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» 2010年11月19日 10時40分 UPDATE

eBook Forecast:11月前半の注目すべき電子書籍市場動向

「忙しくて電子書籍の最新動向がチェックできない。でも気になる」――そんな方のために、週刊と月刊の2本立てで電子書籍に関するトピックスをまとめた形でお届けする連載「eBook Forecast」。今回のみ特別編として、11月前半の電子書籍市場動向をまとめたものをお届けします。

[前島梓,ITmedia]

 本連載は、日々忙しい皆さまに、週刊と月刊の2本立てで電子書籍に関するトピックスをまとめた形でお届けするものです。今回のみ特別編として、11月前半の電子書籍市場動向をまとめたものをお届けします。

村上龍氏など、作家個人で電子書籍を配信する流れが――出版社はどうなる?

村上龍 村上龍氏。G2010設立記者会見で「変化は自分たちで作り出せると考えている」と抱負を述べた

 電子書籍市場にとっての11月は、衝撃的なニュースでその幕を開けました。この日、帝国データバンクは、出版業界の2009年度決算調査を発表。出版社の売上高上位10社のうち8社が減収、出版、取次、書店の3業種とも、2期連続減収の企業が2期連続増収の企業を上回っており、「出版業界総倒れの様相を呈している」とリポートしました。ITmediaでも「出版大手10社中8社が減収に 『出版・取次・書店総倒れ』 帝国データバンク調査」で取り上げられていますが、出版業界が冬の時代に入っていることを感じさせられます。

 出版業界も電子書籍への取り組みを積極的に推進している中、これまで出版社が育ててきた作家だけでなく、個人が電子出版する流れも加速しつつあります。11月4日には、有名作家の村上龍さんが電子書籍制作・販売会社「G2010」を設立、よしもとばななさん、瀬戸内寂聴さんといった名だたる作家を加え、作品を電子書籍で配信していく意向を表明しました。今後1年で20作品を刊行し、初年度の売り上げは1億円を目指すというG2010の設立記者会見は「『電子書籍は文字文化の革命』――作家・村上龍さんが電子書籍会社設立」でまとめられています。「変化は自分たちで作り出せると考えている」と話す村上龍氏、表現者としての作家が、より厚みのある表現が可能な電子書籍に、当面は利益度外視で臨む姿勢を見せています。

 同様に、ITジャーナリストの佐々木俊尚さんがパブーで電子書籍の販売に乗り出したのも注目したい動きです(『パブーで佐々木俊尚氏の有料メルマガと新刊が電子書籍化』)。Amazon DTPが本格的に上陸する前に国内の個人向け電子出版サービスの地位を着々と固めているパブーですが、このプラットフォームで電子書籍を販売する著名人が増えてくれば、その地位がより強固なものとなるでしょう。

 村上氏や佐々木氏の動きは、出版社にとっては自らのビジネスに少なからぬ影響を与えていますが、より重要なのは、一定の利益を出すことが求められる出版社のビジネスが、少ないリスクで電子出版する個人を競合として迎えなければならない点にあります。

 今後、出版社がエージェントモデルのような戦略で作家を確保するのか、それとも既存ビジネスの延長で電子書籍市場に臨むのかが注目されますが、例えば講談社が著者に対して送った「デジタル的利用許諾契約書」では、著者印税が卸値に対して25%と明示されていることが、漫画家の鈴木みそさんなどがTwitter上で明らかにしています。「『デジタル的利用許諾契約書』講談社は基本25%を提示」でまとめられています。

電子ペーパーもカラー化へ、Kindleのカラー化はあるか?

カラー電子ペーパー カラー電子ペーパーを採用した中国Hanvon Technologyの電子書籍端末

 すぐに市場に登場するわけではありませんが、電子ペーパーのカラー化も進みつつあります。11月初旬に幕張メッセで開催された「FPD International 2010」では、電子ペーパーの市場でトップシェアを誇るE Inkが新たに発表したカラー電子ペーパー「Triton Imaging Film」を採用した電子書籍端末を中国企業が展示していました(参考:スクリーン競争が再び激化か? カラー電子ペーパー採用の電子書籍端末が多数登場)。市場への投入は2011年春ごろから進む予定で、E Inkの電子ペーパーを採用しているAmazonのKindleなども近い将来、カラー電子ペーパーが採用されると思われます。

 カラー電子ペーパーが登場すれば、グレースケールのままでは表現力に欠けるイラストなども積極的に使っていけるでしょうから、Kindle Storeの品ぞろえとして雑誌などが登場することも考えられます。実際、Amzonは新聞や雑誌、ニューズレターなどの定期刊行物を発刊している出版社や団体向けの電子出版サービス「Kindle Publishing for Periodicals」を発表しています。併せて、売り上げの70%を出版社に分配することも発表されましたが、日本の出版業界との交渉が進んでいないためか、Kindle Storeの日本上陸はまだめどが立っていない状態です。

