「元素図鑑」はハリー・ポッターの世界を目指してつくられた「元素図鑑」作者インタビュー(前編)(1/4 ページ)

一見すると退屈な周期表を、まるで魔法のように魅力的なコンテンツに変えたiPad向け電子書籍「元素図鑑」。その開発者であるセオドア・グレイ氏に話を聞いた。

» 2010年07月23日 16時30分 公開
[林信行,ITmedia]
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元素図鑑

 iPadは、スマートフォンでもなければ、Netbookでも、電子書籍端末でもない。これまでになかった、まったく新しいカテゴリーのデバイスだ。

 そのまったく新しいカテゴリのデバイス上で、これまでになかった新しいメディアがいくつも誕生し始めている。その中でも、大きな可能性を感じさせてくれるのがエレメンツ・コレクション社の「元素図鑑」だ。化学の周期表という、多くの人にとっては退屈なものを、紙の本では表現できないインタラクティブな写真やおもしろいストーリーで、とても魅力的な世界に変えてしまった。そのユニークな元素図鑑がどのように誕生したのか。作者のセオドア・グレイ氏(THEODORE GRAY)に話を聞いた(聞き手:林信行)

目標はハリー・ポッターの世界

――日本でも大人気のiPadアプリケーション「元素図鑑」ですが、人気の秘密は何でしょう。

セオドア・グレイ氏

グレイ 我々がこの本を作るときに目標にしたのはハリー・ポッターです。もし、ハリー・ポッターが通う魔法の学校「ホグワーツ」の図書館に「元素図鑑」があったら、どんな本でしょうか。

 おそらくどのページをめくっても文字と写真だけの退屈な本にはならないはずです。例えば水素の説明では、本の上に小さな太陽の立体映像が浮かび上がって、小さな爆発をつづけている様子が確認できたり、本の上の泡が浮かび上がってははじけていく――おそらくそんなイメージではないでしょうか。そこで我々は、いまできる範囲で、そのイメージに最も近い本を作ることを目指しました。

 我々の元素図鑑では、例えば水素が爆発する様子も、画面を指でなぞるだけで自由に時間を進めたり、巻き戻すことができ、お気に入りの瞬間で止めることも自在です。3Dメガネをかけることで、オブジェクトを本から浮かび上がらせ、その上で自由に回転させることもできます。


――そういえば、iPad版に続いてiPhone版も出ましたね。これはどこか違う部分があるのでしょうか?

グレイ まず1つはレイアウトですね。新しいiPhone 4は画面解像度が向上し、iPad版のレイアウトに近い状態でそのまま表示させることも可能でしたが、我々はそれはせず、iPhone 4の画面サイズにあわせて1からページをレイアウトし直しました。

 それからもう1つ、おもしろい仕掛けもあります。こちらのiPhone 4で元素図鑑のオブジェクトを表示させたので、これを手に持ったまま、椅子をクルっと回転させてみてください。

――これは凄いですね! 椅子の回転にあわせてオブジェクトが回転しました。

グレイ そうです。iPhone 4から新たにジャイロスコープ機能が搭載されました。我々は、なんとかこれを使う方法がないかと考えていました。「ジャイロスコープを使えばiPhone 4本体の回転が検出できる」「我々の図鑑のオブジェクトは回る」ということで、この2つを結びつけることにしました。1時間ほどのプログラミングで実装できました。このアプリケーションを入れたiPhone 4を子どもに渡しておくと、決まって30秒もしないうちに目を回し始めますね。アップルの取締役たちもそうでした(笑)。

子どものころに欲しかった!

――本当に見ていて楽しい本ですが、評判はどのような感じでしょう。

グレイ 読者の感想はおおむね好評です。最初のころはメモリが足りずにiPadの再起動が必要になるという不具合もありましたが、今ではそれもアップデートで直り、いいコメントをたくさんもらっています。

 最も多くもらうコメントは2種類あります。1つは「自分が高校生のときに、こんな本があれば!」というもの、もう1つは「我が家の15歳の娘は化学が嫌いだったけれど、今ではこのアプリケーションのおかげで化学に興味を持つようになった」というものです。

――実際にこの本を教科に取り入れるような学校もあるのでしょうか。

グレイ この本は教科書になることを目指したのではありません。むしろ、子どもたちを豊かにする本として学校の図書館に置いてもらってに自発的に読んでもらったり、両親から買い与えてもらう本、というポジションを狙っています。

 そうやって人々に読んでもらうことで、それまで退屈だと思っていた化学の世界が、本当は奥が深く楽しいモノだと発見してもらったり、人々に何か新しいインスピレーションを与えられればと考えています。

 もしこれが教科書に選ばれたり、政府公認のカリキュラムに組み込まれたら、急に退屈になって誰も読まなくなってしまうでしょう。

 私は以前、オライリー社から「Mad Science」という本を出しました(日本語版「マッドサイエンス 炎と煙と轟音の科学実験」)。こちらも炎や爆発など、危険な実験ばかりで、およそ子どもたちの教科書としては勧められないモノですが、それでいて化学について関心を持ってもらうのには役立てたのかなと思っています。

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