「日本の出版文化守りたい」 DNPと凸版の電子書籍業界団体にドコモ、東芝など参加

DNPと凸版印刷が発起人となって発足した電子書籍業界団体に、ドコモ、東芝、電通など89の団体などが参加。「日本の出版文化を残しながら、電子書籍ビジネス発展のための環境作りを行う」としている。

» 2010年07月27日 20時11分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 左から、協議会代行理事で凸版印刷トッパンアイデアセンターマーケティング本部長の名和正道さん、協議会副会長で凸版印刷の大湊満常務、協議会会長でDNPの高波光一副社長、協議会代行理事でDNPの北島元治常務

 大日本印刷(DNP)と凸版印刷の2社を発起人とする電子書籍の業界団体「電子出版制作・流通協議会」が7月27日、正式に発足した。新聞社や印刷会社に加え、東芝などメーカーや、NTTドコモなど通信業者、電通など広告代理店を含む89の企業・団体などが参加。「日本の出版文化を残しながら、電子書籍ビジネス発展のための環境作りを行う」としている。

 参加するのはこのほか朝日新聞社、毎日新聞社や、トーハン、日本出版販売など取次、ヤフー、ヤッパ、NTTコミュニケーションズ、UQコミュニケーションズなどネット・通信、モリサワ、大日本スクリーン製造といったフォントメーカーなど幅広い。メーカー系はパナソニックや富士ゼロックスなどのほか、富士通も参加を予定。ソニーやシャープも参加を検討しているという。講談社や集英社など大手出版社は現在のところ、参加していない。

日本独自の水平分業モデル構築へ

 協議会傘下に、電子書籍の規格や仕様を検討する「技術委員会」、プラットフォームやビジネスモデルを検討する「流通委員会」、著作権などについて検討する「知財委員会」などを設置。検討結果を関係省庁や業界に提言する。

 「電子書籍は独自の規格や仕様で作られており、ISBNのような統一コードもない」と、協議会会長でDNPの高波光一副会長は指摘。縦書きやルビ、日本語に合った組版など、日本の出版文化に合った規格を検討し、「いつでもどこでも、あらゆる形態で電子書籍が読める」(協議会代行理事でDNPの北島元治常務)環境作りを目指す。

 大手出版社が参加する「電子出版社協会」(電書協)など、電子書籍の規格を検討している業界団体とも話し合いながら進めていく考えだ。「電子書籍の規格は、DTPの導入などでデジタル化が進んでいる印刷会社で話し合ってほしいという出版社からの要望もある。海外への配信や、海外書籍を日本の読者が読むことも想定し、ほかのフォーマットに簡単に変換できる仕組みも必要だろう」(北島代行理事)

 ビジネスモデルは、「日本独自の文化や商習慣を踏まえた水平分業型」(副会長で凸版の大湊満常務)で検討。米AppleやAmazon.comのように、書籍データの配信・流通から端末販売まで1社で手掛ける垂直統合型とは異なり、作家や出版社、印刷、取次、書店、メーカーなどさまざまな事業者が参加する、水平分業型モデルの構築を目指す。

 電子書籍に関する情報交換も行うほか、セミナーを実施するなどして活動内容を広く外部に告知。電子書籍に関する啓発活動も展開する。

「日本の出版文化が失われる可能性がある」

 電子書籍ビジネスではAppleやAmazon.comなど海外勢が先行しているが、「出版・印刷業界でこれ(AppleやAmazonのモデル)が中心となると、組版の文化など、日本の特殊性が失われる可能性があるという危ぐがある。海外の会社を排斥するのではなく、日本の文化を守ることが目的」と、高波会長は協議会の狙いを話す。

 電書協など出版社の業界団体がすでに複数ある中で、印刷会社が中心となって業界団体を設立したのは、「30年以上にわたる、出版のデジタル化の経験が、業界の役に立つ」と考えたためという。

 「通常の印刷工程の中で、電子出版データを作ることができるのが印刷業界。日本の文化を守る手助けをしたい。DNPと凸版はライバル企業だが、印刷業界として出版社と培ってきた信頼関係の中で、より良い流通を実現できる」(高波会長)

 大湊副会長は「裏方だった印刷会社の悲願として、1度は表舞台に出てみたかった……ではなく、デジタル出版で培ってきたいろいろな技術が生かせると考えたため」発起人となったと、ジョークを交えて話していた。

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