発表がありました。

 その口火を切ったのが、ソニーが11月25日に発表した電子書籍リーダー「Sony Reader」。同端末は、これまで「音楽」「映画」「ゲーム」とエンターテインメントビジネスを展開してきたソニーが第4のビジネスと位置づける「ブック」の領域に切り込むための重要な戦略製品です。

 同社は、2004年に電子書籍リーダー「LIBRIe」を発表していますが、当時はさまざまな理由から事業としてストレッチせず、数年で撤退した苦い経験があります。北米市場を中心に人気を博すSony Readerで再びこの市場に参入するソニーですが、果たして日本のユーザーの心をうまくとらえることができるのか、注目されます。

 価格は5型の「Pocket Edition」が約2万円、6型の「Touch Edition」が約2万5000円となる予定で、12月10日に発売されます。また、端末の販売に合わせ、ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社による電子書籍配信事業会社「ブックリスタ」からコンテンツの供給を受け、電子書籍ストア「Reader Store」もオープンします。

 Sony Readerの発表は、ustでも中継されるなどして話題となり、ITmedia eBook USERでも同日に幾つかの記事が公開されています。外観やハードウェアスペックについては、「板状のeBook端末「Reader」をなめるように触ってみた」が、ソフトウェア面は「Sony Reader、その使い勝手を試す(ソフトウェア編)」で、さらに、ustではカットされた発表会の質疑応答をまとめたものは、「『ポケットに、本棚を』――Sony Readerはユーザーの心をとらえるか」でそれぞれまとめられています。

tnfigef2.jpg 発表会では1400冊の紙書籍を本棚に並べ、これだけの量が1台で持ち運べるとアピール

 月3冊読むとして約38年分に相当する1400冊の書籍を1台の端末で持ち運べる同端末を称して、「ポケットに、本棚を」とアピールするソニーですが、質ではなく量をアピールしている点に、筆者は少し不安を覚えます。38年後にReaderが市場に存在しているか、あるいは購入したコンテンツが将来登場するであろう新デバイスでも読めるのかどうかは不明ですから、そこではない別の魅力を訴求してほしかったというのが正直なところです。

 もっとも、ユーザーの不満が多かったのは別の部分だったようです。ブロガーの小飼弾氏も、専用端末であるはずのReaderだけではコンテンツを購買できないことに憤りを隠せない様子でした。北米市場では、3G+Wi-Fi通信機能を内蔵した「Daily Edition」も提供されていますが、今回、こちらの投入は見送られました。Daily Editionを投入するためキャリアとの交渉で時間を重ねていては、ビジネスチャンスを逃してしまうという危機感から投入を見送ったと思われますが、これが年内に提供されていればと思うと残念なところです。また、海外ではiPhone/iPad/Android向けの電子書籍ビューアアプリ「Reader Store」の提供もアナウンスされていますが、こちらも国内では当面提供されない見込みです。

GALAPAGOS Sony Readerと同じく12月10日にシャープが発売するメディアタブレット

 電子ペーパーを採用したReaderの対抗馬として、同日に発売されるのが、シャープのメディアタブレット2機種です。シャープのクラウドメディア事業である「GALAPAGOS」のエンドポイントデバイスとして最初に投入されるのは、トラックボールを採用した5.5型モバイルモデル(レッド・シルバー)と、高精細HD液晶を搭載した10.8型ホームモデルの2機種3製品です。価格は、モバイルタイプが3万9800円で、ホームモデルが5万4800円です。

 Readerと比べた場合の差異としては、端末だけでコンテンツを購買できる点がまず挙げられます。3Gには対応していませんが、Wi-Fi経由で端末から直接コンテンツを購入できます。また、ソニーがとりあえず見送った定期購読サービスをいち早く提供し、プッシュ型の読書体験を提供しようとしている点も評価できます。