電子書籍の配信プラットフォームも各社が整備中、注目は角川グループホールディングス

 電子書籍市場に対する作家の動きと平行する形で、作品を販売するプラットフォームの整備も各社が急ピッチで進めています。特に、携帯3キャリアについては、10月に発表を行ったKDDIに続き、11月4日にソフトバンクが、11月8日にNTTドコモが相次いで冬春モデルを発表し、携帯電話あるいはスマートフォンを核とする電子書籍ビジネスの姿がかなり明らかになってきました。キャリアの電子書籍ビジネスについては、以下の記事でまとめられています。

 このほか、理想書店を運営するボイジャーも、テナント出店型の電子書籍ストア「Voyager Store」の立ち上げを発表しました。こちらは11月18日から立ち上がっています。

 こうした中、角川グループホールディングスが10月末に発表したドワンゴとの包括的な業務提携が話題となっています。角川グループでは、電子書籍プラットフォーム「Book☆Walker」を2011年7月をめどに立ち上げる予定で、12月からiPhone/iPadアプリの形態でコンテンツの販売を開始します。

 注目したいのは、やはりドワンゴの存在です。Book☆Walkerでは、複数の電子書籍ビューワを用意する予定であることが明かされていますが、そうした電子書籍ビューワの1つとして、ドワンゴが開発中の「ニコニコビューワ(仮称)」にユーザーの期待が集まっています。

 角川グループとドワンゴの動きは、なかなか野心的です。紙媒体から電子媒体の変化は量的な変化だといえますが、質的な変化として、例えば、その読書体験を手軽に共有しやすくなることなどが挙げられます。AmazonのKindleでは、電子書籍の内容に対してユーザーがアンダーラインを引き、それを共有できる「ポピュラーハイライト機能」が用意されています。ニコニコ動画さながらに、電子書籍のコンテンツとユーザーのコメントを合わせて楽しめるニコニコビューワ(仮称)は、こうした「ソーシャルリーディング」を日本流にアレンジしたものだといえますが、これが日本の電子書籍市場にかなりのインパクトを与えるのは間違いないでしょう。

電子書籍端末は選択肢が豊富に

tnfigebook2.jpg DELL Streak Softbank 001DLをはじめ、タブレット端末も選択肢が豊富に

 最後に、電子書籍端末/タブレットの最新機種についても触れておきましょう。11月に入って発表された電子書籍端末としては、NTTドコモの発表会で披露されたシャープ製の電子書籍端末「ブックリーダー SH-07C」が挙げられます。

 SH-07Cは、シャープが12月に販売開始予定の電子書籍端末のうち、5.5型モバイルモデルを3G対応させた製品ですが、シャープの電子書籍ストア「TSUTAYA GALAPAGOS」のほか、NTTドコモが展開予定の電子書籍ストアが利用可能になる予定で、幅広いコンテンツを楽しめる電子書籍端末になりそうです。

 一方、タブレットについては、KDDIがサムスン電子の7型タブレット「SMT-i9100」を、NTTドコモが同じく7型タブレット「GALAXY Tab」をすでに発表していますが、11月に入ってソフトバンクから「DELL Streak Softbank 001DL」としてDellの5型タブレット「Streak」が発売されることが明らかになりました。なお、NTTドコモは年度内にもう1機種タブレットを発売予定としており、発表会ではシルエットが披露されています。GALAXY Tabよりも大きく、iPadに近いサイズのタブレットになりそうです。いったいどこのベンダーのタブレットなのでしょうか。期待が膨らみますね。

 キャリア以外から販売されるタブレットでは、マウスコンピューターから発売される「LuvPad」も話題を集めています。いずれもAndroidタブレットで、Flashの再生などもサポートするということもあり、ライトユーザーを中心に、ノートPCからの買い換えなども増えてくるでしょう。

 このほか、今回は扱いませんでしたが、電子書籍のファイルフォーマットについてもさまざまな動きが起こっています。例えば、EPUBでは縦書きやルビ、禁則処理などの機能がサポートされることがほぼ確実視されています。また、国内では、政府を交えて電子書籍中間フォーマットの策定にいそしんでいます。もっとも、後者は行政刷新会議による「事業仕分け第3弾」で、予算計上見送りの判定が下されるなど、先行きは極めて不透明な状態にあります。この動向については次回取り上げたいと思います。

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