 ソニーが1400冊を1台で、としているのに対し、シャープは「それ外部メモリを入れ替えればもっと持ち運べるよ」と言わんばかりに、microSDにコンテンツを格納する方式を採用しています。サービス開始当初の対応フォーマットは、XMDF、PDF、TXTのみですが、今後、電子書籍ストア「TSUTAYA GALAPAGOS」で動画や音楽などの取り扱いを開始する段階で、ソフトウェアアップデートで対応を図る考えです。

 ただし、今回メディアタブレットは量販店で直接購入することはできず、シャープの直販体制となっている点に注意が必要です。量販店でもデモ機が展示されていますが、購入の申し込みは店頭に用意されている申込書、あるいはシャープの「シャープメディアタブレットストア」で申し込む形となっています。

 3G対応じゃなきゃ嫌だ、というユーザーは、5型のモバイルタイプに3G通信機能を搭載した「ブックリーダー SH-07C」がNTTドコモから提供されますので、そちらを検討するのもよいでしょう。ただし、前回、SH-07Cでは「TSUTAYA GALAPAGOS」のほか、NTTドコモと大日本印刷が進める電子書籍サービスも利用可能になると書きましたが、SH-07CではTSUTAYA GALAPAGOSが利用できない可能性も出てきました。

ストア型アプリが各社から、大手も参入?

 Reader StoreもTSUTAYA GALAPAGOSも、数万冊規模の品ぞろえでスタートする見込みとなっています。年間8万冊近く刊行される書籍の点数からすれば品ぞろえが十分とはいえませんが、売れ筋はこれでカバーできそうです。

 しかし、問題なのは、コンテンツの多さが露出不足を招き、プロモーションが難しくなることでしょう。電子書籍の販売で難しいのは、まだプロモーションの仕方で決定的なものが存在しない点にあります。例えばiPhone/iPad向けのアプリであれば、App Storeのランキングで上位に来なければ、ほとんど知られることなく消え去っていくものも珍しくありません。そのため、出版社は価格を期間限定で115円にしてお得感をアピールしてみたり、独自ストア内で「お勧め」としてプッシュすることで露出を増やすなどしています。TSUTAYA GALAPAGOSでは、芥川賞作家の平野啓一郎氏が自身初の長編恋愛小説となる「かたちだけの愛」を紙版と電子版を同日公開することをアピールしていますが、これらもプラットフォームにユーザーを集めるための施策の1つであるといえるでしょう。

 こうした背景もあり、最近では、出版社がストア型アプリを発表したり、ストア型アプリのソリューションを提供する企業も登場してきました。大日本印刷が子会社のDNPデジタルコムと共同で発表したビューア内蔵型電子書籍ストアアプリもそうしたものの1つといえます。

tnfigef5.jpg Digital Publishing Suiteで制作された「HEADPORTER MAGAZINE VOL.1 for iPad」。国内で配信されるものとしては初となる

 ストア型アプリのソリューションは、バックエンドである配信システム、さらには制作の部分までカバーできるようなシステムが1社から提供されるのであれば魅力的ですが、現状ではそうした総合的なソリューションはまだ数が少ない状態です。アドビシステムズが来春にリリース予定の「Digital Publishing Suite」は、分析の機能も備えた総合ソリューションとして注目されており、国内でもヘッド・ポーターのファッションブランド「HEADPORTER」が同ソリューションを用いたビジュアルマガジン&カタログ「HEADPORTER MAGAZINE VOL.1 for iPad」の提供を開始しました。

 また、IT業界の巨人である日本IBMも、印刷/出版事業を手掛ける廣済堂と共同して、電子出版事業を総合的に支援するクラウドサービスを2011年春から提供することを発表しています。巨人が乗り出したということは、それなりに有望な市場であるという見方もできそうです。

 このほか、制作側の動きとして、暁印刷と豊国印刷が共同で発表した「e-BookDigital Factory」構想も注目されます。いわゆる中堅の印刷会社である両社は、電子書籍制作ラインのインフラ部分を共通化することで、電子書籍制作のニーズに幅広く応える体制作りを進めています。豊国印刷は講談社のグループ会社で、いわゆる音羽グループに属する企業ですが、グループを越えて積極的に活動する傾向を示している印刷会社の1つです。

クリスマス商戦真っただ中の北米市場、Google Editionsも今月スタート?

 一方、海外に目を向けると、クリスマス商戦で各社がしのぎを削っています。Kindleを擁するAmazon.comやnookを擁するBarnes & Noblesは、数量限定ながら整備済み中古品を100ドル以下で放出するなど、激しい値引き合戦に突入しています。Amazon.comは、電子書籍をプレゼントできるサービスを開始しています。こうした米国における電子書籍事情については、ジャーナリストの鈴木淳也氏が、3回に分けて詳細なレポートを残しているので、興味のある方はご覧いただければと思います。

 こうした海外のプラットフォーマーは、日本国内でもサービスを展開すべく、国内の出版社などとも交渉を重ねているとされていますが、例えばKindle Storeで年内に日本国内のコンテンツを扱う可能性は限りなく低いといってよいでしょう。また、Appleも12月中に継続課金を可能にするサブスクリプション方式に対応したiOS 4.3のリリースを予定しているとされますが、国内の電子書籍に関して言えば、これが活用できるかどうかは分かりません。とはいえ、App Storeで提供されている電子書籍アプリをサブスクリプションするというケースは考えられるので、iOS 4.3のリリースに合わせて国内でも新しい動きが起こってくるかもしれません。

 一方、Googleは少し動きを見せています。GoogleのChromeチームは、HTML5の技術を用いて作成した電子書籍「20 Things I Learned About Browsers and the Web」を公開していますが、より注目したいのは、11月末に開催された「Futurebook 2010」でGoogleのスコット・ダゴール氏が電子書籍を販売する「Google Editions」を12月中に開始することを明らかにした点です。とはいえ、12月にスタートするのは米国のみで、それ以外の国については2011年第1四半期以降に随時開始予定とされており、本格的に話題となるのはもう少し先となりそうです。

漫画家・赤松健氏が取り組む「Jコミ」に注目

 このほかの大きな動きとしては、出版社以外から電子書籍市場に少なからぬ影響力を与えつつある「パブー」の事業を推進する吉田健吾氏がインタビューに答えています。同社が考えるブログの延長線上にある電子出版の形がおぼろげながらうかがえる興味深い内容となっています。

 また、「魔法先生ネギま!」や「ラブひな」などの作品で知られる赤松健氏が進めている新たな取り組みが注目されています。同氏は、絶版のコミックを広告入りのDRMフリーなPDFとして配信するモデルを実行に移し始めました。それが「Jコミ」というサイトです。仕組みとしては、すでに絶版となっているコミックについて、その著作者に許諾をもらい、広告入りのDRMフリーなPDFとして無料で配布するというものです。すでに絶版となっているわけですから、出版社にとっては必ずしも不利益な話ではありませんし、著作者からすれば、絶版となって印税収入などが得られなくなった作品から再び利益を得ることができます。

Jコミ 絶版コミックを広告入りのPDFファイルにして無料で配布する漫画共有システムで新たな風が吹くか(Jコミのサイトより)

 11月26日にJコミから配信が開始されたのは、赤松氏の作品である「ラブひな」全巻。数日で100万を優に越えるダウンロードがあったようで、アフリエイト収入もかなり発生した様子が赤松氏のTwitterからはうかがい知ることができます。こうした取り組みは出版社との関係が注目されますが、赤松氏がTwitterにPOSTした内容からは、講談社や小学館がこの取り組みに好意的な様子がうかがえます。今後、ファンが作者を支えるモデルが構築されるのか、非常に注目される動きです。


 電子書籍元年と呼ばれることもある2010年も、残すところ1カ月となりましたが、12月の電子書籍市場もまだまだ多くの発表であふれかえることでしょう。まずは12月10日に発売されるReaderとGALAPAGOSが日本の電子書籍市場にとってのクリスマスプレゼントとなるのかどうかを注意深く見守りたいと思います。

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